Anaphylaxis

1. アナフィラキシーとは

 1902年フランスの生理学者シャルル・リシェーによって提唱されたものです。予防のために(抵抗力をつけるために)注射されたある物質を、再び注射するとかえって激しい症状を起こしてしまうことから、抵抗(フィラキシー)の反対(アナ)という意味でつけられた言葉。無防護とか失護という意味があります。
 劇症型のアレルギーとしてこの言葉が用いられる場合は、「原因となるものを食べたり、触ったり、吸い込んだり、注入されたり(虫刺されや注射)することによって体内に入れた時に、突然、短時間のうちに、全身に及ぶ反応が進むこと」を言います。そして、それによって急激に血圧が下がってしまい、生命の危機を伴う時には“アナフィラキシーショック”と呼ばれます。

※アレルギー学会のアナフィラキシー症例の定義
   ショック状態、つまり血圧の低下など循環器症状を伴うもの
※坂総合病院のアナフィラキシー症例の定義
   (子どもの場合は特に)血圧の低下を確認することは難しいので、視診で確認できる全身に浮腫・紅斑を生じたもの
2.アナフィラキシーでどんな症状を起こすのか?

 角田先生の『アナフィラキシーに負けない本』には、“アナフィラキシーの症状”として、「じんましん、最初に顔面蒼白、全身の紅斑・紅潮(赤くなる)、全身の浮腫(むくみ)、吐き気、嘔吐、下痢・腹痛、血便、咳、喘息、喉頭の浮腫(むくみ)、呼吸困難、胸痛、動悸、不整脈、めまい、頭痛、血圧低下、意識喪失・意識混濁、けいれんなど」と書かれています。
 角田先生が診察された多くのアナフィラキシーの症状は、“じんましん”から始まっていたようです。当店のお客様のお話をお聞きしていますと“じんましん”を起こした経験のある方が非常に多いのです。でも、「じんましん起こしちゃった。ヘヘヘ」と、笑って済ませているのです。
 私は、「何の症状でも起きるからには原因がある」と思っています。じんましんが起きるのも何らかの原因があるはずです。アナフィラキシーの初期段階の“じんましん”でないことを祈るのみです。

3.アナフィラキシーを起こす原因にはどんなものがあるのか?

 原因は様々ですが、大きく分けると@食品、A薬品・化学物質、B虫や動物による刺傷・咬症の3つ。
@角田先生の外来で経験したアナフィラキシー109例、141件の中で、食べものが原因物質だと推定できた件数は、0歳で85.7%、1〜11歳で86.0%、12〜20歳で66.7%、21〜77歳で57.4%だったそうです。
 この中で原因として推定できたものは、牛乳が32件、小麦43件(但し、この中には1人で9件のアナフィラキシーを起こした女性と、5件の起こした男性が含まれています)、卵20件、ピーナッツ5件、ソバ、ラパス貝(チリ産のアワビ)各4件が上位でした。
 低年齢では卵、牛乳、小麦が多く、12歳以上では小麦の場合が多い。
 最近では小児を中心に魚や貝のアレルギーが増えています。魚貝によるアナフィラキシーは今後増えていくと予想される。
 40歳以上の成人では、魚類やイカを食べてアナフィラキシーを起こした場合でも、魚やイカが原因ではなく、魚の寄生虫アニサキスが原因と考えられる場合が目立っていたそうです。
 坂総合病院に入院した各科の患者さんを含めた102症例で見ると、11歳以下では約9割が食品、残りの1割は薬剤が原因でした。12歳以上では、約6割が食品、4割が薬剤(内半数が解熱鎮痛剤、3割が抗生物質)で、ハチ虫刺症もありました。年齢が高くなると薬剤が原因の例が増える傾向があります。
  −データーは古いのですが、参考例として先生の『アレルギーっ子の生活』第6章の06-0306-05ページをご覧下さい−
Aアスピリンやジクロフェナックナトリウム、アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛剤又はそれらを含む総合感冒薬等を服用中にアナフィラキシーを起こした例は、アレルギー外来の109例中、14例20件(18%)でした。発症件数は年齢が高くなるにつれて増え、12歳以上の入院症例では、75件中、18件(24%)が解熱鎮痛剤でアナフィラキシーを起こしています。
・アルコール・お酒の悪影響
・予防接種−本物の感染症にかかる心配と予防接種で起こるかもしれない副作用とをてんびんにかけて決める。
   副作用−注射した場所の腫れ、じんましん、アナフィラキシー、喘息発作、アトピー性皮膚炎の悪化など
   ゼラチン(殆どが牛の骨から)が含まれている−麻疹、水痘、おたふく風邪、三種混合、日本脳炎、ポリオなど
   その他−麻疹(ニワトリ胚)、ポリオ(ミドリザル腎)、風疹(ウズラ胚又はウサギ胚)、おたふく(ニワトリ胚又はウサギ
         胚)、水痘(ヒト2倍体細胞)、日本脳炎(マウス脳)、インフルエンザ(鶏卵漿尿膜)など
         抗生剤、防腐剤など

予防接種の副作用を予防するために
@牛乳(牛由来物質)や卵(鶏由来物質)にアレルギーがあったり、アナフィラキシーを起こしたことがある場合は、皮膚テストをして摂取できるかどうか確認する。
A小学生以上の子どもの場合、水痘やおたふく風邪、風疹は知らないうちに感染していることがあります。アレルギーがひどく副作用が心配な場合は、血液検査をして既に感染しているかどうか調べる。感染している証拠(抗体価の上昇)があればう棒摂取は受ける必要がない。
B坂総合病院では、アレルギー的に良い状態にある時に、皮膚試験後予防接種を行なうようにしている。予防接種に含まれる様々な成分によるアレルギー反応も、他のアレルギーとの重なりがなければ副作用を起こしにくくなると思われます。
4.アナフィラキシーはどんな場合に起こすのか?

食べものが原因でアナフィラキシーを起こした82人の内
・知らないで食べて起こした場合
     −66人は、自分にアレルギーがあるとは知らなかった。
        内52人は、食事療法や生活環境の整備の指導を受けたことがなかった。
       乳幼児の場合は、殆どの場合「知らないで食べて」しまいます。家族歴がなく、初めてのお子さんの場合には、
        余程知識があって、普段から注意できなければ、残念ながら予防することは困難です。
・食べてはいけないのに、食べたくなる場合
     −体の具合が悪くアナフィラキシーを起こしやすい状態になると、アレルギーの原因となる食べてはいけないものを
        無性に食べたくなり、食べてしまった。
・「大好きなもの」を食べ続けて突然起こる場合
     −軽いアレルギーの原因になるものは、食べ続けていても激しい症状を起こすことがなく、「大好きなもの」だと思っ
        ていることがあります。しかし、そのまま食べ続けていると、他の悪い条件が重なった時に起こしてしまう。
・周囲の理解不足で、間違って食べてしまった場合(事故)
     −卵とタラのアレルギーがある子が、近所の子が食べていたかまぼこをもらって食べてしまい起こした。牛乳に強い
        アレルギーがある孫に、普段は一緒に住んでいない祖母が「大丈夫だから」と勝手に思い込んで、飲むヨーグ
        ルトを飲ませてしまい、アナフィラキシーを起こした。

 当店が受けた相談や経験したことから幾つか例を挙げます。
@高校1年生の男子。家で食後のデザートとしてキウイフルーツを食べて呼吸困難。本人は「絶対キウイフルーツだ」と確信していたが、母親は「ビタミンCは豊富だし、果物でそんな風になった人がいるなんて聞いたことがない」と、再度無理やり食べさせた。学校で気分が悪くなり、吐き気と呼吸困難を起こした。「本当にそんなことがあるのでしょうか?」と電話で相談を受け、「あります」と答えました。
A9ヶ月のお子さんに「生卵のぶっ掛けご飯」を“離乳食”として食べさせたところ、約15分後に吐いた。何度か試したが、いつも同じように吐く。病院に連れて行ったが原因は判らず、お医者様からは「卵が合わないようだからなるべく食べさせないように」と言われたとのこと。「どうしたら良いでしょうか?」との相談の電話を受けたので、「吐く前にはぐったりしていませんか? 元気がなくなっていませんか?」と尋ねたところ、「元気がない」「疲れて寝ていると思った」との返事。「吐いていたから命が助かっていたが、きっと吐かなかったら死んでいたかも」と話し、角田先生の受診を進めた。検査には反応が出なかったが、角田先生の判断も同じで、「卵は厳禁」と言われたとのこと。
B角田先生が出演されたビデオにアナフィラキシーを起こした患者さんとして出ていたのが当店のお客さんでしたので、来店した時に「どうしてアナフィラキシー起こしたんだ? うちで買ったもので起こしたんか?」と聞いたところ、息子さんの3歳の誕生日にお母さんが別の店で買った(当店では扱っていないものだったので)アレルギー用の食材を使って“ケーキ”を作り食べさせたところ、すぐに喉をかきむしり、苦しがったそうです。商品の裏に表示されていた材料は今までにも使って大丈夫だったので、「これなら大丈夫だろう。メーカーも安心できるところだから」と、油断してしまったようです。材料を単品で購入し自分で混ぜて作る場合と、メーカーが「○○の素」のように、ある程度材料を合わせてくれたもので作る場合とでは反応の出方に違いがあることが往々にしてあります。この後、お母さんは我が子からは「お母さん、もうあんなもの食べさせないでよね。本当に苦しかったんだから」と言われていました。
C小麦に強いアレルギーがある我が子に、小麦が使われているアレルギー用のカレールゥを買ってしまい(お母さんの確認不足、お店の人の認識と確認不足)、そのカレーを食べさせてアナフィラキシーを起こした。

・もう「大丈夫だ」と思って食べて起こる場合(除去食の解除中及び負荷試験中)
    −治療の効果が出、良くなって来たために、少しずつ回数を重ねて食べ、もう大丈夫だと安心してしまった頃。
・普段は何でもないが、色々な悪い条件が加わると起こる場合
    −中学生や高校生以上の年齢になると、ある食品単品ではアナフィラキシーを起こすことは少なくなります。しかし、
       軽いアレルギーの原因物質で、いつもは食べても症状が起こらないものでも、悪い条件が重なると起こす。
   @花粉症(特にカモガヤなどのイネ科の花粉に注意)の時期、ダニ・カビのアレルギーなど他のアレルギーを起こしている
   時
   A新学期、新入学、就職など生活が急変した時
   B部活やスポーツ、仕事などで疲れがたまっている時
   C寝不足の時
   D発熱や咳など感染症を起こしている時、特に、下痢・腹痛・嘔吐などの腸の病気を起こしている時
   E解熱鎮痛剤の服用時
   Fアルコールを飲んだ時
   G腸内細菌叢が乱れている時

5.アナフィラキシーを起こしてしまったらどうしたら良いのか?

 重症で急激に進行するアナフィラキシーを起こした場合、その対応が迅速で適切であれば生命を守ることが出来ます。命に関わる症状は、突然起こる呼吸困難(喉が腫れて呼吸が出来なくなってしまう咽頭浮腫、気管支喘息、吐き出したものでの窒息)と血圧の低下(ショック)、けいれん、不整脈(脈が乱れて脳に血液が送れなくなる)です。

 @原因となるものを取り除く−食べたもの=吐き出させる※1(吐物が気管に入り込まないように注意※2
                   −触ったもの=拭き取る、洗い流す

※1 吐かせない方が良い時−吐いた物を気管内に吸い込んでしまう可能性が高い時
                 アナフィラキシーがかなり進行し、気道が狭くなり呼吸が苦しい時
                 意識がないか低下して朦朧としている時               
※2 寝転んで身体を横に向ける(顔だけ向けてもダメ)
かがみ込ませて顔を下方に向ける

 A人を呼び集める−これから先、何が起こるか判らないので
 B寝かせて安静にさせる−原因物質を取り除いたら衣服を緩め、仰向け又は横向きにして寝かせる
                 意識がおかしい時は血圧が下がっている場合があります。足の下に何か物を置き、両下肢全体
                 をやや高くして下さい。足の血液が身体の方に回って血圧が少し改善するかもしれません。
 C薬※3を飲む−飲める状態ならすぐに薬を飲む。吐き気がある場合や意識状態が悪ければ無理。
           これらの薬は今ある症状を改善させるためではなく、これから起こる又は悪化すると思われる症状を予防
           するためのもの

※3 気管支拡張剤、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、漢方薬、アナフィラキシー対策のために常備していた副腎皮質ホルモン剤など
(詳細は、角田先生著「アナフィラキシーに負けない本」参照)

 D薬を吸入する−吐き気があっても使えるが、吸入液にも保存剤が使われているため、事前に使えるか確認しておく。
          自己注射の場合は一定量を注射してしまうと回収が不可能だが、吸入の場合は即座に中止できる。
           エピネフリン(ボスミン®)の吸入は30分ほどで効果が切れ再度症状が悪化する(リバウンド)があります。
 E自己注射する−何回もアナフィラキシーを繰り返す場合は、事前に医師と相談の上、エピネフリン(ボスミン®)を自己注
          射できるように訓練しておくことも必要になるが、いつ使うか、一回に使う量はいくらかなど詳しく正しい使
          用方法に習熟しておく必要がある。
           アナフィラキシーを起こした時の自己注射用の携帯装置(エピペン®やアナキット®など)は我が国では一般
          には販売されていませんが、林業従事者のハチ刺されによるアナフィラキシーショック予防のために特別に
          輸入され、一部使用されていますが、一般には認められていません。
 F病院へ搬送−アナフィラキシー症状がどんどん進行する場合は、即病院に向かいます。
          重症で、1人しかいない場合は救急車を利用します。
 G救急蘇生−アナフィラキシーを起こし重症になった場合、脳組織その他臓器に血液が行かなくなる状態が20〜30分続き
         ます。5分以上脳への酸素の供給が途絶えれば、回復は見込めなくなる。この状態から抜け出るためには、人
         工呼吸※4と心マッサージ※5しかない。−「ABC救急蘇生法」−

※4 呼吸が出来ない又は呼吸をしていない時
※5 脈が触れず、意識がなくなった場合

 Hアナフィラキシーの反応には“山”が2つあります。数時間後に即時型の反応が治まった後も安心せず、その直後から始
  まる遅延型の反応※6(かくれ型)に注意を払って下さい。

※6 一度治まった症状が再び出る
尿の出方が悪い
意識がおかしい
6.アナフィラキシーを起こさないためには?

 @過去にアレルギーの原因となっていた食品やその他の物質は極力避ける。
 A日本人らしい食生活・生活環境を実現する
 Bダイオキシン、環境ホルモン、活性酸素、遺伝子組み換え食品、食品添加物などを避ける
 C腸内細菌叢を正常に保つ
 D規則正しい生活で、心も身体もリフレッシュ
 Eストレスをためない。ストレスを楽しむ
 F“普通”を求めない。Going my way!
 G病気をよく判っているご両親が、事故を予測して適切な対応を準備する必要がある
    おやつは、食べられるものを持たせてから実家や知人・友人宅に預かってもらう
    幼稚園や保育所、学校などの集団生活の場では、事前に先生達と相談しておく
    自宅には、アナフィラキシーを起こす原因となる食べものやその他の物質は置かない
 H理解者、協力者の開拓
 I子ども達にアレルギーに負けない“夢”や“希望”を持たせてあげられるように

7.いっぽから一言

  よくお母さん方から「何で市販されているものは食べられないんでしょうかネ?」と聞かれます。最近では、「アレルギーの子が増えてきた」、「その子達は今までのお菓子では食べられないそうだ」という認識がメーカーにも芽生えて来ましたので、色々なメーカーが“アレルギー対応”を謳った商品を作ってくれるようになりました。
  しかし、残念ながら、アレルギーっ子自身やアレルギーっ子を持つ親御さん達の希望や願いには中々適うものが出てきません。それは(仕方のないことですが)偏にメーカーがアレルギーっ子達を商売の対象としてしか見ていないことの現われです。
  「これはアレルギー用だから大丈夫!」と言われ、買って食べたところアナフィラキシーを起こした。「アレルギー食品店だから大丈夫だろう」とちゃんと確認しないで買ったものでアナフィラキシーを起こした。お母さんは一生懸命除去していたが、周囲の人(お父さんやおじいちゃん、おばあちゃんが多い)が「そんなに制限したら可哀想だ。少しくらいなら良いだろう」と、いらぬ気を利かせてダメなものを食べさせてくれてアナフィラキシーを起こした。そんな例はいくらでもあります。どうぞ、こんなところで手を抜かないで下さい。安心で、安全な素材を確保したら、ご自分(とアレルギーっ子を含むご家族)で調理・加工して、出来次第召し上がって下さい。1つ1つの素材を選ぶこと、そして、それを一生懸命お子さんの喜ぶ顔を思い浮かべながら調理すること。そして、それがアレルギー反応やアナフィラキシーを起こさずに食べられた時に、お子さんはきっとお母さんの愛情をいっぱい感じてくれることでしょう。しかし、それを選べなかったり、間違ってばかりだったらどうでしょう? その度にお子さんは苦しい思いをされるのです。やはり、信用されなくなってしまうのではないでしょうか? これは難しいです。大変です。でも、可愛いお子さんのためではないですか。いつまでも周囲の目や声を気にして、周囲に合わせることばかりしていてはお子さん(だけでなく、他のご家族)の健康も生命も将来の夢や希望も失いかねません。確固たる信念を持って取り組んでいただきたいと思います。
  そのためにも、仲間を作って下さい。何でも話し合えて、一緒に泣けて、一緒に喜んでくれる仲間を。以前と違って、頼もしい先輩方も大勢いらっしゃいます。周囲の理解や協力も少しずつですが得られやすくなって来ています。まずは、お母さんが“現実”に負けないように。お母さんが“現実”を正面から認め、それに前向きに対応している姿をお子さんが見れば、きっとお子さんも頑張れると思います。

角田先生の「アレルギーっ子の生活」第6章『アナフィラキシー』を見る

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