<04-38 2001年09月09日(日)公開>
天然ゴムは、ゴムの木の幹に傷をつけ、染み出てくる樹液を加工して作った物です。最近、このゴムのアレルギーが増えています。
9歳になる喘息の男の子はダニやカビ、食べ物など色々なものにアレルギーを持っています。ある時病院で採血のためにゴムでできた駆血帯(管状のゴム)を腕に巻いたところ、ゴムの触れたところがじんましんになってしまいました。ゴムのアレルギーがあったのです。
他にも、歯医者さんで歯の治療をするときに使ったゴムのシートでアナフィラキシーを起こした例や、ゴム風船を膨らましたら唇が腫れあがってしまった子の例などが報告されています。手が荒れないようにとゴム手袋を使ってかえって手の皮膚がボロボロになってしまったお母さんたちの例もよく経験します。手術用のゴム手袋をつけてアナフィラキシーを起こした看護婦さんも経験しました。
ヨーロッパ人はアメリカ大陸を発見した後、現地の人が、樹木に傷をつけ、しみでてくる白い液体を自然凝固させてゴムを採取していることを見つけました。その後、ゴムの生産は飛躍的に増加しました。ゴム成分を分泌する植物は220種類以上あるといわれています。巨大な木からつる草、草までいろいろな種類にわたっています。現在、天然ゴムは南アジアや東アフリカの熱帯に生える Hevea brasiliensis などのゴムの木から採取・加工されています。
ラテックスアレルギーは、医療器具としてゴム製品多用する患者さん、ゴム製造業者を中心に増加していると思われます。医療従事者の間では、外科などゴム手袋をよく使う部署で、ゴム手袋への直接接触や、ゴムの成分を吸着した滑りをよくするためのパウダー(粉にゴムの成分が付着している)の飛散によってアレルギーを起こす人が増えてきています。
アレルギー体質を持つ人では、今後アレルギーを起こす場合が増えて来るでしょう。1992年には、アメリカで1000例以上のアナフィラキシーショック例と15例の死亡例が報告されています(1)。
ラテックスアレルギーの原因となる蛋白質は「植物が自らを保護するために持っている生体防御蛋白である」と考えられてきています。ゴムは傷をつけられた樹皮を保護するために植物が持っている防御のための物質です。天然ゴムを効率的に多量に採取するため、ゴムの木を傷つけ、植物ホルモンを誘導するような化学物質を与えることなどによって樹木にストレスを与え、自己を防衛する反応を高めます。そうすることでゴムの生産量を高め、また、ゴムを多量に生産できるように品質改良されています。ゴムにアレルギーを起こす、つまり植物の持つ生体防御蛋白にアレルギーを起こすと、同様な生体防御蛋白は様々な植物が種を越えて持っているため、ゴム以外のさまざまな植物に対してもアレルギーを起こしてしまうことになります。現在、報告されている交差反応食品(ゴムにアレルギーを起こすと、同時にアレルギー反応を起こしてしまう食品)は、バナナ、キウイ、クリ、アボガド、クルミ、トマト、パパイヤ、グレープフルーツ、ジャガイモ、メロン、イチジク、ピーナッツなどがあります(2)。
ゴムでできたものは身のまわりに数多くあり、接触する機会が多いとアレルギーを起こしてしまいます。なるべく触ったり、舐めたりしないように気をつけましょう。ただし、ゴムの成分の溶け出しやすさがアレルギーの起こしやすさと関係しています。赤ちゃん用の乳首は製品が造られるときによく洗浄されているのでゴム成分はあまり溶け出さず、アレルギーを起こしにくくなっています。おしゃぶりに使われているゴムは微量溶け出すようです。なるべくは、避けた方が良いでしょう。風船や輪ゴム、ボール、家庭用ゴム手袋、ゴムの人形などは溶け出しやすいのでなるべく触らないようにします。アレルギーのひどい子供が輪ゴムを指や腕に巻きつけている光景をよく見かけますが、止めた方が良さそうです。アレルギー体質の子供が風船を舐めたり、割れた風船をしゃぶってことがありますが、止めさせた方が良いでしょう。ラテックスアレルギーの人や化学物質に敏感な人はゴム製品のあのいやな臭いと舐めた時の苦みがわかることと思います。あの臭いと苦みはゴムの成分やゴムに使われた可塑剤などの化学物質が溶け出している証拠です。
屋内においてあった鑑賞用のゴムの木の葉っぱをいじっていてアレルギーを起こしたと思われる子供の例も報告されています。ラテックスアレルギーがある人は、室内の鑑賞用植物にも注意を払いましょう。
ラテックスアレルギーがある人が病院などの医療機関を受診する場合、妊婦検診や分娩などでゴム製品を使用する場合には、あらかじめゴム製品にアレルギーがあることを伝えておく必要があります。ゴム手袋、導尿用のチューブ、点滴チューブの連結管、採血時の駆血チューブなどによってアレルギー症状を起こす場合があり、発病を予防する必要があります。
チューインガムは、南アメリカや中部アメリカ原産アカテツ科常緑高木サポディラの樹皮を傷つけ、流れ出た樹液を採取したチクル(ゴムの一種)に味付けしたものです。長い時間口に入れて噛むため、ゴムのアレルギーとの関係では避けたい食品です。さらに、現在のチューインガムは、チクルが原料として多量に入手できないために酢酸ビニルのポリマー(分子が1つのモノマーは発癌性があります)を主原料にし、チクルを何割か混ぜてあります。酢酸ビニルには合成樹脂の可塑剤であるフタル酸エステルなど(環境ホルモン物質です)が使われているため、これを考えると、さらに避けたい食品となります。特に、発達過程にある幼児や妊婦は注意が必要です。
(1)富高晶子、秋田浩孝、松永佳世子、上田宏:ラテックスアレルギーの臨床、アレルギーの臨床19:754−757、1999
(2)矢上健:ラテックスアレルギーの基礎、アレルギーの臨床19:749−753、1999