アレルギーっ子の生活

<04-32      2001年08月30日(木)公開>

【魚・貝がアレルギーの時】

 最近、魚のアレルギーが増えてきています。特に、昔から多く魚を食べる習慣のある家庭では、乳児や幼児を中心に増加してきています。

魚介類の汚染

 大きな魚は海の中で食物連鎖の頂点近くにいるため、海の汚染の影響を確実に受けます。特に魚の油脂部分には、ダイオキシンやPCB、DDTなど油脂に溶けやすい性質の有機塩素系の化学物質が蓄積されるため、脂の多い魚はアレルギーを起こしやすくなっている可能性があります。

★魚介類のダイオキシン汚染
  海・河川・湖の
汚染度
場所 魚の食性 魚の年齢 魚介の
油脂
育ち方
魚介の
ダイオキシン濃度が
高くなる条件
化学物質で汚れた海・河川・湖に棲む魚介(とくに、底に棲む魚) 日本沿岸(日本近海)で獲れた魚介 魚を食べる肉食の魚 生存期間が長いほど汚染が蓄積される 油脂が多い魚介 養殖魚
魚介の
ダイオキシン濃度が
低くなる条件
化学物質で汚染されていない、きれいな海・河川・湖に棲む魚介 外国のきれいな海で獲れた魚介 藻やプランクトンを食べる食物連鎖のはじめの魚 若い魚ほど汚染が少ない 油脂が少ない魚介 天然魚

汚染度の高い魚介類 アジ・サバ・タチウオ・コノシロ・サッパ・ガザミ・ムール貝(ムラサキイガイ)、カラス貝・シジミなど
汚染度の低い魚介類 遠洋(マグロ・サンマ・カツオ)・シラスなど稚魚・ガザミ以外のカニ類・イカ類・タコ類・エビ類・カレイなど白身魚・ムール貝とシジミ貝以外の貝類

 汚染が進んだ河川の水が海に流れ込み、海を汚しています。ダイオキシンは河口近くの汚れた海の魚や貝類に多いので、海産物は採れた場所に注意を払って選んで下さい。なるべくきれいな海や川で育った食物連鎖の初めにいる魚で、生まれたから時間が経っていない若い魚や稚魚を食べるようにします。魚卵は、親から受け継いだ汚染された油脂を多量に含むため食べることを避けます。貝は、食物連鎖の初期にいるので汚染は軽いと思われますが汚染の範囲が広く、ほぼ全ての貝が汚染されていると思われます。特に、養殖された貝類(カキやシジミ)にアレルギー反応を起こす子どもが多くなっているので注意して下さい。
 また、北半球棲息のクジラ肉、クジラ肉として売られている沿岸棲息のイルカ肉の中にはPCB(ダイオキシンの一種であるコプラナーPCBを含むや水銀などの汚染物質が蓄積されていることが調査報告されています。魚でも、遠洋産はダイオキシンの汚染が軽いと言われていますが、北半球の緯度の高い地域ではPCBや水銀などの汚染が進んでいる場合もあります。日本近海で捕れたカツオはPCB汚染の高いことが報告されています(1)。

 魚のダイオキシン濃度をまとめてありますので、参考にして下さい(準備中)。

★魚の鮮度

 魚は死んだ瞬間から酸化が進みます。時間が経つと蛋白質が分解されて旨みが出ますが、ヒスタミンなどのアレルギーを引き起こす物質も作られ、脂は酸化しアレルギーを起こしやすくなっていきます。そんな魚を多量に、毎日のように食べればすぐにアレルギーになってしまうのは当たり前です。最近は、DHA(ドコサへキサエン酸)、EPA(アイコサペンタエン酸)などαリノレン酸の代謝産物が健康やアレルギー予防、頭が良くなるために良いと宣伝されたため、魚を過剰に食べる人もいますが、酸化した魚の脂の害を受けないように新鮮なうちに程々の量を食べるようにしないと意味がありません。魚に偏らず、植物に含まれた酸化されにくいαリノレン酸を多量に食べることをお奨めします。

★魚の蛋白質の共通抗原(交差抗原)

 困ったことに、1種類の魚のアレルギーを起こすとその他のほとんどの魚も反応するようになってしまいます。魚のグループが違うと反応の出やすさも多少違うことがありますが、年令が小さい子どもでほとんどの魚がだめという例も増えてきています。魚には共通したアレルギーを起こす蛋白質のあることが理由の1つです。また、魚類全体の汚染が進んでいることが原因かもしれません。

★薬品で汚染された魚介類

 筋子やイクラ、タラコ、明太子などに使われている合成着色料や保存剤・発色剤は、アレルギー症状や過敏症を誘発する可能性があります。
 10年ほど前、アカウオ(遠洋で採れ冷凍された赤い色の魚の総称。コウジンメヌケなど。)で重症なアナフィラキシーを続けて数例経験しました。原因がわからなかったのですが、同じ頃夜間の当直をしていて40歳代のひどいじんましんの女性を診察しました。アカウオが原因と思われるアナフィラキシーを経験した後でしたのでその人に「アカウオを食べませんでしたか?」と尋ねるとこんな話をしてくれました。その人は魚の加工をする工場に勤めていて、その工場の一角ではビニールで囲まれた部屋があり、その中でアカウオに何か薬品処理をしているらしいとのことでした。アカウオは冷凍すると赤い色が抜けてしまうため、薬を使って色を出すとのこと。そこの担当になった人は次々とじんましんを起こして担当を代わっていくとのことでした。どんな薬が使われていたかは結局わかりませんでした。その数年後に、魚には鮮度保持剤などの薬品は使ってはいけないことになりました。現在はアカウオで激しい症状を起こす例は少なくなりました。

仮性アレルゲン

 魚に含まれる仮性アレルゲンに注意しましょう。魚貝類の中にはそれ自身がアレルギー症状を起こさせる働きをする物質を含む物が含まれています。イノリン(サンマ、タラ、サケ)、トリメチールアミンオキサイド(エビ、カニ、イカ、タコ、アサリ、ハマグリ、カレイ、タラ、スズキなど)などです。これらの魚貝類は体調が悪い時に食べると急にアレルギー症状を起こすことがあります。

★ラパス貝(チリ産アワビ)

 貝のアレルギーでは特にきわだって目立つものがあります。ラパス貝(チリ産アワビ、チリ産トコブシ、学名ダイオウスカシ貝)によるアナフィラキシーです。アワビ漬物やアワビ煮付けとして“お土産”として売られています。日本のアワビではなくチリで採れたラパス貝を加工した物ですが、知らない方は観光地で採れたアワビと勘違いして食べてしまうことが多いようです。全ての例で、以前に何回も食べたことはなく1回目の摂取で発病しているため、過食によるアレルギーではなさそうです。このラパス貝に含まれる何かがアレルギーを起こしているようです。知識があり気をつけていれば食べる必要もないため、ぜひ覚えておいて下さい。お土産品は後ろの成分表示をきちんと見て買いましょう。

★エビのアレルギー

 エビのアレルギーは比較的多くみられます。その原因はおそらく食べ過ぎでしょう。しかも、タイなど東南アジアで養殖されて輸入されるエビは、漂白剤(亜硫酸塩など)などが使用されています。この薬剤のために、エビを口にした直後に唇がタラコのように腫れてしまうことがあります。エビは新鮮でいい物を少量食べるようにしましょう。エビにアレルギーを起こすと同じ仲間のカニやシャコエビ、アミでも症状を起こす可能性があります。ただし、エビはだめでもカニは大丈夫という人が多くいます。

魚介類の接触性・吸入性アレルギー

★魚貝への接触性皮膚炎に注意

 1歳の男の子は卵・牛乳・大豆・小麦とアレルギーが強いアトピー性皮膚炎でした。食事療法や環境整備をしましたがなかなか良くなりません。そこで魚のアレルギーを調べると魚はほとんどが陽性でした。実は、お父さんは会社員でしたが、自宅ではおじいちゃんが魚屋を自営していました。いつも面倒をみているおばあちゃんは魚屋の仕事を手伝っていました。おばあちゃんの服や手に付いた魚のエキスが赤ちゃんの顔や手足、体に触れてアトピー性皮膚炎を起こしているようでした。おばあちゃんに服を着替えてもらい、手をよく洗って魚のエキスが赤ちゃんの体につかないようにしてもらうと、アトピー性皮膚炎は急激に良くなりました。一種の職業病でしょうか? 魚はアレルギーを起こすと強く反応することが多く、微量の接触も注意が必要です。

★魚を焼いた煙で気管支喘息発作を起こすことがあります

 魚のアレルギーが強い場合は、家庭で魚を焼くと、煙を吸いこんで気管支喘息発作を起こす場合があります。魚は魚アレルギーの強い子がいる場合は焼かないようにします。どうしても焼く場合は換気扇を使って煙の処理をきちんとして下さい。焼かないで調理する方法を考えて下さい。煮た場合も、魚のエキスが入った湯気で症状を起こすことがあります。気管支喘息だけでなく、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎なども悪化することがあります。

ペットの餌

アレルギーっ子は毛のある動物を飼えないため、金魚や熱帯魚などを飼うことが多くなります。ところが魚にアレルギーがあるとペットの魚に触っても、また、水槽の水に触っても痒くなってしまうことがあります。さらには金魚やカメの餌は魚の粉末を使っているものが多く、触らないように気をつけます。

参考文献:
(1)上野大介、高橋真、田辺信介:日本近海および南アジア産カツオにおける有機塩素化合物の蓄積特性、
   日本内分泌撹乱化学物質学会第二回研究発表会要旨集:2、1999

参考図書:
 暮らしと住まいの安全性を見直すブックレット1−いま、さかなは安全か、小島正美、日本子孫基金(電話03−5276−0256)、1996

「アレルギーっ子の生活」最新ページへ戻る       第4章『アレルギーと食べもの』のindexページに戻る       前ページ(No.04-31)ページに戻る       次ページ(No.04-33)に進む      このページに飛んできた「元のページ」に戻る