アレルギーっ子の生活

<03-09        2000年10月02日公開>

【気になる子供たちの病気】

  血液中の電解質は常に一定に保たれるように、内分泌系が働いています。ところが最近、熱が出るとすぐ血液中のナトリウム(Na)が低下してしまい、ぐったりし意識がおかしくなったり、けいれんを起こしてしまう子が増えています。原因の1つは、いつもはスナック菓子など塩分が多いものを毎日のように食べているのに、病気になったとたんにそうしたものが食べられなくなり、ジュースやアイスクリーム、ヨーグルトなどの塩分の少ないものだけを食べ、味噌汁や野菜スープのような電解質が充分入っているものを摂らなくなってしまうからです。しかし、最近は電解質の入っている物は充分摂っているのにナトリウムが低くなってしまう例が増えていて気になります。電解質のバランス(吸収と排泄)を調節している内分泌(抗利尿ホルモン、アルドステロンなどの糖質コルチコイドなど)の働きがどこかおかしくなってしまっているのではないかと思われるほどです。環境汚染化学物質の影響は胎児期初期の臓器形成に影響します。内分泌臓器の形成がうまくおこなわれなかった場合には、生後その臓器には何らかの機能障害が起きる可能性もあります。さらに、生まれつきの機能障害に、現在受けている環境中や食品からの汚染の影響が加わり、病気を悪化させています。

  以前は、熱性けいれん(発熱時にけいれんを起こすが原因となる疾患が不明で、年齢とともに起こさなくなる)を起こす年齢は3歳ぐらいまでと判断して診療してきました。最近はその年齢が上昇し、7歳ぐらいまでの子どもが「熱性けいれん」を起こすようになってきています。最近、熱性けいれんを起こした子どもたちの髄液中のドーパミン濃度が低いという報告がありました(参考文献1)。ドーパミンを含めて脳内モノアミンは、環境汚染化学物質によって分泌が乱される可能性が指摘されています。殺虫剤や除草剤などの農薬による直接的な中枢神経系への影響、外因性内分泌撹乱化学物質による発達途中の中枢神経系への影響(甲状腺機能低下など)などがわかってきており、様々な環境汚染の影響で胎児期に受けた障害、現在の環境汚染からの影響が重なり、けいれんを起こしやすい状態をつくり出されている可能性があります。外因性内分泌撹乱化学物質による胎児期の甲状腺機能低下状態が、ドーパミンなどの脳内モノアミン物質の働きを失調させ、注意欠陥多動障害などの行動異常も起こすと考えられています

 胎児期にラットなどの実験動物にダイオキシンを与えると、口蓋裂(口と鼻の間の隔壁である口蓋が、左右で形成されたが最後まで発育せず、癒合しなかったためにおこる)が生じます(参考文献2)。最近、子供たちの口の中を見ていて気になるのは、口蓋垂(のどちんこ)が完全に癒合せず、先端が2つに割れていたり、逆ハート型になっていたり、縦に2本並び薄い膜でくっついていたり、または、2つに割れて左右2列に並んでいることが目立ってきていることです。口蓋が最後まで十分に発達しなかったために起こっているのではないか? こんなことがアレルギーのひどい、年齢の小さな子供にみることが多いように思われます。胎児期に左右別々に作られ発達した口蓋が、ダイオキシンなどの影響を受け、融合するときに障害が起き、完全な癒合ができなかったのかもしれないと考えられます。この場合、その子は、他の臓器も機能異常を持っている可能性が強いのではないかと考えられます。心雑音が聞こえる赤ちゃんに超音波心断層装置で心臓を検査するとき、同時に腎臓もみていますが、最近は水腎症(腎臓の中央部にある血液から濾過した老廃物、つまり尿を一時ためておくところ、つまり腎盂が広がっている病気)を起こしている赤ちゃんが目立ちます。水腎症は胎児期にラットなどの実験動物にダイオキシンを与えると発生しやすい奇形です(参考文献2)。

 思春期には成長ホルモンの分泌が低下し、性ホルモンの分泌が始まります。この時期に、アレルギーや気管支喘息の悪化する例が目立ってきています。ホルモンバランスの乱れが影響していると思われます。この時期の性ホルモンの分泌は、胎児期に性腺臓器の形成が正常におこなわれたかどうかに影響されます。胎児期の性腺臓器形成は様々な環境汚染化学物質の影響を受けています。その上に、現在の食生活や環境汚染の影響が重なり、アレルギーや行動の異常、精神的な異常が起こっている可能性があります

参考文献

(1)西村甲(慶應義塾大学医学部小児科):熱性けいれんにおける髄液ドパミン濃度、日本小児科学会雑誌103:984-990、1999
(2)環境庁ダイオキシンリスク評価研究会監修:ダイオキシンのリスク評価:63-64page、中央法規、1997

    

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