アレルギーっ子の生活

<06-12      2001年07月22日(日)公開>

【解熱鎮痛剤によるアナフィラキシーの誘発】

解熱鎮痛剤が影響した頻度 0歳で4%(25人中)、1-11歳で6.7%(30人中)、12-20歳で12.5%、21-73歳で28.6%(14人中) アスピリンなどの非ステロイド系解熱鎮痛剤に対して異常な反応を起こし、アナフィラキシーを誘発している場合があります。特に、年令が高くなると頻度が増えてきます。今回の症例の中でも0歳で1人(1回)、1歳から11歳の例で2人(2回)、12歳から20歳の例で2人(3回)、21歳以上の例で4人(8回)がアナフィラキシー発症時に非ステロイド系解熱鎮痛剤を使用していました。

 解熱鎮痛剤がアナフィラキシー発症に及ぼす影響は3通り考える事ができます。

 1つめは過敏症です。腰痛のため鎮痛剤のプラノプロフェンを近くの整形外科医に処方され飲んでアナフィラキシーを起こした15歳男子はこの薬とアスピリンのリンパ球刺激試験は陽性で過敏症を起こしていました。この方は以前にも歯痛のためにアスピリンを飲んで自転車で登校しアナフィラキシーを起こしていますし、その後も人工香料の入ったブルーベリーガム・オレンジジュース(+カツ丼)を食べた後に運動してアナフィラキシーを起こしています。(解熱鎮痛剤に過敏になると、合成保存剤や合成着色剤、合成香料などにも過敏症を起こす可能性があります。)この方は小さい時から痛いとすぐ痛み止めを飲んでいたことが過敏症を引き起こしたものと思われました。

 2つ目はアスピリンなど解熱鎮痛剤はリノール酸を分解するアラキドン酸代謝経路に作用してアレルギー反応を起こしやすくさせている可能性があることです。

 3つめはアスピリンなど解熱鎮痛剤が別の何らかの理由でアナフィラキシーを起こしやすくさせていることです。薬剤の吸収に関わる本にはアスピリンやジクロフェナックナトリウムなどの解熱鎮痛剤が腸管粘膜から高分子の物質の吸収を高めることが報告されています。これらの物質がアレルギーの原因食物を未消化の高分子のまま吸収させていることが考えられますが、まだ、詳しい研究はされていません。

促進機構による吸収促進剤の分類
(医薬品の開発第13巻薬物送達法2章吸収過程の制御、瀬崎仁編集、廣川書店より)
1)細胞間隙経路に作用する促進剤
●促進効果が主に細胞間隙経路に対する作用によると考えられるもの
EDTA,カプリン酸ナトリウム、サポニン、N−アシル誘導体(コラーゲンペプチド、アミノ酸)、胆汁酸塩、非イオン性界面活性剤
●細胞間隙経路に対する作用が示唆されているもの
エナミン誘導体、サリチル酸ナトリウム(注2)、DEEMM,グリセリンエステル、脂質・胆汁酸混合ミセル
2)細胞内経路に作用する促進剤
●膜脂質との相互作用を示すもの
脂質・胆汁酸混合ミセル、非ステロイド系抗炎症剤(注1)、カプリン酸ナトリウム(?)
●膜タンパクとの相互作用を示すもの
サリチル酸ナトリウム、コンカナバリンA、脂質・胆汁酸混合ミセル、非ステロイド系抗炎症剤(注1)、カプリン酸ナトリウム(?)
●細胞内GSH量に影響を及ぼすもの    ジエチルマレート、サリチル酸ナトリウム(注2)、DEEMM
注1:インドメタシン、ジクロフェナックナトリウム、フェニルブタゾン
注2:サリチル酸ナトリウム及びその誘導体である5−メトキシサリチル酸ナトリウムの消化管、特に直腸からの薬物吸収促進効果は著明。
   インスリン、ヘパリン、ガストリン、ヒト成長ホルモンなどの高分子薬物に対しても促進効果が認められている。


1990年3月 パン・ハチミツでじんましん(1)
1990年5月 あんドーナッツでじんましん(2)
1990年6月 カレーライスでアナフィラキシー(1)
     血圧低下、意識低下、全身の紅斑・浮腫
1991年4月 ギョウザでアナフィラキシー(2)
     血圧低下、意識低下、全身の紅斑・浮腫
1992年1月 ラーメン・焼き豚でアナフィラキシー(3)
     血圧低下、意識低下、全身の紅斑・浮腫
1992年5月 じんましん(原因不明)(3)
1992年6月 冷し中華でじんましん(4)
1993年7月 ケーキでじんましん(5)
1993年12月 菓子パンでアナフィラキシー(4)
     血圧低下、意識低下、全身の紅斑・浮腫
1994年1月 すしでじんましん(6)
       (エビ、ホッキ、マグロ、ホタテ、イカ)
1994年2月パン、マヨネーズでじんましん(7)

こんな人がいました。
 73才男性。三味線のお師匠さんをしておられる気さくなおじいさんです。小麦によるアナフィラキシー、アスピリン(バファリン®)・ジクロフェナックナトリウム(ボルタレン®)によるアナフィラキシーの誘発が見られました。
 家族にはアレルギーの病気はありません。今までじんましんなどアレルギーはありません。高血圧症があります。胃の手術を1987年7月におこなっています。
 1990年1月に心筋梗塞を起こしてしまい、その後から血栓予防のため小児用バファリン®を飲み始めました。その直後から、表のようにじんましんとアナフィラキシーを繰り返し起こすようになってしまいました。
 心筋梗塞後の抗凝固療法として小児用バファリン®投与中のことです。95年7月3日より頭部に帯状疱疹ができ疼痛がありました。7月5日より鎮痛のためにボルタレン®を飲み始めました。95年7月16日午前中にイチゴジャムを塗ったパンを食べました。その後、全身に発赤あり、立っていられなくなり来院。「今回の発作が一番ひどい」とご本人は訴えました。血圧は50mmHgまで下がっていました。副腎皮質ホルモン、昇圧剤、酸素投与などで数時間後にはやっと血圧84mmHgまで回復。夕方には全身の浮腫・紅斑が著明となり、入院となりました。翌日には症状は改善しました。
 検査では小麦(スコアー2)とイネ科花粉(スコアー1)にアレルギーがあり、アスピリンのリンパ球刺激試験156%で陰性、ジクロフェナックナトリウムのリンパ球刺激試験382%と陽性でした。便培養ではカンジダアルビカンス(+)、その他のカンジタも(+)で腸内の状態も悪いようでした。その後、抗アレルギー剤(セルテクト®)、整腸剤(ミヤBM®)を飲み、小麦製品の除去を続けました。96年8月28日には小児用バファリンは投与中止となり、97年9月まで、2年間以上、アナフィラキシー再発はありません。

 胃の手術が腸の状態を変え、潜在していたアレルギーを起こさせたのかもしれません。心筋梗塞後より投与したバファリン®により、腸管粘膜の透過吸収性が亢進し、小麦のアレルギーを起こさせやすくさせ、以前から持っていたアレルギーが顕著化したのでしょうか。特に最後のアナフィラキシーは1週間前から発症直前までボルタレン®を投与されていたため、過敏症と同時に腸管透過性がさらに亢進し、激しい症状を起こしたものと思われました。

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