アレルギーっ子の生活

<06-22      2001年08月11日(土)公開>

【アレルギーっ子のお弁当】

 アナフィラキシーを起こしたことがある人や、アナフィラキシーを起こすことが予想される場合は、給食といえども食べ物にはきちんと注意が払われなければいけません。無理してお弁当を持っていくのではなく、楽しく自由な気持ちでお弁当を楽しむためには考え方の切り替えが必要です。

弁当を持っていくときの心構え

 ある一人のヒトの食べ方は、そのヒトの育ってきた場所、生活環境、今まで食べてきたもの、手に入る食材、親の食べ物に対する考え方や嗜好、経済的な状況、あるいは宗教等のよって様々に違うのが当たり前です。百人の人がいれば百通りの食べ方や好みがあるはずです。また、その時の健康状態や季節によっても食べ方は変わります。民族や住んでいる土地によって同じような傾向があるとしても、やはり、個人々々では違いがあります。食べ方、食べるのにかかる時間などもみんな違います。誰一人として同じ人はいないはずです。個体々々に違いがあり、違いのあることが集団や社会をつくる基盤となっていることが哺乳動物であるヒトの原則だからです。
 ところが今の学校や幼稚園、保育園の集団給食はその原則からやや外れています。お弁当を持っていくことを相談すると返ってくる返事の多くは次のようなことです。「一人だけ食べるものが違うとかわいそうなので」、「一人だけ違うことでいじめられるかもしれないので」。内容的には、みんなと同じ時間に同じ内容の食べ物を同じような方法で食べないと集団生活が成り立たず、精神的に悪い影響を受けるかもしれないということのようです。すべてのことをみんなと同じようにすることがその子にとっていい生活方法・成長過程だと思われているようです。これには、疑問を投げかけずにはいられません。さらにもっと悪いことに、集団になっている他の子供たちやその親達、食事療法を始め、お弁当を持っていかなければ病気を起こしてしまう本人やその家族の方まで同じような考え方を持っている方が多いのです。

 こんな子がいました。出生後まもなくからアトピー性皮膚炎がひどく、食物アレルギーも多種にわたりましたが、なかなか自宅で食事療法をうまく行なうことができず、2才を過ぎた頃からは気管支喘息も加わり、発作のため入院を数回繰り返しました。薬剤で何とか気管支喘息の方はコントロールできましたが、相変わらず皮膚状態はあまり良くないままで経過しました。保育所では栄養士さん・保母さんと相談して、除去食を作っていただき食べていました。アレルギーの状況からすると学校給食を食べることは無理があり、当然お弁当を持っていくことになると思っていたのですが…。入学前の外来で本人と家族の方にお弁当のことを話そうと考えていましたが、病院を受診されませんでした。4月を過ぎて、その子はアトピー性皮膚炎が悪化したため外来を受診されました。学校では給食を食べているというのです。体にはかなりの負担をかけていると思われ、アナフィラキシーなど重症なアレルギー疾患を起こすことも考えられたため、「お弁当を作って持って行った方が良いんだけど……」と言った途端、その子は急に泣き始めました。「どうして泣くの」と聴くと、こう答えたのです。「同じ組の男の子が違う絵の具を持っていたので、いじめられている」と。よく聞いてみると、別に本人がいじめられているわけではないようです。クラスメートの男の子がみんなと違う形の絵の具を持っていたら、クラスの他の男の子にいじめられたようです。それを見ていて、お弁当を自分だけ持っていけばいじめられると思い泣き出したようでした。ご両親もまったく同じように考えており家庭でこの子の心を支えることは無理のようでした。現在、この子は食べられない給食を食べ、具合が悪くなりながらも学校に行っています。悲しいことです。

 もし、お弁当を持って行き、みんなと違う食べ物を食べることがいじめにつながるとしたら、そのクラスでは、背が小さいこと、勉強ができないこと、目の大きさや、皮膚の色、アトピー性皮膚炎があること、その他みんなと違うこと、どんな点でもいじめの対象になってしまうことでしょう。一人一人の違うところ、他の子にはないその子の持っている良いところが認められ、伸ばされて初めて子ども達は大きく成長していきます。他の子に合わせて、同じようなことを同じようにやることで、その子の良いところを見失ってしまっているのではないのでしょうか? その子だけが持っている良いところが認められると、同時にその子の持っている欠点や短所も、みんなに認められてみんなの力も借りながら少しずつ直したり助け合ったりしていくことができます。そんな集団の中ではおそらく深刻ないじめは起きないでしょう。他の子とは、違う良いところを見つけ、それを誇りに思って欲しいのです。世界にたった一人しかいない大切な子どもなんです。

 アレルギーのある子ども達にとっては、「その子に合った食べ物を、その子の体質に合った食べ方で食べる」ことが非常に大切です。その子はみんなと同じではないのです。みんなで集まって楽しく食事をすること自体は、大切なことです。でも、食べるものが違っていて良いんです。大人になると、これは当たり前のことです。食堂でみんなが別々なメニューを頼んで、ある人はお弁当を持参して、異なった食べ物を楽しく会食することはよくあることです。みんな違うんですから。
 お弁当はご両親に愛情を注がれている印になるようです。実際、周りの子どもから羨ましがられることが多いのです。ですから、あまり周りに見せびらかすようなことは謹んで下さい。お弁当をお母さんに作ってもらえない子も大勢いるのですから。現代の忙しい時間の中で、毎朝、朝食とお弁当を作る家族の方の努力も大変なものです。でも、その分、お弁当を持って行く子ども達は親御さんから愛情をかけられているという充実感があるため、心の安定した子どもに育っていくようです。アレルギーの病気は毎日のように、しかも、突然襲ってくるため、生活が不安定になりやすいのですが、お弁当を介した親子の絆は病気に立ち向かう勇気を与えてくれています。学校は立派な社会の一員になるために、勉強をするところです。給食を食べられないために余分な気苦労をして教育を受ける正当な義務を台無しにする必要はありません。給食はすべての人が食べなければいけないものでもありません。堂々とお弁当を持って行き、堂々と勉強をしてきましょう。長い人生の中のたった9年間の給食を、周りに合わせて無理に食べ、その後の人生を生きぬくために大切な食生活の基礎を台無しにする必要はありません。アレルギーっ子はアレルギーっ子らしい食べ方をきちんと身につけ、社会に羽ばたいて行って欲しいと思います。お母さん、又は、お父さんが早起きをして一生懸命作ったお弁当です。その子のためだけの特別なお弁当です。自信を持って、きちんと食べましょう。

 ちなみに、学校給食を食べる一番低年齢の子供は誰でしょう? わかりますか。実は、学校の先生のお腹の中にいる赤ちゃん、胎児達です。少し前までは、アトピー性皮膚炎で病院を受診された赤ちゃんのお母さんが学校の先生だと、「アレルギーがひどいだろうな」と予測してスタッフ全員が気を入れて診察にあたったものです。学校の先生の赤ちゃんは牛乳・卵・小麦など強くアレルギーを起こしていることが多く、胎児期から学校給食を食べたためだろうかといつも考えていました。今では、他にもアレルギーのひどい子が増えて、その中に埋もれてしまった感じです。給食に使われている農薬や添加物の多い素材を見ていると、お腹の中の赤ちゃんはかわいそうな気がします。

お弁当の申請

 食物アレルギーがあったりして、家族の方が給食を食べずにお弁当を持参したい場合は、それを受け入れるよう配慮することが文部省から通達されています。戦後の食べものが無かった時代に始まった学校給食は、多くの餓死寸前の子ども達を助けました。現代でも様々な理由で弁当さえ作ることができない家庭において給食は、一日のなかで重要な食の地位を占めています。一方、子ども達の疾病状況も変貌し、食べられないことから起きる病気は減り、食べ過ぎることから起きる病気が増加してきました。何でも良いから食べさせる時代から、質の良いものを食べさせる時代になったのです。お母さん達が努力し、「良い材料で、一生懸命作った物を自分の子供に食べさせたい」という気持ちは素直に学校給食に反映されるべきです。しかし、アレルギーっ子が学校に弁当を持って行こうとする時、今はまだ多くの関門があります。養護の先生や担任の先生、ひどいところでは教育委員会まで行ってお願いをすることになります。本来は給食を食べる人が国や自治体に食べることを申請すべきなのではないのでしょうか? なんで給食を止めるためにこんなに謝ったり、お願いしたりしなくちゃいけないのでしょうか? 学校の給食は選択契約方式が良いのではないかと考えています。給食を食べたい人は給食を食べることを契約します。お弁当を持ってくる人は、その旨を伝えます。弁当を持って来るのも給食を食べるのも自由。それは、その子のその家の事情によって決めれば良いのではないのでしょうか。少なくとも、頑張ってお母さんがお弁当を作って、頑張ってお弁当を持って行って病気を治そうとしている子がみんなと違う食事をするということでいじめを心配したり、いじけたりするなどのおかしなことはなくなるでしょう。それぞれの子が、それぞれの体に、体調に合った食べ方と食べ物を、お互いの違いや個性を認め合いながら楽しく食べる。これが最高だと思います。

 お弁当を持って行き始めた時にまず問題になることは、ご両親や先生など周囲の方が先走って心配しすぎることです。心配で、いじめられていないかどうか、大丈夫かどうかを無理矢理に聞き過ぎると、子供はいじけてしまいます。新学期からお弁当を持って行き、担任の先生からクラスの子ども達にきちんと説明がされていればほぼ問題ありません(担任の先生への手紙参照)。子供を信じて、堂々と弁当を作り持って行くことです。毎日、どんなことを勉強したのか、何が楽しかったか、プラスになることを聞いてあげましょう。もし、それでもいじめがおこるなら、いじめる子の方が問題になります。それは、クラス全体の問題として、学校で対処することがらです。

お弁当を持って行く時は

 小さなランチジャーが便利です。主食、おかずが2品ほど入ればほとんどが事足ります。小学校1年生の時はランドセルがランチジャーがと一緒に歩いているようですが、学年が上がるに連れて板についてきます。入学直前になってあわてて探し回らなくて良いように、早めに準備しましょう。すでに、お弁当を持って学校に行っている先輩のお母さんに相談することをお奨めします。学校に持っていくお弁当は比較的楽に作れます。なぜって、まったく新しい献立を作る必要はなく、給食のメニューに合わせた献立を作れば良いのですから。あまり頭を悩ませなくて済みます。

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