<07-11 2001年12月06日(木)公開>
嘔吐や下痢は色々な原因で起こります。
@体にとって不都合なものを体外へ排出し、体を守る作用としての嘔吐・下痢−腸のウィルス感染(冬の嘔吐下痢や夏の下痢)腸の細菌感染(食中毒)や原虫(アメーバ赤痢)食物アレルギー、食品添加物に対する反応、毒物など。
A先天的なもの−消化酵素欠損、免疫不全など
があります。生活をしていてよく経験する嘔吐・下痢は冬と夏に流行するウイルス性の嘔吐下痢症と夏に増える細菌性の大腸炎(食あたり)、アレルギー性の嘔吐下痢症が多いので、ここでは@の時の嘔吐下痢についてお話します。
口から胃の中に病原性のある細菌・ウイルスや、アレルギーのある食物、毒物が入ってくると、吐き気や嘔吐が起こり、これらのものを、体外に出して身体を守ろうとします。さらに、腸の中に入ってしまうと、下痢をおこし下痢と一緒に排泄し、身体を病原体から守ります。したがって、早い時期に充分吐いて、早く吐き気を止め、それでも出せなかった原因となるものを下痢と一緒に体外に出してしまうと病気を軽くすることができる訳です。アレルギーのあるものを食べてしまい、体が合わないと判断して吐いたり下痢した場合は、出すものを出してしまうとすっきりと治ってしまう場合があります。ウイルスや病原性の細菌の場合、吐き気や嘔吐はたいてい1〜2日続き、下痢が5〜7日ほどあった後、荒れた腸の粘膜が新しく再生すると治まります。
病原体は毒素を作り体を攻撃しています。下痢を薬を使って無理に止めると、下痢の原因菌と同時にこの毒素の排泄が遅れ、病気がひどくなることがあります。したがって、下痢止めは使わないことが原則です。整調剤(お腹の調子を整える薬)は使用します。
激しい下痢や長期間続く下痢の時は、水分や電解質が下痢と共に体外へ出てしまうため、脱水状態になってしまいます。特に乳幼児では大人より脱水をおこしやすいため、充分な水分補給が必要です。従って、下痢をおこしている時は、
@第一番目に水分、電解質(塩分)、ビタミン類の補給が大切になります。
A第二に、水分や電解質が充分にとれている上でエネルギー(炭水化物や糖分)の補給が必要になります。よく、栄養をつけようと水さえ飲めない子供にパンやお菓子をあげている方がいますが、水や塩分がまず飲めていないと固形物のエネルギーは体で利用できないことを覚えておいて下さい。
B第三に嘔吐や下痢の病状が改善してきたら、そこで初めて、タンパク質や脂肪の補給をするようにします。
ニンジン、ダイコン・カブなどの野菜を煮て、塩を少々入れたスープ・すまし汁・味噌汁など(コンブだしでもよい)、ゆざまし、番茶、おもゆ、おかゆなど、くず湯、リンゴなど果物を煮た(さとう少量を入れてもよい)スープ・リンゴジュースやふどうジュース(糖分が多すぎると下痢します)などを摂るようにします。どうしても手元にない時は、病院でだされたソリタT3顆粒や乳児用イオン飲料(アクアライトなど)やスポーツドリンク(炭酸の入っていないもの、保存剤の入っていないもの)でもかまわないのですが、飲んでも吐いてしまい、嫌がる場合には無理して飲ませず、他の方法を考えます。なるべく、自宅で新鮮な食材から家の人が作ったできたてで愛情いっぱいの野菜スープやお粥をあげるようにしましょう。
母乳の場合は母乳を続けます。ふつうの人工ミルクを使用している場合は、薄めるか一時中止し、他の方法で水分をとります(野菜スープを飲む、アレルギー用ミルクに代えるなど)。アレルギー用ミルク(乳糖が入っていないもの−MA1、ペプデュエット、エピトレス)の場合は、そのままか2/3〜1/2にうすめて使います(アレルギー用ミルクは下痢治療用ミルクです)。のびやか(明治)は乳糖が入っているので、薄めて使うか、どうしても症状がひどい時は他の方法を考えます。
現在アレルギーのある食品、過去にアレルギーのあった食品は避けます。食物アレルギー治療食を行なっていると嘔吐や下痢は軽くすむことが多いものです。
@乳糖が多く入った食品(乳糖が消化できず嘔吐や下痢がひどくなります)
牛乳、ケーキ、プリン、アイスクリームなどの乳製品
A脂肪・油の多いもの(消化されにくいので症状が悪化します)
油を使ったドレッシンダ揚げものなど植物性油脂をつかった料理、
スナック菓子などの揚げた菓子、肉の脂肪、
脂の多い魚・魚卵(タラコ・スジコ・イクラなど)、卵の入った食品、
バター、チーズ、マヨネーズ、マーガリン、チョコレート、
インスタントラーメンなどインスタント食品、
乳製品、ヨーグルト、ヤクルトなどの乳酸菌飲料
B砂糖の多く入った食品(過剰の糖分は腸内で発酵して腸がふくれ、症状を悪化させます)
C炭酸の入った飲物・清涼飲料水(炭酸で胃や腸が膨れて吐き気やお腹の痛みをひどくさせます。)
DオロナミンCなどアルコールの入った飲物・強壮剤やビタミン剤(アルコールは抵抗力を落とします)
※水分がなかなかとれず、おしっこの量が少なく、ぐったりしている時、口の中が乾いてベタベタしている時は、脱水が強くなっている可能性があります。このような時は、点滴が必要になりますので、病院を受診した方が良いでしょう。
知っていると病気の時に威力を発揮します。病院で点滴する場合に水分量を決定するために使う計算式です。是非覚えておきましょう。
体重から大まかな水分の最低必要量を出します。この式で計算した水分量を飲めるように野菜スープや味噌汁などを摂りましょう。お粥や果物などに含まれる水分も計算に入れます。この量以下、最低でもこの量の8割以下しか水分が摂れない時は点滴が必要になるかもしれませんので、それなりの心構えをしておきます。熱があり、汗として水分がでてしまう時や、下痢や嘔吐がある時はさらにその分の水分が必要になります。
1日最低水分量[ml]の計算式−新生児(生後1週間以内)の水分摂取の計算は除きます | |
生後1ヵ月から3ヵ月 | 120ml×体重(Kg) |
生後4ヵ月から6ヵ月 | 110ml×体重(Kg) |
生後7ヵ月から12ヵ月 | 100ml×体重(Kg) |
1歳以上の場合 | (100−体重[Kg])×体重[Kg] |
例えば、体重15Kgの場合は(100−15)×15=1275ml/日となります。
計算した1日に最低必要な水分量の約2割が尿として出ないと体内の老廃物を排泄することができません。体重15Kgの子の場合は1275ml×0.2=255mlの尿が1日で出なければ具合が悪くなってしまいます。
●嘔吐・下痢の時は、安静にし、体力の消耗をさけます。おしりはお湯でそっと洗うか、ぬれたタオルでそっとたたくようにして拭き、清潔にしましょう。排便の処置の後は、よく手を洗い清潔にしましょう。
●嘔吐や下痢が治まり、食べ物が食べられるようになったら生活を徐々に元に戻します。腸の粘膜が荒れているので、この時期にアレルギーのあるものを食べると、急にゼーゼーして喘息の発作を起したり、湿疹がひどくなったり、じんましんを起こしたり、嘔吐や下痢が逆戻りしたりします。アレルギーのある食べ物は注意して下さい。以前は軽くアレルギーのあったものも、強く症状のでることがあります。
●冬になると冬らしい病気が流行ります。インフルエンザや冬の嘔吐下痢症が代表的な病気です。これらはウイルスという病原体による病気ですから現在の医学では治せる薬はありません。これらの病気にかかってしまったら、無理やり“治す”のではなく、“軽くかかる”こと“こじらせない”ことが大切です。では、どうしたら軽く済ませられるでしょうか?
こんな子がいました。信太郎君、1歳。1月のある日、信太郎君は突然吐き始めました。そして発熱と下痢。病院では嘔吐下痢症の診断。お母さんは早く病気を乗り切ろうと、栄養のあるものをと一生懸命作りました(表)。この日は、ミルクを飲んでは吐き、夕方から元気がなくなり、翌日意識がなくなるほどの重症な脱水で緊急入院してしまいました。野菜スープはよかったのですが、栄養をつけようとしてお粥にまで牛乳を入れたり、りんごジュースやヨーグルトばかり与えていたことが病気をひどくさせたと思われました。
病気の時にお粥(西日本では行平という土鍋で炊きます)と味噌汁の上澄みをとることは日本人の常識でした。薬も医者も頼りにならない状況で、何とか病気を治したいと試行錯誤した結果だったのではないでしょうか。実は、この味噌汁の汁の中に活性酸素を抑える物質が大量に入っているのです。野菜や味噌にあるビタミン類などの抗酸化物質(活性酸素を抑える)が熱を加えて調理することで生の状態に比べて数10〜1000倍の強さとなって、汁の中にでき上がっています。これを飲むことで病気のひどさを軽くしていたわけです。お茶(緑茶、紅茶、ウーロン茶、アスパラリネアなど)にも抗酸化物質が多量に入っています。さらに、お粥はエネルギーを優しく体に注ぎこんでくれ、味噌汁やお茶は水分や塩分、ビタミンを補充してくれます。病気になったら、適度に熱を上げて、お粥や味噌汁、お茶などをとり安静にしている。これが大切です。
お母さんたちにこの伝統的な良い方法が伝わっていない場合、病気になると、ジュース、アイスクリーム、ヨーグルト、プリン、牛乳、卵などをあたえて水分やエネルギーをとろうとしますが、糖分が多すぎて抵抗力をおとす、塩分が入っていない、油が多く消化できず吐いてしまう、または下痢がひどくなってしまう、また油が多く高熱になる、牛乳に含まれる乳糖が分解できず下痢になる、活性酸素を抑えず増やしてしまうことがあるなどの理由で注意が必要です。また、ポカリスエットなどのスポーツドリンク類は、水や塩分は入っていますが、役に立つような抗酸化物質は入っていません。(ビタミンCが添加されていますが、このビタミンCの役目は、缶詰めされたポカリスエット自身がどんどん酸化、つまり古くなっていくことを抑えるためで、飲む人にビタミンCを与えるためではありません。)
病気の時に必要なものは、農薬やダイオキシンなどの汚染が少ない新鮮な野菜や米、きれいな水、お茶、塩(ミネラルを含むいい塩)、きちんと醸造された醤油や味噌、自然な梅干し、スープや味噌汁を作る鍋(できれば土鍋)、そして、子どもの健康を願ういっぱいの愛情!です。
毎年夏を中心に、嘔吐・腹痛ではじまり、下痢・発熱をおこす細菌性の胃腸炎にかかる子供が増えます。原因は、お祭りで食べたフランクフルトや子供会など集団で開いた焼き肉パーティーやバーベキュー、生卵などが目立ちます。腸管出血性病原性大腸菌O-157が世の中を騒がせています。この菌が有名になってから、手洗いや調理の時の清潔が盛んに宣伝されるようになりました。今の若い方たちは、食材の扱い方を知らない…というより親から伝え聞いていない方が多く、ちょうど、食材を清潔に扱うとはどういうことかを勉強するのに良い機会だと思います。市販されている肉の8割以上で、様々な病原性の細菌が見つかっています。肉には病原菌がついていることが当たり前なのです。したがって、親から教えてもらっていれば、生肉はよく熱を通してから食べることが普通です。ところが、清潔そうにきれいなパックに入っている肉は、病原菌がついていることをお母さんたちに教えてくれません。食中毒になったしまったお子さんたちのご両親に尋ねると、ほとんどの方は「肉は清潔で病原菌はついていない」と思っています。焼き肉をするために生肉をつかんだお箸で子供にごはんをあげたり、生肉を触った手でサラダを作れば病原菌が感染します。肉を切ったまな板を洗わずに他のものを調理したり、生肉を触った手をタオルで拭いて、そのタオルをそのまま使い続ければ感染してしまいます。このようなことは避けなければいけません。
生の肉には、サルモネラやキャンピロバクター(鶏肉が原因)、病原性大腸菌(牛肉が原因。腸管出血性大腸菌O−157もこの中に入ります)などの細菌性胃腸炎(食中毒)をおこす病原菌がついています。これらの菌は嘔吐・腹痛・下痢(時に血便)を起こします。使う箸は直接口にいれる時に使う箸とは別なものにして下さい。生肉を触った手やまな板、箸はきれいに洗うか熱湯で消毒しましょう。よく熱を通してから食べることをお忘れなく。
最近、卵によるサルモネラ感染が目立ってきています。生卵には殻の表面や中にサルモネラ菌のいることがあります。生卵の殻を触った手で、生で食べる他の料理を調理したり、手拭タオルに菌を擦りつけることで感染します。火が通ったと思っていても実際は火が通っていない半熟卵や、卵焼き・スクランブルエッグなどから感染します。
魚も夏場になって海水温度が上がると腸炎ビブリオ菌で汚染されていることがあります。魚を丸のまま買ってきて調理する場合は、調理する前に魚をよく流水で洗うこと、怪しいものは熱を通すことをお忘れなく。
アレルギーっ子たちは、アレルギーのある食品と病原菌を同時に食べると胃腸炎を起こしやすくなります。
6ヵ月ぐらいから2歳ぐらいまでの乳幼児で、嘔吐と血便を起す病気があります。腸重積症です。元気だった赤ちゃんが急にぐずりはじめ、10〜30分おきに嘔吐やお腹の痛みを起します。そのうちに血便(イチゴゼリー状と言われるような便です)が見られるようになります。腸重積症では腸の一部が腸の中に入り込んでしまいます。入り込んだ腸は圧迫されて腫れ上がり、出血します。血液が流れにくくなるので、放っておくと腸が壊死を起してしまいます。そのため、この病気は早めに治療しないと手術で腸の切除をしなければいけなくなることもあるので、血便があった時点ですぐ病院にいかなければなりません。病気が始まってから24時間以上すぎると、手術の可能性が高くなります。繰り返す嘔吐と腹痛、血便は病院へ直行です。
卵やトロロイモなどアレルギーのある食品を食べたために腸重積を起こす場合があります。また、アレルギー性の腸炎で血便が出ることがあり、腸重積症と間違うことがあります。