アレルギーっ子の生活

<05-16     2001年10月28日(日)公開>

【アレルギーっ子と落ち着きのなさ】

 アレルギーっ子たちの中には、動きが激しく、1ヵ所にじっとしていられない子供たちが目につきます。何とか落ち着かせようとしますが、これがなかなか大変で抑えることはできません。どうしてなのでしょうか?

 アレルギー性緊張弛緩症候群という病気があります。アレルギーを起こすと、興奮・落着きのなさ・イライラ・移り気・おこりっぽい・泣き叫ぶなどの緊張性の状態と、ボーっとする・眠い・疲れやすい・意欲がない・悲観的になるなどの弛緩状態が交互に繰り返して現れることがあります。多くのアレルギーっ子たちは、アレルギー状態になった時には個人差がありますが、この緊張弛緩症候群を多少は持っています。

 それに加えて、アレルギーっ子たちに使われる気管支喘息の薬−気管支拡張剤、漢方薬の一部に興奮作用があり、また、抗アレルギー剤の一部には眠くなったりおこりっぽくなったりする薬があるためにアレルギーっ子特有の精神状態・性格が形作られていきます。

 テオドールテオロングフレムフィリンなどのキサンチン製剤気管支を広げて気管支喘息の発作を軽くさせるための薬ですが、同時に興奮作用を持っています。飲むと興奮し目がさえて眠れなくなってしまうことがあります。落着きがなくなり、快活になります。飲んで寝ると、恐い夢をみて夜泣きすることがあります。この薬を飲む時は、喘息の治療と興奮作用をてんびんにかけて一定の覚悟はしなければいけません。つまり、今夜は眠れず興奮している子供に付き合わなくてはいけないかもしれません。ただし、この薬は飲み続け、慣れていくと興奮作用はやや軽減していきます

 メプチンホクナリンベロテックなどの交感神経刺激剤(飲み薬・吸入薬)や漢方薬麻黄湯葛根湯などに含まれる麻黄もキサンチン製剤同様に興奮することがあります。

 セルテクトザジテンなど抗アレルギー剤抗ヒスタミン剤が有する抗ヒスタミン作用は、眠気を起こします。そのため、夜眠れない時にはこの薬を飲むことでぐっすり眠ることができます。痒みを止める作用もありますが、眠くてボーっとするため自制できず、掻きむしってしまうこともあります。抗ヒスタミン剤は、イライラがひどくなりおこりっぽくなってしまうこともあります。この場合は薬を止めなければいけません。

 妊娠初期の大切な時期にお母さんが食べた魚・魚卵や肉の油脂、牛乳、卵などに含まれるダイオキシンやPCB、DDT(有機塩素系殺虫剤)などの環境汚染化学物質のため、多動で落着きのない子が生まれてくることが指摘されています。また、生まれた後に食べたこれらの汚染物質でも同様な状態になることが報告されています。

 1991年、Helen B.Dalyは成体のラットにオンタリオ湖で育ってダイオキシンやPCB、DDTなどで汚染されたサケを食べさせて次のような結果を得ています。(文献1、2)。

 約2メートルの長い通路の先に15個の餌をおいておき反対側にラットを放して訓練します。ラットはすぐに餌のところに行って食べるようになります。餌のところまで辿り着く時間は、汚染したサケを食べたラットも汚染していないサケを食べたラットも変わりがありません。
 この餌を突然、15個から1個に減らします。すると、汚染していないサケを食べたラットは、一時期餌に辿り着くまでの時間が長くなりますが、すぐに元のように短時間で餌に辿り着けるようになります。ところが、オンタリオ湖の汚染したサケを食べたラットは通路の中をウロウロしていつまでたっても餌に辿り着けず、時間がかかってしまうのです

 こんな実験もあります。同じように、長い通路の反対側に餌をおき、汚染したサケを食べたラットも汚染していないラットを食べたラットもすぐに餌まで辿り着けるように訓練します。この時、差はありません。ほんの軽い電気ショックを受けないと餌に辿り着けないようにすると、汚染のないサケを食べているラットは再びすぐ餌に辿り着くことができるようになるのに、汚染したサケを食べたラットは餌まで辿り着けません。平常時はほとんど変わりがないのに、ほんのちょっとした出来事がラットをうろたえさせます

 一連のDalyの実験ではこんな実験も行われました。餌を得るためにラットはレバーを2回押さなければいけません。次の餌を得るためには4回、その次の餌を得るためには6回と、2回づつレバーを押す回数を増やすと餌をもらえます汚染していないサケを食べたラットは一定の餌を食べるとそれ以上はレバーを押さなくなりました。ところが、汚染されたサケを食べたラットは、レバーを押す回数も、レバーを押す動作を続ける時間も2倍以上でした(文献2)。

 こんなラットの行動から人での行動パターンを想像することができます。平常時の好きなことや、実行後に快感を味わえることに対しては、集中して没頭する、または、しつこく執着してしまうが、いったん不快なこと、予想できないアクシデントが起ると行動できずパニックになってしまう。アレルギーっ子やアレルギーっ子のお母さんたちがアレルギー状態の時に陥りやすい状態とよく似ています。さらには、今の「普通」の子供たちに見られるおかしな行動と似ていませんか?

 受精時から出産7日目まで同じように汚染されたサケと汚染していないサケを与えられた親のラットから生まれた子ラット(子は汚染されたサケは食べていない)は、同じような行動をとることが実験で示されています。

 動物実験やオンタリオ湖の汚染された魚を食べたお母さんから生まれた子供たちの報告(文献3)にあるような、落着きがなく、多動で、学習障害を起こすこともあり、様々な出来事にうまく対応できず、環境に順応できない、不測の事態に過剰な反応を起こす。―これらはアレルギーっ子たちによく見られる状態とよく似ています。妊娠初期のころの食べ方をアレルギーっ子のお母さんに聞くと、ダイオキシンを多量に含んでいる可能性が高い魚やレバー、乳製品、卵製品、肉脂などを多食している人が目立ちます。なんらかの影響を胎児期から受けていることは間違いないでしょう。

 食事に気をつけ改善されてくるとこんな状態は軽くなります。同時に、性格として片づけてしまわないで、様々な環境汚染を起こす化学物質でも同様の症状が起こることを頭に置いて、生活上の様々な出来事に1つ1つじっくりと考えてうまく対応できるよう訓練していくことが大切です。

 したがって、アレルギーっ子たちの本当の「性格」はよくわかりません。痒みを抑えるために飲んでいる抗ヒスタミン作用のある薬のために、ボーっとしていたアトピー性皮膚炎の子供が、良くなって薬が減ると同時に活発で元気な子供に変身していきます。喘息の治療のために飲んでいる気管支拡張剤の興奮作用のために落着きがなく移り気な子供が、生活や食べ方を改善し汚染物質を避けてより自然な食べものを食べるようになり、薬をあまり使わなくなり、アレルギーが良くなっていくと、落着きある考え深い子供になっていく。そんな、変わりようを見ていくことは、なんて楽しいことでしょう。

 落着きのなさを嘆くより、色々なことに興味を持ち、色々なことを経験できるように援助してあげて下さい。押えつけるだけでなく、その子にあった興味のわく楽しいことを見つけてあげて下さい。一生懸命できる何かを見つけられるように、色々と試してみましょう。アレルギーが軽い時のアレルギーっ子たちの頭の中は普通の子よりももっと活発に働いているように見えます。一つのことに集中して取り組む力もずば抜けてすごいものがあります。その活発さと能力をうまく生かして伸び伸びと育てば、アレルギーっ子たちはその子の持つ力を十分発揮できる輝くような子供になることでしょう。

参考文献:

(1)H.Daly Reward Reactions Found More Aversive by Rats Fed Environmentally Contaminated Salmon.
Neurotoxicology and Teratology 13:449-53,1991
(2)H.Daly The Evaluation of Behavioral Changes Produced by Consumption of Environmentally Contaminated Fish.
The Vulnerable Brain and Environmental Risks:Vol.1.Malnutrition and Hazard Assessment, Chapter 7,R.Isaacson and K.Jensen,eds.,Plenum,1992,pp.151-71
(3)J.Jacobson,S.Jacobson,and H.Humphrey Effects of In Utero Exposure to Polychlorinated Biphenyls and Related Contamination on Cognitive Functioning in Young children,Jounal of Pediatrics 116:38-45,1990

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