アレルギーっ子の生活

<03-05         2000年08月28日>

【赤ちゃんの汚染・脂溶性環境汚染物質】

  お母さんが食べた食品中の油脂に溶け込んだ脂溶性の環境汚染物質(ダイオキシンやDDT等脂溶性の有機塩素系殺虫剤等)は、お母さんの脂肪に蓄積されます。妊娠した時(特に妊娠初期、妊娠したと分かった頃)には、これらの物質の持つホルモンかく乱作用によって、おなかの中で発達・成長しつつある胎児は影響を受けます。
 妊娠中、胎盤はダイオキシンによる胎児の汚アレルギー発病と環境汚染染を防御出来ないことが調べられており、母体の体脂肪に蓄積されたダイオキシンは、胎児の脂肪にも同程度の濃度で移行してしまいます
 ダイオキシン以外の様々な化学物質も胎盤では防御されず、胎児に移行してしまうことがわかってきています。
 なぜ、子ども達はアレルギー反応が暴走し、アナフィラキシー等のひどいアレルギー性疾患を起こしてしまうのでしょうか? 現在わかってきている情報をもとに、体内汚染の視点で想像してみます。

  妊娠の初期、母親の体脂肪に蓄積された汚染物質、母親が食べている汚染物質、大気・土・水の汚染、それらの総和として胎児は影響を受け、アレルギーを暴走しやすい体質が作りあげられます。妊娠中期・後期になり、胎児の免疫反応が働き始めると、母親が食べたものは胎盤を介して胎児にアレルギーを起こさせます。生まれた赤ちゃんは、アレルギー反応を起こしやすく抑制が効かない体質を持っているため、母乳を介して、または、直接食べたり触ったもの、吸い込んだもの等に次々とアレルギーを起こしてしまいます。この時、同時に食品の汚染や、大気・土・水の汚染が存在すると影響はさらに強くなります。
  又、出産後、授乳することで、お母さんの脂肪に蓄積された汚染物質は、母乳中の脂肪に溶け込み、赤ちゃんの体内脂肪に移行していきます。母乳を介して乳児が体内に取り入れてしまうダイオキシン類の濃度は、大人が日常的に食べる摂取許容量の7〜15倍も高いと言われています。
  母乳中の脂肪を介して赤ちゃんに汚染物質を排泄するため、母体の脂肪中のダイオキシン類は半減(約60%が赤ちゃんに移行)します。そのため、第1子はダイオキシン類の多い母乳を飲み、第2子以後はより汚染が少ない母乳を飲むことになります。また、母親の初産年令が高いと、母体体脂肪中にダイオキシン類はより多く蓄積されているため、高齢出産の第1子はより強く汚染の影響を受けます。

  外来でアレルギーっ子達をみていると次のようなことが気にかかります。   母乳栄養の赤ちゃん達では、お母さんの食事中の油脂が多いと脂漏性湿疹がひどく、脂漏性湿疹の周囲は赤く腫れ上がり、まるで吹き出た油脂でただれたようにみえます。赤ちゃん達は、過剰に体内に取り入れてしまった脂肪、または、体に合わない汚染された油脂を皮脂腺から体外に排泄しているようにみえます。出産直後、母乳栄養の子供達にはもともと、脂漏性湿疹や新生児ニキビが多いのですが、汚染された油脂の過剰摂取も一因ではないでしょうか。
  アトピー性皮膚炎で来院された赤ちゃんの中で、血液中の脂肪の高い例が増えています。母乳はエネルギーの49%が脂質という高脂肪食品ですから、赤ちゃんの血中の脂肪が高いのはわかるのですが、脂質の高さとアトピー性皮膚炎の程度が相関しているように感じています。母乳から摂取する脂質量が多すぎ、同時に質が悪いように思えます。また、血中脂質の上昇はダイオキシンの影響による甲状腺機能の低下が関係しているかも知れません
  アトピー性皮膚炎の赤ちゃん達に肝臓の働きの悪い例が増えています。つまり、肝臓の細胞が壊れてやすくなっているのです。肝臓は体外から侵入したさまざまな汚染物質を処理する臓器です。肝臓にはダイオキシンなど脂溶性の汚染物質が高濃度に蓄積されます。これらの汚染物質が赤ちゃんの肝臓をおかしくさせている可能性があります。以前からミルク栄養のアトピー性皮膚炎の赤ちゃんで肝臓の悪い例が多くみられましたが、最近では母乳の赤ちゃんにもみられるようになりました。
  食事や環境を改善していくと、胎盤を介して、または母乳中の脂肪を介して赤ちゃんに移行した脂溶性の環境汚染化学物質は2〜3歳ごろに半減します(ダイオキシン類の半減期は2〜10年です)。ちょうどこの頃はアトピー性皮膚炎が改善してくる時期です。体脂肪に溜まった汚染物質を排泄し終わったかのようにアトピー性皮膚炎がおさまってきます。
  行動上の問題としては、動物実験やオンタリオ湖で獲れた汚染された魚を食べたお母さんから生まれた子供達の報告(文献1,2,3)にあるような、落着きがなく、多動で、学習障害を起こし、様々な事態にうまく対応できず、環境に順応できない、不測の事態に過剰な反応を起こす子どもが増えています。これらの症状はアレルギーっ子達によく見られる状態です。妊娠初期から免疫系と同時に神経系統もなんらかの影響を受けている可能性が考えられます。
札幌勤医協病院における魚のアレルギー
当院外来で治療したアレルギー119例161件の年度別人数

 急激にアレルギー症状が全身に急激に進行し、最悪の場合は死亡することもあるアナフィラキシー。ダイオキシンの影響を受けた赤ちゃんは、免疫が行き過ぎないように調節する働きの弱い可能性が指摘されています。環境汚染がアナフィラキシーのようなアレルギーの暴走の一因になっていると考えられます。大きくなって、中学生以後、もともとあったアレルギー疾患が軽減し、最近太ってきたなと思っていると(アレルギーっ子が悪い意味で太ってくる場合は次の2つがあります。1つ目はアレルギーが原因で体がむくみを起こした場合。2つ目は汚染された油脂類の食べすぎの時。体の脂肪組織が増えると体内のダイオキシン等の脂溶性汚染物質が希釈されるため、“防衛反応”として太ることが考えられます。)、運動、疲労、寝不足、他の病気を起こし食欲がない時などにアレルギーを起こす物質を食べたり吸い込んだりすることで急にアナフィラキシーを起こすことがあります。様々な悪条件下で体脂肪をエネルギー源に利用しなければいけない状況に追い込まれてしまうと、体脂肪に蓄積されていた汚染物質が一挙に体内に放出され、アレルギー症状の進行に拍車をかける可能性もあります。

 アレルギーっ子達がアレルギーを起こす食品は牛乳・卵・魚・魚卵・獣肉油脂・植物油脂など汚染した油脂を多量に含む食品が多く、まるでアレルギーを起こして脂溶性の汚染物質を食べないように避けているようです。これらの食品を多量に食べている子はアレルギー症状が激しく、感染症を起こしやすく、熱を出しやすく、病気になると症状が激しくなってしまいます。食べていない子はアレルギー症状や発熱、痛みなどの炎症症状が軽いことも日常診療の中で多く経験することです。

 約10年ほど前から乳幼児を中心に、魚や貝のアレルギーが増えはじめました。最近の報告では札幌の渡辺一彦先生の報告でも同様な結果がでています。魚の汚染が悪化していることをアレルギーっ子達は感じているようです

環境汚染とアナフィラキシー(胎児期の汚染を考える)

 ダイオキシンなど環境汚染化学物質の影響は、胎児期初期に強く作用していると考えられます。したがって、1986年から1998年までにアレルギー外来で経験した、食物が原因の症例110例を、生まれた年ごとに棒グラフにしてみました。約10ヵ月の妊娠期間後に人は生まれますから、生まれた時点から約10ヶ月〜7ヵ月ほど前の環境状況が胎児に影響します。1974年ごろから症例数が増え、1984年ごろから急増します。

海の汚染程度の例として、厚生省の「平成9年度における廃棄物処理に係るダイオキシン対策に関する調査研究の結果について」に報告されている1968年から1996年までの大阪湾海底のダイオキシン(PCDD)、ダイベンゾフラン(PCDF)のデータを重ねると、ダイオキシン類の増加とともにアナフィラキシー例も増加する傾向がみられます。1970年代がさまざまな環境汚染のピークと言われています。ダイオキシンだけが原因とは思えませんが、1970年ころから胎児期に汚染の影響を受けて生まれてきた子ども達が、アナフィラキシーを起こしやすくなっている可能性が考えられます。食品が原因でアナフィラキシーを起こした外来症例(110例)の生まれた年と海底のPCDD・PCDF濃度

 私達の体は、程度の差こそあれ、ほとんどすべての人が汚染されています。これから先、赤ちゃんを汚染から守るためには、現在の子供達が大人になって健康な赤ちゃんを産めるように、母体の汚染の程度を軽くする事が必要です。とくに、妊娠の初期に環境ホルモンの影響を受けることを少なくすることが必要です。小さな時から、環境汚染に注意しなければ次の世代が危ないのです。

 ダイオキシンの半減期(自然に体外に排出されて体内濃度が半分になる時間)は5年から10年ぐらいといわれています。20歳になって健康な赤ちゃんを産むためには、その10年以上前からダイオキシンなどの環境汚染物質に注意を払い体内に蓄積させないように注意することが必要です。つまり、現在の親がすべきことは10〜20年後に生まれてくる孫達が健康に産まれ、安全な母乳をたくさん飲めるように、今の赤ちゃん達に安全な食べ方、環境を考える力を与えて上げることなのです。

母乳と環境汚染

  人がヒトという哺乳母乳のすばらしさ類である限り、母乳は飲ませなければなりません。母乳は様々なものを赤ちゃんにプレゼントします。例えば、母親がそれまでに手に入れた色々な病原体に対する抵抗力は母乳と一緒に赤ちゃんに飲み込まれ、腸で吸収されて赤ちゃんのからだ中にいきわたります。そのため、生まれて最初の約5ヶ月のあいだ、赤ちゃんはお母さんと同じ抵抗力を持つことができます。
  そして、母乳はお母さんにも大きな贈り物をします。お母さんは母乳を赤ちゃんにおっぱいを吸ってもらうことで母親として自信と自覚を深めていくことができます。母乳は赤ちゃんが人になるための大切なはじめの一歩なのです。どんな時にも、どんな子にも母乳を飲ませてあげたいと思います。もし、母乳を飲ませない方向に進むのであれば、ヒトに未来はないでしょう。また、環境汚染をこのまま放置したまま、母乳を与えてもヒトの生存は怪しくなります
  生物にとって脂肪は生存するためには欠くことができない大切な栄養素です。ほとんどの生物は脂肪を体内に摂り入れるしくみは発達していても、排泄する機構は持ち合わせていません。哺乳類は、母親が蓄えた大切な脂肪を、母乳を介して赤ちゃんに贈っています。赤ちゃんは母親から十分な脂肪をもらってすくすくと成長していくのです。その大切な脂肪の中に、なかなか分解しにくい化学物質が溶け込んでしまったのです。
  人工ミルクは牛乳から油脂を取り除き、かわりに植物性油脂を使って脂肪分を補充するのでダイオキシンなどの汚染は少なくなります。国内のアレルギー用ミルクを製造している乳業メーカー数社に確認したところ、人工ミルクのダイオキシン汚染は、市販牛乳の汚染度0.06pgTEQ/g程度(1997年5月環境庁ダイオキシンリスク評価検討委員会報告中の参考資料食物経由のダイオキシン類暴露評価調査より)の約100分の1でした。ダイオキシン汚染が深刻だったドイツ政府は、1984年から、母乳の汚染状態によっては4ヶ月まで母乳を飲ませ、その後は人工ミルクに替えるという指導を行ないました。その後、母乳中のダイオキシン濃度が減少したこと、母親の精神不安、動揺が激しく、1995年より「母乳育児に危険はない」としてこの指導を中止しました(文献4)。また、母体の汚染程度が同じならば、出産後に母乳で育てても人工ミルクで育てても1歳半までの発達には差がないことが報告されています(文献5)。
  環境汚染物質からの影響は授乳中に母乳から受ける場合より、妊娠初期に受けた場合のほうが強く作用すると考えられます。したがって、妊娠初期の対策が重要です。母乳の汚染を理由に母乳を中止しても、既に胎児期に汚染の影響は受けてしまっているのです。
  しかし、平成10年におこなわれた宮城県の小学校5年生(1410名)のアンケート調査における単純な集計では、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、じんましん、アレルギー性鼻炎、花粉症と診断された率は、母乳栄養だった子どもに高く、人工ミルク栄養だった子どもは低くなっています。母乳中に含まれる何かが、影響をおよぼしている可能性は、ぬぐいされません。
  母乳中には、徐々に濃度が低くなっているとはいえ、様々な汚染物質が今だ残留しています。これらの化学汚染物質は、乳児の神経発達や免疫・内分泌に影響する可能性は否定できません
  又、脳神経の発達は生後2歳ごろまで続きます。乳児が母乳から摂取する有機塩素系化合物したがって、なるべく汚染の少ない母乳を飲ませてあげたい気持ちはかわりません。母乳を飲ませ続けることは、子育てにとって、非常に重要なことです。
 上の子どもにアレルギーがあるため、母親も食事療法や環境整備をしている最中に妊娠し生まれた子どもは、母乳栄養ですくすく育ち、重症なアレルギー性疾患を起こさないことを経験しています。したがって、母親がきちんとした食事をして妊娠し、出産後は、赤ちゃんに母乳を飲ませてあげることが必要です。
 赤ちゃんが環境ホルモンなど環境汚染物質から受けた影響は、その子が思春期を迎えた時、恋する相手を愛する時、妊娠し出産する時、親として子どもに愛情を注ぐ時に、正常な行動ができるかどうかで判断できるでしょう
  環境汚染の影響を軽くするため、母親・父親となるべき人は、子供の時代、胎児の時期から、環境・食事に注意を払い、汚染物質を体内に蓄積させずに過ごし、親となるための準備をすることが必要なのです。

子供の環境保健に関する8か国の環境指導者の宣言書1997年5月、アメリカのマイアミで行われた第5回先進国環境担当閣僚会議(日本も参加)で「子供の環境保健に関する8カ国の環境指導者の宣言書」が採択されました。今までのように、環境汚染が生じその結果、環境被害が出てからでは子供達を守ることはできない。環境汚染の暴露の予防こそが子供を環境の脅威から守る唯一の、かつ、最も効果的な手段であることを明記しました。多くの人達、地球上の生物達に環境汚染の影響が現れ、汚染との因果関係が明らかになってからでは、遅すぎるのです。疑わしき物質については、使用を見合わせる、または対策を取ること、すなわち、予防原則こそが、地球の生命を救うための原則にならなければいけません。


1998年環境庁の発表により北上川の汚染状態が判明

 重症なアレルギー児や魚のアレルギーのひどい子が多いため、だいぶ以前から北上川下流地域(石巻周辺)は汚染が強いのではないかと思っていましたが、1998年1月6日、環境庁が河川や港湾などの水底(底質)や魚類を対象に毎年行っている非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査(1996年度)で第二位の、滋賀県の琵琶湖北湖の3.6pgTEQ/g(2、4、7、8-四塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン換算)を大きく引き離して、宮城県北上川下流の飯野川橋付近(河北町)の魚(ウグイ)からダイオキシンが4.5pgTEQ/魚1gと全国35検体中、一番の高濃度で検出されたことが発表されました。やはり、北上川は汚染が進んでいることがわかったのです。北上川は岩手県に源を発し、宮城県を通ってかなりの長距離を流れ海に注ぎ込みます。多くの都市を通る間に汚染が強くなっている可能性があります。また、飯野川付近にはダイオキシン源として、ゴミ焼却場、産廃処理場があり(ダイオキシンの排出)、周囲には水田が広がっています(ダイオキシンを含む除草剤や農薬の使用)。さらに、旧北上川河口の石巻地区にも製紙工場やゴミ焼却場、産廃処理場があります。漁業の町であり、住民は汚染された川が流れ込む近海で獲れた魚介類を食べ、その上に大気汚染の影響を受けているのかもしれません。そして、環境汚染は、この地域に限らず日本中どこでも起こっている可能性があり、一部の地域だけの問題ではないのです。

参考文献:

1)H.Daly:Reward Reactions Found More Aversive by Rats Fed Environmentally Contaminated Salmon.Neurotoxicology and Teratology 13:449-53,1991
2)H.Daly:The Evaluation of Behavioral Changes Produced by Consumption of Environmentally Contaminated Fish. in The Vulnerable Brain and Environmental Risks:Vol.1.Malnutrition and Hazard Assessment, Chapter 7,R.Isaacson and K.Jensen,eds.,Plenum,1992,pp.151-71N
3)J.Jacobson,S.Jacobson,and H.Humphrey:Effects of InUtero Exposure to Polychlorinated Biphenyls and Related Contamination on Cognitive Functioning in Young children,Jounal of Pediatrics 116:38-45,1990
4)インターネット上ホームページ http://www.asahi-net.or.jp/~xj6t-kd/env/env.html
5)Corine Koopman-Esseboom,et al:Effects of Polychilorinated Biphenyl / Dioxin Exposure and Feeding Type on Infants’ Mental and Psychomotor Development PEDIATRICS 97:700-706 1996
6)渡辺一彦:最近めだってふえた果物類や魚のアレルギー、食べもの文化No.250(6月号):40−47、1998

関連記事:朝日新聞(02.12.02)−脂の乗った魚介類に高濃度ダイオキシン−水産省裏づけ「バランスよい食事で大丈夫」−

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