アレルギーっ子の生活

<06-01      2001年07月01日(日)公開>

【はじめに】

 今、このページを関心を持ってご覧いただいている方は、きっと多少の緊張と不安を覚えながら文字を追いかけていることでしょう。もうすでにアナフィラキシーを経験し、お医者さんに「ひどい場合は死亡することもあるかもしれません」と言われ困惑している方もいるかもしれません。まだ経験したことはないけれど、お子さんやご本人、配偶者の方などがアレルギーがあり、アナフィラキシーとはどんな病気なのか、予防するためにはどうしたらいいのか知識を得るために読んでいらっしゃる方もいることでしょう。アナフィラキシーはアレルギー体質があれば、ひょっとしたら突然に経験するかもしれない病気なのです。

 今までは、「アナフィラキシーのことを話してしまうと、患者さんは不安と恐怖で気持ちが小さくなってしまい、自由な発想で生活ができなくなってしまうのでは?」と思い、あまり積極的にはお話をしませんでした。もちろん、アナフィラキシーを起こす可能性が高いと思われる方にはそれとなくお話をして、それとなく予防ができるように勤めましました。アナフィラキシーという病気は起こしたことがない人にとってはまったく考えも及ばない自分とはまったく関係ないと思い込みがちな病気です。しかし、一回でも起こしてしまい、悲惨な目にあった人にとってはこれほどいやで、二度と経験したくない病気はありません。アナフィラキシーを経験した人が起こさないようにするためにはどうしたらいいのか必死で考えるのは当然の成り行きでしょう。そんな方達のために、今まで経験したアナフィラキシーの人達から学び得たことを書いてみようと思いました。

 実は、私の娘もアレルギー体質があり、目の前でアナフィラキシーを起こされた事があります(後述)。まるで映画のように目の前で娘の体に起こる事態をただただ見つめていました。「ああ、このまま、だめなのか!」と絶望のどん底に落とされた出来事。それがアナフィラキシーでした。何が原因でアナフィラキシーが起こるのか? どうしたら起こることを防げるのか? そのことが今まで経験したアナフィラキシーの患者さん達を診ながら考え続けたことです。その答えは患者さんと同時に私の娘を助けることにもなりました。その答えの一部が、この第7章には書かれています。(ただし、その答えは、アナフィラキシーの患者さん達が身を持って教えてくれたことです。私は、その人達から得たことをまとめて、多くの人達に伝えているだけです。)

 アナフィラキシーほど周囲の人達の理解が必要な病気はありません。本人が「これを食べると急に具合が悪くなる」といくら言っても、その方を取り囲む人達が「そんなこと起こるはずがない」と理解ができないのでは、とんでもない結果が待っているかもしれません。社会のすべての人達にアナフィラキシーのことについて一定の理解をしてもらうことが必要になってきているのです。198812月、北海道でソバアレルギーの小学校6年生男子が間違って給食にでたソバを食べてしまい、自宅に帰宅途中具合が悪くなり死亡されました。そのことがあってから、それまではなかなか大変であった学校給食でのアレルギー児の弁当持参の許可はすんなりと通るようになり、「食べ物で急におかしくなる場合がある」ということを理解しようとする人達が現れ始めています。

 1995年6月、自宅の冷蔵庫のスパゲッティサラダを食べてアナフィラキシーを起こし死亡した小学校5年生のことがきっかけとなり、東京の食物アレルギーを持つ親の会(会長:海野りつ子さん)のメンバーがアナフィラキシー学習会を作りました。その第1回講演会の講師として1997年5月、東京に招かれました。そこで、私が目にし、感じたものはお母さんやお父さん達の熱い思いでした。外来で見る患者さんの親御さん達の状態は、不安が強く心もとないため、なんとかくじけないように援助しようとすることが多かったので、学習会での元気さには圧倒されました。この人達にはアナフィラキシーのすべてを話してもいいかなと思ったのです。このお母さん達は、日本中の多くの人達がアナフィラキシーのことを理解してくれるための力になると思いました。このことが後にアナフィラキシーに関する3冊の本を書く原動力になっています。

 アナフィラキシー・アナフィラキシーショックという名前はまだまだ知らない方も多く、理解を得ることが難しいのが現状です。しかし、この病気を起こす方は子供も大人も着実に増えており、アレルギーが関与する病気を過去・現在にわたって持っている人、また、現在までは何のアレルギー疾患にもなったことがない人でさえ突然起こす可能性があり、多くの人が一定の知識と理解を持っていなければいけない病気でもあります。

 アナフィラキシー発症の正確なメカニズムがまだまだ不明な状況で、正しい予防の方法を見つけ出すことは難しいことです。すでにアナフィラキシーを起こした経験がある方はこれらの本も併せてお読みいただいて、ご自分の経験と照らし合わせて考え、多少なりとも予防に役立つと幸いです。まだアナフィラキシーを起こした経験のない方は、アナフィラキシーを怖がらずに正しい対処の方法を心に刻み付ける助けになればと思います。

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