<04-05 2001年03月11日公開>
アナフィラキシーやアレルギーの発症を押さえるためには、周囲の様々な誘惑に負けずにその子にあった哺乳類のヒトとしての成長をしっかりと暖かく見つめることが求められます。個人差があることを心に留めておき、大まかな人としての食べ方についての発達を考えてみましょう。これは食べるためにはなくてはならないもの、歯を中心に見た人の成長・発達です。
赤ちゃんは生まれるとすぐに(30分以内)にお母さんのおっぱいを探し当て、目を開いてお母さんの顔を見つめながら初めてのおっぱいを飲みます。初乳はお母さんからの贈り物。母乳には赤ちゃんを感染症や不適切な環境から守ってくれる免疫グロブリンがいっぱい入っています。あるものは赤ちゃんの体内に吸収され、あるものは赤ちゃんの腸粘膜表面全体に広がり危険な外界(アレルギーを起こしやすい物など)から赤ちゃんを守るために働きます。お腹の中に入ってきてしまった病原性細菌などを殺菌する物質(ラクトフェリン)やアナフィラキシーの予防にはどうしても必要である正常な腸内細菌叢を作り出す物質も母乳中には含まれています。 母乳は固形の食物を食べられない赤ちゃんのためにお母さんが食べ、消化吸収し、お母さんの体内で母乳として再合成して作り出した最高の赤ちゃん用の食べ物です。
離乳とは、お母さんが食べたものを素材にお母さんの体を使って作り上げた赤ちゃん用の食事「母乳」を飲むことから、自分の歯で大人と同じ食べ物を食べることに変わっていくことをいいます。母乳をやめて、牛乳を飲むように変わることではありません。母乳からヒトが食べるべき食物、ご飯や野菜等を食べるように変わっていくことです。
約1年間をかけて、母乳からヒトが本来食べるべき食べ物に替わっていくこと、母乳中に含まれる乳糖を消化する能力が徐々に衰え、穀物や芋類・豆類・植物に含まれるでんぷんを分解する能力を獲得していくこと、それが「離乳」と言われます。本来の哺乳動物のあるべき正常な消化吸収の発達です。
月数 | 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 |
水 →塩・野菜のだし→昆布だし →カツオだし→肉のだし 野菜→海草→ 白身魚→ 豚肉→青身魚・赤身魚 醤油・味噌→豆腐→豆・納豆 米→ →小麦・小麦の麺・雑穀 →パン |
日本人の体質に合いやすい(適応しやすい)食品から離乳を開始し、徐々に食品を増やしていきます。体の中で処理しにくい(適応しにくい)食品は、1歳以降、腸の働きがしっかりしてきて、異物を処理する能力が高くなった時点から徐々に開始します。アレルギーを起こしてしまったものはきちんと除去し、食べないようにします。
●乳歯が生えそろい完成する2歳ぐらいまで
この間は親が子供に合ったすべての食べ物を歯がそろっていなくても食べられる形に調理して与えなければいけません。離乳から乳歯の生えそろう時期までの食べ方や味のつけ方がその子の一生の食べ方の基礎、味覚や嗜好の基礎をつくってしまいます。味の濃いお菓子やインスタント食品などをあげないで、食べ物のもつ素材そのものの味や香りがわかるようにいい素材を手に入れ、薄い味付けであげるようにしましょう。
●乳歯が生えそろい乳歯の歯並びが完成した後
乳歯の歯並びが完成すればほぼ親と同じ物を食べられるようになります。この間、親は子供に適切な食べ物を与え続けなければいけません。保育所に行っても、幼稚園の給食があっても、それは変わりません。保育所の場合は、保育所の先生たちと相談してその子に合った食事を作っていただくことが大切です。幼稚園の場合は次の項のように、出された給食の代わりに、お弁当を作って持っていけるように幼稚園の先生とよく相談してください。
腸管粘膜はまだ未発達の状態です。アナフィラキシーの原因となる食物はきちんと除去を続けなければなりません。
●乳歯が抜けはじめ永久歯がはえてくる6〜7歳から親知らず以外の永久歯が生えそろう12〜13歳までの間
この間は、子供たちが自分で食べ物を獲得することはできませんが、与えられた食物の中から選んで食べる能力を練習する時期になります。自分の食べる物を自分の舌(味覚)、香り(臭覚)、目(視覚)、触った感じ舌ざわり(触覚)そして知識を使って選ぶ訓練をします。食品の調理方法も覚えていきます。親はより良い食べ物を子供たちに与え、食べることを教え、その子の食べられるもの・食べられないものを含めて親の持っている知識や生活上の“わざ”のすべてを伝えなければいけません。
腸管粘膜はだいぶしっかりしてくるため、以前は食べるとすぐに症状を起こしていたものが多少ならば食べても大丈夫になります。しかし、そのまま食べ続けていると突然アナフィラキシーを起こしてしまうことがあります。食事に対する注意は続けなければいけません。
この時期の最大の難関は集団給食です。給食は栄養士さんが一生懸命献立を考えて作り出したものですが、残念ながら、個人々々のその日の体調に合わせて作ったものではありません。アナフィラキシーを起こしたことのある子どもは、その時の体調によってアレルギーの起こりやすさが変わるため、その子のことを十分わかっている人が素材に注意を払う必要があります。
また、この時期の子どもたちは、自分のからだの状況に合った適切な食品を選ぶ力は十分にありません。そうした時期に不適切な方法で給食を食べさせる(体調が悪いのに過去にアレルギーがあったものを無理して食べてしまうことや給食に使われている素材の問題など)と、食品を選ぶ力が育たず、その子の一生の食べ方を台無しにしてしまうかもしれません。給食の内容をよくみて、必要ならばお弁当を持っていくことを考えたほうが良いでしょう。
●13歳以降、永久歯が生えそろった後
ヒトが食べるすべての食べ物が選べ、味わうことができ、食べられ、そして食物そのものを周囲の環境から自分自身で獲得し調理する事を練習する時期になります。目の前にある食べ物がどのように作られ、どのように処理・運搬されて目の前まで届くのか、どんな食べ物が自分の体(哺乳類としてのヒト)に合っているのか、どこに行けば手に入るのかなど、そして、からだに合った調理方法など、食べることのすべてを学習します。
それまでは、親の保護のもとに食べてきた食生活を本人に任せることが最悪の状況を招くことがあります。つまり食べ方を失敗してしまうことです。アレルギー特にアナフィラキシーがある子にとってこれは致命的になりかねません。これを防ぐためには、親と充分に相談する時間と相談する雰囲気、親子の意志の疎通などが必要になります。しかし、これはそこに至るまでの積み重ねがあってはじめてできるものです。
子供の体から大人の体に変わるとき、つまり、思春期には劇的な体内の変化があります。思春期になると、免疫やアレルギー反応を起こしやすくさせる成長ホルモンは分泌が増加しますが、思春期が過ぎて、身長の伸びがとまるころになると分泌が低下し、過剰なアレルギー反応が起こりにくくなります。
同時に、性ホルモンの分泌が始まります。陰毛が生え始め、男の子は声が低くなり体は男らしく、女の子は生理が始まり体も女らしくなっていきます。性ホルモンのなかでも卵胞ホルモンは抗体の産生を高め、アレルギーを起こしやすくさせますが、男性ホルモンや黄体ホルモンはアレルギー反応を抑えてくれます。したがって、男性は思春期を過ぎるとアレルギーは激減します。男の子では思春期を越えると気管支喘息や様々なアレルギーの病気が影を潜めていきます。
女の子では、生理が順調に定期的になるとアレルギー反応は軽くなります。ただし、女性ホルモンの分泌が減りバランスが乱れる生理のときには、アレルギーが起こりやすくなります。いずれにしても、思春期を無事に過ぎると、アレルギー反応は軽くなっていきます。
しかし、思春期は注意が必要な時期でもあります。急激な成長ホルモンの分泌増加、正常な性ホルモンの分泌がおこなわれないなどの理由によって、ホルモンのバランスが乱れやすく、重症なアレルギー症状を起こしやすい時期でもあります。それなりの注意が必要な時期です。
また、思春期を過ぎ、性ホルモンが十分分泌されて大人の体になり、身長の伸びもなくなり成長ホルモンの分泌が少なくなったと考えられるのに、まだアレルギー症状が続く場合には、以後もずっとアレルギーの状態が続くことを考えなければいけません。
●そして、成人
自立できる経済的な条件が整ったとき、素材を選び、自分で得た収入で買い、調理し、食べるという食べる行為すべてをその子はできるようになり、一人の人間になります。ここで食の独り立ちとなります。
食べ物は「これを食べたら健康になる」というものはありません。その時の状況−季節(春夏秋冬)・時間帯(朝か夜か)・食べることに費やす時間(ゆっくり食べられるか時間がないか)・精神状態(穏やかな気持ちのときか、怒っているときか、悲しいときか)・良い食材が手に入るか・調理器具があるか・アレルギーがあるかなど様々なことで食材の選び方・食べ方は変わってきます。もし、ある食べものがアレルギーになってしまい食べられなくなったときには、すぐ次に食べられる食材を臨機応変に選び出し、工夫して使うことができるやわらかな頭が必要です。そんな考え方は小さい時からの食の体験で出来上がっていきます。
独り立ちのとき、電気釜などご飯を炊く道具、まな板と包丁、鍋とおたまは最低必要です。きちんと持たせてあげるようにしましょう。朝、ご飯と野菜がいっぱい入った味噌汁を食べることで食のバランスはよくなり、一日の生活が充実してすごせるようになります。
次の世代を出産する時期になったときに、アレルギーを起こしやすい環境や食生活をしていると、本人は十分なホルモン環境の下でもなんとかアレルギーを起こさないで生活できたとしても、体内の命、胎児はその悪い環境に耐えきれず、アレルギーを起こしやすい体質を受け継ぎ、正常な神経機能や正常なホルモン環境を作れない状態で生まれてくることになってしまいます。健全な環境とヒトの体に合った食生活が次の健康な世代を作り上げることができるのです。
そして、40歳を過ぎると、性ホルモンは分泌が低下し、様々な生体機能は低下し、再びアレルギーを起こしやすい状態、一度始まったアレルギー反応を抑えることができなくなりアナフィラキシーなど重症なアレルギー疾患を起こしやすい状態になっていきます。良い環境と良い食生活がアレルギーはじめとした様々な病気を起こしにくくさせ、健康な老いをもたらします。
お母さんのお腹の中で受精した卵子は、分裂を繰り返し、約10ヵ月の時間をかけて、物質としてのヒトの体を作り上げます。
そして、出生。多くの哺乳類は生まれるとすぐに歩き出し、母親と共に行動しますが、ヒトはちょっと違います。ヒトは1年間未熟な状態で生まれてくると言われています。歩くこともできないヒトの赤ちゃんはお母さんの厚い愛情と保護の下で、社会性の獲得の第一歩を踏み出します。赤ちゃんはお母さんが食べて作り出した赤ちゃん用の特別食、母乳を与えられ、それと同時に、お母さんから生きていくための様々な知識と技術を学びます。そして、1歳で立ち上がり、一定の社会性を獲得した状態で他の哺乳類の動物たちの出生時の状態に追いつきます。生まれてから、乳歯が抜けはじめ永久歯が生えはじめる6歳頃までの間、大人たちの十分な保護の下でヒトは生命体として自分の体の扱い方を体験し、親や周りのヒトたちから生きることを学んでいきます。見る・触る・聞く・なめる・嗅ぐなどの感覚を充分使い、遊び、寝て、食べて、排便・排尿し体感や生きる力を育てていきます。
さらに、ヒトの子は第2大臼歯までの永久歯が生えそろう12〜13歳までの間、十分に研ぎ澄まされた自分の感覚と体を使って、様々な感性を育てていきます。音楽や、読書、劇、描画、ヒトとの交流などを通じて豊かな感情とそれをコントロールする力をつけていきます。
永久歯がほぼ生えそろった後は、思春期に入り、性の分化が進み、今まで作り上げた生命体としての体と、ヒトとしての感性を土台に、ヒトとして考え(思考)、創造し、自分で行動する(自我)ヒトとなっていきます。
ヒトの高次な感性や思考は、土台となる哺乳類としての生命力や生きる力がしっかりしてこそ発揮されるものです。ヒトの食べ方をしっかりと身につけることは生きる力をつける最大の土台を作り上げます。