担任および関係される諸先生方へ

          さんは、苦しんでいる 気管支喘息・アトピー性皮膚炎・じんましん・アレルギー性鼻炎・食物アレルギー・慢性カンジダ過敏症
                    の治療のために、食事療法をおこなっています。
ダニ、動物の毛、花粉、カビなどの環境中のアレルギーと同時に、
牛乳、卵、大豆油、小麦、ソバ、ピーナッツ、イースト、エビ、魚   
                などの食物に対する食物アレルギーがあり、これらの食品を食べると病気を起こすことがわかったので、除去食物療法を行なっています。この治療法は、原因となっている食物を食べることを避け、体にあった食べ方をすることで病気を起こさないようにするものです。このような食事療法は、家庭における食事はもとより、家庭以外の場所でも守る必要があります。学校給食においても、その子の病気の原因となる食物が、給食として出されている食物の中に含まれていれば、それを食べて病気を引き起こし、学校を休んで病気に苦しむことになります。

そのため、学校給食を休み、家庭で原因食物を含まない食品でお弁当を作り、給食のかわりに食べるようにしたいと考えています。給食を食べず、お弁当を持ってくることを許した場合、本人やクラスに、どんな影響やトラブルが生じるかを心配される先生がたも少なくないようです。そこで、先生たちの心配を軽減し、また、除去食物療法を行なう必要がある子供たちが幸せな学校生活が送れるようにと、この手紙を書きました。

 給食を食べず、お弁当を持っていく場合に生じる心配や疑問は、次のようなことが多いようです。第一は、クラスヘの影響です。今まで、クラス全体が同じ給食を一斉に食べていたのに、お弁当を持ってくる生徒が現われると、生活指導がしにくくなるということです。たとえば、好き嫌いをする子供が増える、いじめが起こるなど、いろいろな問題が起こるということです。第二は、除去食物療法をしている本人への影響です。みんなと同じ食事ができないので、心がいじける、いじめの対象になる、好き嫌いを言ってわがままになるなどです。ところが、食物アレルギーの子供たちの治療を、様々な人たちにご協力いただきながら、長年行なった経験からすると、このような問題は、少し気配りをすると、うまく克服することができるのです。そこで、そんな問題解決に役立つと思われる方法を紹介いたします。この中で、もしこの子の場合に活用できるものがありましたら、それを使っていただき、この子が学校における除去食物療法をうまく行なうことができ、幸せで充実した学校生活を続けられることを願っております。

@クラスの子供たちになぜお弁当を持って来るのか、お話し下さい。この子が食べられない食物は、実は、この子の大好物であったり、食べることが憧れの食品だったりすることが多いのです。それを、病気の治療のためとは言いながら、三度の食事、3時のおやつ、その他の間食のときも、一切食べないでいるのです。それは、家庭ばかりでなく、みんなが一斉に給食を食べているときでも、やはり、食べないでいるのです。例えばそれはアイスクリームであったり、ケーキであったり、パン、チョコレートやトンカツ、鳥のから揚げであったりします。私たち大人でも、なかなか容易には行なえないことでしょう。それを、この子はしているのです。健康のための禁煙や、肥満を治すための減食などを行なおうとした場合、なかなか実行できない場合が多いことから考えても、どんなに大変な努力であるか、容易に想像できることでしょう。しかし、クラスメートは、先生からの説明がなければ、この子が行なっている努力を理解できず、目の前の弁当をうらやむことばかりになることでしょう。そこで、この子は、家でも、学校でも、病気の治療のために、食べてしまいたい誘惑に打ち勝ち、毎日大変な努力をしていることを、クラスの子供たちに教えていただきたいのです。それには、みんなの前で、この子が行なっている努力を話していただきたいのです。そうすれば、クラスの子供たちみんなが、この子の努力を熟知し、尊敬し、お弁当を給食のときに食べるつらさも理解できるようになることでしょう。「お弁当でがんばっているな。感心だな! がんばれよ。」先生の温かい励ましの言葉は、この子にとり、百万の味方がいるのと等しいのです。ですから、ぜひ、機会あるごとに、この子に、温かい励ましの言葉をかけてあげていただきたいのです。一方、除去食物療法を一生懸命行なっている子供たちに自分は病気を持っているだめな人間なのだと思わせ、食事療法を続ける意欲をなくさせてしまう、魔法の言葉があります。「かわいそうね、おいしいものが食べられなくて」「給食たべたくないか? 食べたいだろう」「みんなといっしょに牛乳が飲めなくて、つまらないだろう」そう言われると、どの子も悲しそうにうなだれて、目に涙を浮かべてしまうことでしょう。食べられないことへの同情の言葉は、病気を持っていることを悲しませ、自分は他人より劣っているという劣等感に陥れてしまうからです。ですから、けっして同情や哀れみの言葉はかけないで下さい。むしろ、この子の努力に対する賞賛と励ましの言葉をかけてあげて下さい。先生に褒めていただいた言葉は、きっと、その子の心の中で大きな力となり、食事療法を続ける勇気を奮い立たせることでしょう。

Aこの子の食事療法は、ほかの病気で行なう食事療法と同じです。食事療法のサンプルとしてとりあげ、健康教育に役立ててみてはいかがでしょうか。アトピー性皮膚炎やぜんそくなどの病気では、食物アレルギーが原因であることがわかると、野菜やお米を中心にし、添加物や農薬の残留した食品を避け、甘いものや油物を控えた和食にし、原因となるものを食べないようにし、その子の体質に合った食べ方を見つけていかなければなりません。このような食事療法は、食物アレルギーの場合にのみ行なう特異な治療法ではありません。ほかのいろいろな病気を治療する場合にも、やはり、食事療法は必要になります。消化不良症の場合の流動食やお粥・野菜スープ、糖尿病の場合の糖尿病食、肥満や高脂血症の場合の低カロリー低脂肪食、腎臓病や高血圧の場合の減塩食、代謝異常の場合の特別食など、いろいろな食事療法があります。どの場合も、なんでも食べることができれば、どんなに幸せなことでしょう。しかし、病気を治し、病気の再発を予防するためには、やはり、だめなものは食べず、がまんしなければなりません。そんなとき、やはり、学校給食は食べられず、お弁当を持っていくことになります。このような慢性の難治性の病気では、薬剤は一時的な効果しかありませんし、一生飲み続けるわけにはいきません。食事療法は、薬を飲むことより重要なのです。原因食物を食べず、自分の体に合った食事をするという食事療法は、病気の根本的な治療法の一つとして、非常に大切です。たとえ、そのような食品が大好きであり、みんながおいしそうに食べている給食であっても、病気を治すためには、やはりがまんして食べないことが必要です。このような食事療法は、健康な生活をおくるための大切な知識の一つであり、また、病気になったら、誰もがおこなわなければならない治療法です。それゆえ、この子が行なっている除去食物寮法をサンプルとして、健康教育に役立てて下さい。そうすれば、お弁当を食べている子は、自分はみんなの手本というプライドに胸ふくらませ、先生に褒めていただいた喜びで心をはずませ、元気よく給食の時間を過ごせるようになることでしょう。特に、アレルギーのための食事療法は成人病(生活習慣病)の予防という点で、共通点を多く持っており、健康な食生活をおくるための基本的な考え方が多く盛り込まれています。

Bできるだけ給食に似せたお弁当にします。食物アレルギーの子供が食事療法を続ける決心をし、お母さんがおいしいお弁当を作り、先生が褒め励まして下さっても、やはり、できるだけみんなと同じような食事を食べるほうが、より精神的な負担は軽いことでしょう。ですから、できれば、次のようなことを行なうようにしていただけると幸いです。あらかじめ、給食の献立表をお母さんにお渡し下さい。そうして、お母さんに給食と同じようなお弁当を作らせてあげて下さい。また、初めのころはお弁当のままでなく、給食の食器に給食と同じように盛りつけて食べるようにすると、お弁当も、給食と調和し、より無理なく食事療法が行なえるようになることでしょう。時間がたち、本人もクラスの子供たちもお弁当に慣れてくると、お弁当そのままでも、構わなくなります。

 除去食物療法をすると、発育盛りの子供たちにとって必要な栄養が不足するのではないかとご心配なさる方も少なくありません。私たちは、もっともこのことを注意しております。幸い、除去した食品のかわりになる栄養源をたくさん用意し、それを子供たちに与えることができるようになりました。ですから、このような心配は、かなり少なくなっていると思います。今まで、10年余の間、食事療法を行なってきた経験からみますと、このような食事にした結果、かえって健康になり、スクスクと元気よく発育して、人一倍大きな心でたくましく育っていった子供たちを大勢知っています。これからも、このような問題には充分に注意を配り、栄養不足の問題が生じないように努力いたしますので、どうぞ、ご安心下さい。

 現代の忙しい時間の中で、毎朝、朝食とお弁当を作るご家族の方の努力も大変なものです。でも、その分、お弁当を持って行く子供たちは親御さんから愛情をかけられているという充実感があるため、心の安定した子供に育っていくようです。アレルギーの病気は毎日のようにしかも、突然襲ってくるため、生活が不安定になり易いのですが、お弁当を介した親子の絆は病気に立ち向かう勇気を与えてくれます。是非、こころある暖かな気持ちでご配慮をお願い致します。

 大勢の患者さんの中には、きわめてまれに、食事療法を行なったがために、たいへんつらい毎日を送っている子供たちの報告を聞くことがあります。ある子供は、食事療法を行なっている努力を褒め、励まされることがなく、ただ、給食を食べずお弁当を食べることを黙認される状態であったため、クラスの中で、給食を食べないわがままな子と誤解され、いじめの対象になってしまいました。また、時には、給食の秩序を守るために、教室のすみで教科書で隠して食べるように言われたり、保健室で一人寂しく食べていたりしていた子もいたようです。中には、自宅に戻ってお昼ご飯を食べてくるように言われていた子もいました。その子は、雨の日も、風の日も、雪の日も、走って自宅に戻り、午後の授業に間に合うように、息せき切って学校に戻る毎日を過ごしていました。みんなが楽しく遊んでいる昼休みの時間は、いつも、自宅への往復の時間として消えてしまい、休む暇もなかったようです。病気の苦しみや、何でも自由に食べられないつらさに耐えるという重荷を背負っているので、このような余分な苦しみは、できれば避けさせてあげたいと思います。

 食物アレルギーの医学は、まだ新しい学問であるために、このような食事療法を必要とする子供に出会ったことがなく、初めてのケースにお困りになって、きっと、このような応急処置をなさったのであろうと思います。幸いなことに、最近ではこのようなことになってしまった子供の報告は聞いていません。食物アレルギーの正しい理解が多くの方たちに広がってきているためと思われます。

 食物アレルギーが重症な場合は、原因食物を食べることで、または食べた後に激しい運動をすることで急に激しい症状を起こすことがあります。嘔吐・激しい咳・呼吸困難・じんましんから始まる全身の発赤やむくみ・激しい頭痛・血圧の低下・意識の喪失などが起こるアナフィラキシーという状態です。これが生じた場合は直ちに救急処置が必要となるため、迅速で適切な対応が望まれます。突然に起こるため、予測することは不可能です。食物にアレルギーを持っている方はアトピー性皮膚炎の子でも気管支喘息の子でもいつ起こっても不思議ではありません。でも、ご安心下さい。すでに何がアレルギーかわかっている子供たちはお弁当を持ってくることで、めったに起こすことはありませんし、もし間違ってクラスメートの給食の一部を食べてしまっても、だめなものを食べたことがわかっていれば、具合が悪くなる前に早めに薬を飲んだり病院を受診したりすることで、重症化は避けることができます。むしろ、何がアレルギーかわからないで普通に給食を食べているアレルギーの子供たちの方がアナフィラキシーを起こす例が多く、心配です。

 また、同時に環境中の問題にも多少の気配りをしていただけると幸いです。例えば、ストーブを使いはじめの時には、溜まっていたほこりが吹き出すため、部屋の窓を開けて換気をして下さい。掃除をする場所によってはほこりや吹き溜まりに溜まっている花粉などで症状を起こすことがありますので、相談に乗って下さい。クラスで生き物を飼うときは教室の中に入れないで室外または別の場所で飼うこと、世話の係りをするときは動物にアレルギーがあるかどうか、世話の係りができるかどうかを本人に確認してもらうことなどをお願いします。

 食事療法を行なう理由を説明し、また、その対応方法を紹介させていただきました。これらのことが先生方の参考になり、お弁当を持参する食物アレルギーの子たちが、楽しく学校生活を過ごすことができることを願っています。食物アレルギーの子供たちを幸せにするためには、学校、保護者、医療関係者など、みんなが手をとりあい、力を合わせる必要があります。そのために、よく連絡をとり、治療を進めたいと考えています。なにか御疑間の点などがありましたら、ご連絡下さい。そして、お気軽にお話し下さい。どうぞ、よろしくお願いいたします。

                                                        かくたこども&アレルギークリニック 院長 角田和彦
                                                   〒985-0873 宮城県多賀城市中央1丁目16番地8号
                                                電話022-368-7717 FAX022-389-0723

追伸
 給食の中の一部分を止める場合、例えば、卵を止める場合、牛乳を止める場合、慢性カンジダ過敏症の治療のためパンを食べずにおにぎりを持って行く場合なども、お弁当を持って行くときと同じようになぜそうするのかクラスメートたちに、お話下さい。そうすることで、子供たちは安心して食事療法に取り組むことができ、楽しい学校生活を送れることでしょう。よろしく、お願い致します。