アレルギーっ子の生活

<03-22     2001年01月08日公開>

【皮膚につくカビの話(カビの感染・カビへの接触)】

 アトピー性皮膚炎を起こした場所は抵抗力が落ち、いろいろなカビや細菌、ウイルスなどの感染を起こしているようです。特に治りが悪いアトピー性皮膚炎の場合はカビの感染があるのではないかと考えられます。また、年齢が上がるほどカビとの接触する機会が増えるため、カビのアレルギーを起こす頻度は増えていきます。

・水虫(白癬菌)によるアトピー性皮膚炎

皮膚のカビ検出結果(96/6-12)
抗菌・抗真菌剤入り培地(DTM)使用
  人数
陰性者 101 69.7
陽性者 44 30.3
145  

 以前から次のような例を時々経験しました。アトピー性皮膚炎で来院された赤ちゃんの家族の人が、足に水虫(白癬)を持っていることがあります。赤ちゃんからはなかなか白癬菌が見つからないのですが、家族の方からは明らかに菌が検出されます。赤ちゃんの湿疹が治りが悪い場合は家族の方の水虫と同時に赤ちゃんも水虫の治療をすると良くなることがあります。密閉した今の家屋の中で感染の機会が増えているのでしょうか? 特にご両親やおじいちゃんなどが爪白癬を持っているとこれは著明になります。赤ちゃんは水虫に感染している場合と、水虫菌にアレルギーを起こしている場合とがあるようでした。

・カビに適した日本型家屋

アトピー性皮膚炎患者さん44名の皮膚から
見つかったカビの内訳(1996/6月-12月)
カビの種類 カビ名 件数
酵母菌 カンジダの仲間 12
その他 1
糸状菌 黒色真菌(エクソフィアラ・フィアロフォーラ・
クラドスポリウム・フォンセケア・ドレクスレラ など)
21
白癬菌 3
アスペルギルス 1
ペニシリウム 1
ムコール 1
アルテルナリア 1
セドスポリウム 1
スコポラリオプシス 1
不明 カビは検出したが同定できず 6
44人中の陽性カビ数 49

 重症なアトピー性皮膚炎になるほどカビのアレルギーは増加します。日本は、高温多湿な温帯気候ですから、一年中(特に梅雨どきから夏にかけては)カビが環境中に増えます。日本型の家屋はこのカビが増えないように床が高く、床下に空間を大きくとって換気ができるようにし、室内も常に換気が持続するような構造になっていました。ところが、戦後の家屋の構造は換気や断熱を十分できない状態で気密度のみを高くしてしまったため、室内のカビやダニの増加と室内の化学物質による汚染を招いてしまいました。そのため、室内のカビが増えると同時に、体につくカビの状態も変わってしまったのではないのでしょうか?

・アトピー性皮膚炎の皮膚からのカビの検出

1996年の月から12月までに来院されたアトピー性皮膚炎の子供や大人の方たちから、アトピー性皮膚炎の付近の皮膚をピンセットではがして、カビ専用の培養装置(抗真菌剤シクロヘキシミド、抗菌剤ゲンタマイシン入り)に入れ、皮膚についているカビの検出を試みてみました。その結果、約3割の人たちから、病原性のあるカビが見つかったのです。一部はやはり水虫菌(白癬菌)でした。ところが、水虫を起こすカビやカンジダの仲間に混ざって、黒色真菌症というヒトの体につくとまれに肺や脳まで侵入し重症な病気を起こすことがあるカビの仲間も見つかりました。これらが見つかったアトピー性皮膚炎の人は治りが悪く、同じ場所が繰り返して悪化する例が多いようでした。ただし、皮膚に感染しているのか、たまたま、皮膚に付着していたのかは今回の検査ではわかりませんでした。感染がなくてもアレルギー体質があれば、皮膚に付着するだけで、アトピー性皮膚炎・接触性皮膚炎は起こります。

24時間風呂のカビ

 24時間風呂を使っている家庭のアトピー性皮膚炎の患者さんの状態がひどいことは、24時間風呂が出回ってきた頃から感じていました。しかも、カビのアレルギーを強く持っていることが多いのです。ある時、東京の恵比寿にあるアレルギー用食品のお店グリーンファミリーの倭(やまと)さんと話をしていたら24時間風呂の話がでました。どうも、24時間風呂がアトピー性皮膚炎に良いということでつける家庭が増えている、倭さんの家でもつけてみたがどうも何かが悪いようだということでした。その時は、水を交換しないで何ヶ月も使うので、何か細菌やカビが増えてそのエキスがお湯に溶けてアトピー性皮膚炎を刺激しているのではないかと考えました。
 1996年6月から皮膚の真菌検査と同時に、24時間風呂の水も検査しました。水を培養して出てきた菌はカンジダの仲間でした。フィルターからは、アスペルギルスオクラセウスというマイコトキシン(カビの毒)をつくるカビが多量に見つかった例もありました。ところが、お湯自身からは、思っていたほど多くのカビが検出されません。しかし、24時間風呂を使っている患者さんは相変わらずひどいカビのアレルギーが見つかります。では、どこでカビと接触しているのか? 実際に風呂場の色々な場所のカビを培養してみました。その結果、カビだらけのところは、お湯ではなく、排水溝付近の床、湯面のすぐ上の浴槽の内側壁、そして、湯上がりに使ったタオルなどでした。でてきたカビは、アスペルギルス(コウジカビの仲間)、ペニシリウム(アオカビの仲間)、クラドスポリウム(黒かび、黒色真菌症の原因となる)、カンジダの仲間など様々なカビがみつかりました。さらには、エクソフィアラという黒色真菌症の原因菌まで見つかりました。湯上がりに使ったタオルをそのまま暖かな室内に干しておき、日が経つとどんどんカビが増えていきました。どうも、どのように浴室やタオルを管理しているかでカビのアレルギーを強く起こすかどうかが決まってしまうように思えました。

・外来患者さんの湯上がりタオル・お湯交換回数調査

 そこで、外来に通院中のアトピー性皮膚炎や気管支喘息、じんましんの人などに湯上がりタオル・お湯交換回数の調査をしました。その結果、次のようなことがわかってきました。
 24時間風呂を使っている家庭でも、毎日浴槽を洗い、フィルターを掃除し、湯上がりに毎日洗いたてのタオルを使っている場合は、カビのアレルギーが強くありませんでした。反対に、24時間風呂にしたため(売った業者の人から「ふろ場は洗わなくてもカビは増えない」という謳い文句を信じてしまった人もいますが…)風呂場や浴槽はあまり洗わず、湯上がりタオルもあまり換えない家庭では、強いカビのアレルギーをつくっていました。
 この事は、24時間風呂の場合だけではなく、普通の追い炊き型のお風呂やお湯を入れるだけのお風呂でも同じでした。追い炊き型のお風呂の場合は、お湯の交換の回数がその家庭に過去から伝えられてきた回数があることがわかりました。調べると2日に1回水を交換する家庭が目立ちました。もちろん毎日替える家庭も多いのですが、水を交換する回数が少なくなるとカビのアレルギーを起こす頻度が高くなりました。なかには1週間に1回しか換えないお家もありました。毎日水を換える人も、週に1回だけ水を換える人もその回数が「当たり前」と思っていました。考えてみれば、「今日、お風呂の水かえた?」なんてあいさつはしません。毎日水を交換している人に、「宮城の人たちは2〜3日に1回水を交換する方が多いようですよ」と教えると、ほとんどの人が驚きます。2〜3日に1回しか水の交換をしない人に「毎日交換する人もいるんですよ」というと、「私が子供のときはもっと回数が少なかったんです」と返事が返ってきます。おそらく、昔の庭に立てた小屋の中でおふろに入っていた時代はふろ場は自然の中に溶け込み、カビも異常には増えなかったかもしれません。東北地方は冬は寒く、以前は入浴後はお風呂のお湯もタオルも凍ってしまったため、カビや細菌が増える余地がなかったのかもしれません。幸い、追い炊きができず、お湯を入れるだけの場合は、毎日浴槽を洗っている家がほとんどでした。中には、洗わずにお湯を継ぎ足すだけの家庭もありました。
 湯上がりタオルの交換の回数も同様でした。毎日洗いたてのタオルを使う人もいれば、汚れたら交換する人、月に1回という人もいました。個人専用で使う人もいれば、一枚の湯上がりタオルを家族全員で使う家もありました。その家の昔がらのやり方があるようです。換気が充分にされる昔からの日本の家屋ではカビはうまくバランスとって慎ましく生き延びてきたのではないのでしょうか。ところが、今の室温と気密性の高い換気が悪い住居では、カビは大発生してしまいます。栄養があるヒトの垢と適度な湿度・温度がカビたちに安楽の場所を与えているようです。
 結果は明らかでした。湯上がりタオルの交換が少ない人は明らかにカビのアレルギーが強く、皮膚にカビの感染も起こしていました。アトピー性皮膚炎の部分にカビが侵入してしまったようでした。反対に、タオルを毎日洗いたてのものを使っている人はカビのアレルギーは軽くすんでいました。お湯を毎日交換しない家、つまり、毎日浴槽を洗っていない家ではやはりカビのアレルギーは増えていました。カビにアレルギーを起こした人は同時に黄色ぶどう状球菌や溶血連鎖状球菌などの細菌感染や単純ヘルペス等の感染症も多いのですが、タオルやお水の使い方をみているとこれもうなずけます。
 結局、24時間風呂はなるべく頻回に水を交換し(毎日換えられれば最良)、浴槽を洗い、フィルターを掃除すれば、アトピー性皮膚炎の人でもいいようでした。ほんとは、新しい水が24時間流れ続ける24時間風呂が一番いいようです。つまり、温泉ですね、。水は交換しないと、細菌やカビ、原虫などがフィルターに繁殖し、アレルギーを起こす物質をつくりだして水の中にそれらが溶け込み、弱った皮膚を刺激している可能性があります。
 ところで、タオルや浴槽から見つかるカビたちは、普通の生活をしていると身の回りにいつもいる(常在真菌といいます)カビです。カンジダ(白い酵母)やピテロスポリウム(茶色の酵母)、ロドトルラ(オレンジ色の酵母)などの酵母の仲間はヒトの口の中・腸の中・皮膚や室内の湿った場所などに常在しています。ペニシリウム(アオカビ)や、アスペルギルス(白いカビ)、クラドスポリウム(黒カビ)などは室内に常にいますし、胞子は空中に飛び続けています。エクソフィアラ、フィアロフォーラなどの黒色真菌の仲間や水虫菌(白癬菌)の仲間は本来は土や朽ち木の中で生活を営む真菌の仲間です。つまり、日本の古来の生活からズーと今まで、ヒトとともに生活をしてきたカビたちです。日本人は、大豆や小麦などについたアスペルギルスの仲間をコウジカビとして、みそやしょうゆを作るために利用してきたのです。カビのアレルギーは密閉され、しかも様々な化学物資で汚染された室内で、自然な状態では考えられないような増え方で増えてしまった常在のカビたちに対する異常な反応と考えられます。アトピー性皮膚炎で壊れた皮膚に間違ってこれらのカビが入り込み、そこで間違って生き延びようとして、アトピー性皮膚炎が悪化しているように思えました。自然の土の中ではさまざまな生物たちがお互いを抑制しあい、自分の生存場所を確保する戦いをおこなっています。その中では1種類の生物が大量に増えてしまうことはありません。お互いのバランスを取りながら、お互いに栄養を交換しながら共生しているのです。現在のヒトの住居はこのバランスを壊してしまっているのかもしれません。
 毎日、浴槽をきれいに洗い、きれいな水を入れて、塩素を取り除き、湯上がりには洗いたてのタオルを使う。あまり異常にカビをはやさず、カビに過剰に接触したり、カビの胞子を吸い込んだりしないようにする。これがアレルギーっ子には必要と思いました。(対策は次の項を参照→室内のカビについての知識)

追加。ごはんを食べた後にお米やその他の食べカスが皮膚についたままになっていると、恰好のカビたちの餌になります。特に小さなお子さんの場合、食後はきちんと食べカスを拭き取ってください。パジャマには食べカスが残らないようにしましょう。もちろん、寝具の上で食べ物を食べて食べ物のカスをまきちらさないように注意。寝具のカビとダニには餌は与えないようにしましょう。

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