<06-25 2001年08月16日(木)公開>
もともと私は小児循環器が専門です。運動中に急に倒れたり、胸痛や動悸、息切れ様の症状を起こした子ども達は心臓精査のため心臓外来を受診されます。季節とアナフィラキシーとの関係を考えるようになったのはその子達がきっかけでした。
1988年5月、カモガヤ花粉症・スギ花粉症と気管支喘息をもつアレルギーっ子が運動中に突然死しました。その後も死亡するまでにはならないけれど似たような症状があり、精査目的で心臓外来を来院する患者さん達が次々と来院しました。そこで、1988年5月より1989年4月までの1年間に、突然の胸内苦悶や胸痛、突然倒れるなどの症状で心臓の精査を必要として心臓外来を訪れた23人について、心臓の検査(診察、血液検査、心電図、胸部レントゲン、心エコー検査、24時間心電図、運動負荷トレッドミル検査など)とともに花粉を中心としたアレルギー検査を行ない、アレルギー状況を調べてみました。
まずは、きっかけとなった患者さんのことからお話しましょう。
R町立中学1年生。12才男子。身長152cm、62Kgの立派な体格の持ち主です。家族には心臓の病気や突然死の人はいません。生後2ヶ月からアトピー性皮膚炎がありましたが改善していました。生後6ヶ月から気管支喘息あり、7才のときの検査では、ダニ、カモガヤ花粉、スギ花粉にアレルギーがありました(IgERASTスコアはダニ4以上、カモガヤ1、スギ3)。年中ゼーゼーし喘息発作を繰り返していましたが、2年前より気管支喘息の発作はなくなり、本人・家族とも安心していました。1988年5月16日、3時間目の体育の授業中のことです。リレーで200mを走り、5〜6分後に50mを走って次の走者にバトンを渡した直後、前のめりにドタっと倒れてしまいました。意識はなく、チアノーゼ(酸素が体に回らないため全身が紫色になってしまうこと)あり、心マッサージ・人工呼吸をしながら当院へ救急搬入されました。到着したときは心臓停止状態でしたが、救急蘇生を行ない、対光反射(光に対する瞳の反応)が出るようになりました。心臓はなかなか動いてくれませんが、心マッサージをやめるとウーンと唸るため、大勢の職員が入れ替わり立ち代わりで3時間もの間蘇生術を続けました。心臓内に電極を入れなんとか心臓を動かす努力をしましたが、結局心臓は動かず帰らぬ人となりました。直前にたまたま行われた心臓検診の心電図と胸部レントゲン写真は異常なく、病理解剖の結果も直接死因と結びつく所見は何もなく(心臓の筋肉にも異常は見られませんでした)、原因は不明となりました。しかし、アレルギーを持っていること、来院時に全体が腫れぼったくむくんでいたことからみて運動誘発性アナフィラキシーを強く疑いました。
その10日後、次の患者さんが現れました。T市立中学3年、男子。身長166cm、体重61kg。おばあちゃんが気管支喘息です。生後6ヶ月からゼーゼーしはじめ、2才の時に気管支喘息と診断されました。アレルギー性鼻炎とアレルギー性結膜炎もあります。ここ1年間は喘息発作はありませんでした。1988年5月26日2時間目の授業で体力測定があり、50mを2回走り、1500mの持久走を700mほど走ったところで急にのどが痛くつまったようになり、呼吸が苦しく走れなくなってしまいました。冷汗が出て、動悸があり、全身の力が抜けて脱力感があり、クラスメートにかつがれて教室で休んでいました。意識がもうろうとしてきたため、帰宅しましたが、症状は改善せず、当院を受診しました。扁桃腺が肥大し赤くなりアレルギー性鼻炎がありましたが胸の所見はありません。血圧も正常。10日前のことがありましたので、カモガヤとダニのスクラッチテストを行ったところ、両方とも陽性でしたが、テスト部の皮膚が腫れると同時に、急に喘息発作が出現増強し、副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤を点滴して入院となりました。鼻づまり、鼻汁、全身倦怠感、ふらつきなどが数日続きました。1985年、1987年の同じ季節にも今回より軽いのですが同じような症状があり、治療していました。検査では、IgERASTスコアがダニ4以上、カモガヤなどイネ科花粉はすべて2、スギ3でアレルギーがありました。本人の通っている中学校に行ってグランドを見てみると、イネ科の植物が校庭内に咲き乱れ、おしべを出していました。当日は天気がよく花粉が飛ぶのには好都合の日でした。
では、1年簡に受診した子ども達を見てみましょう。アレルギーがあり運動中に症状が起こった例、アレルギーがあり安静時に症状が起きた例、その他に分けてみました。
発症年月 | 年令 | 性 | アレルギー家族歴 | 既往 | 経過 | 心臓検査 | IgERIST | 特異IgEスコア |
88年5月 | 12 | 男 | なし | アトピー性皮膚炎 気管支喘息 |
校庭でリレーの練習中急に倒れた(突然死) | 異常なし | 1600 | ダニ>4 スギ3 カモガヤ1 |
88年5月 | 14 | 男 | あり | 気管支喘息 | 持久走中、動悸・冷や汗・呼吸困難・脱力・意識混濁あり倒れた | 異常なし | 514 | ダニ>4 スギ3 カモガヤ2 |
88年6月 | 7 | 男 | あり | アトピー性皮膚炎 気管支喘息 |
下校時、公園で遊んでいて急に咽頭痛・動悸、呼吸困難となり倒れた | 異常なし | 1730 | ダニ>4 カニ1 |
88年6月 | 8 | 女 | あり | なし | マラソン中、吐き気あり倒れた | 異常なし | 50 | ダニ1 |
88年6月 | 7 | 男 | あり | アトピー性皮膚炎 気管支喘息 卵を食べて吐血 (マロリーワイス症候群)3回 |
マラソン中、胸痛、咽頭痛、頭痛あり倒れた | 異常なし | 1300 | ダニ>4 カモガヤ>4 フランスギク3 スギ2 エビ2 カニ2 卵白2 |
88年6月 | 14 | 男 | なし | アトピー性皮膚炎 アレルギー性鼻炎 |
バレーボール後の胸痛 | 異常なし | 956 | ダニ3 |
88年7月 | 14 | 女 | なし | アレルギー性鼻炎 | ソフトボール練習中めまい、吐き気、嘔吐 | 異常なし | 273 | カモガヤ>4 |
88年7月 | 12 | 男 | なし | アトピー性皮膚炎 じんましん |
プールで水泳中胸痛 | 異常なし | 561 | ダニ>4 |
88年10月 | 14 | 女 | あり | なし | マラソン後の胸痛、吐き気 | 異常なし | 181 | カモガヤ2 ネコ1 |
88年12月 | 8 | 男 | なし | 気管支喘息 | 運動後、入浴後の胸痛 | 異常なし | 100 | ダニ>4 |
89年2月 | 14 | 男 | なし | アトピー性皮膚炎 アレルギー性鼻炎 |
走ったあとの胸痛、動悸 | 異常なし | 870 | ダニ>4 |
表は花粉やダニなどにアレルギーがあり運動と関係して症状が起きた11例です。運動中に急に症状が出現し倒れたもの5例、胸痛が6例です。ダニのアレルギーが9例、花粉のアレルギーが5例にみられました。はじめの2例は前述した例です。
発症年月 | 年令 | 性 | アレルギー家族歴 | 既往 | 経過 | 心臓検査 | IgERIST | 特異IgEスコア |
88年5月 | 13 | 女 | あり | アトピー性皮膚炎 アレルギー性鼻炎 |
夜間の胸痛 | 異常なし | 519 | スギ3 ブタクサ2 カモガヤ1 |
89年1月 | 14 | 男 | なし | なし | 安静時の胸痛 | 異常なし | 244 | カモガヤ>4 スギ2 ダニ1 |
89年2月 | 15 | 男 | なし | アトピー性皮膚炎 アレルギー性鼻炎 じんましん |
授業中の胸の苦しさ、手足のしびれ、歩行意識喪失 | 異常なし | 651 | カモガヤ>4 ダニ>4 フランスギク3 ヨモギ3 ブタクサ2 |
89年2月 | 14 | 女 | あり | アトピー性皮膚炎 アレルギー性鼻炎 |
発熱時、突然呼吸困難となり倒れる。死亡。 | 異常なし | 624 | カモガヤ>4 フランスギク2 スギ1 ダニ1 |
89年3月 | 14 | 女 | あり | 気管支喘息 | 安静時の動悸 | 異常なし | 440 | ダニ>4 カモガヤ2 スギ2 |
89年4月 | 9 | 女 | なし | アトピー性皮膚 炎気管支喘息 |
安静時の胸痛、動悸 | 異常なし | 177 | ダニ>4 カモガヤ1 |
表はアレルギーの検査が陽性で、安静時に症状が起きた6例です。胸内苦悶を訴え倒れたもの2例、うち1人は14日後に死亡されました。その他胸痛3例、動悸1例でした。全例花粉にアレルギーがありました。5例にダニのアレルギーがありました。
この中で死亡された例は、次のような経過を取っています。
中学3年生、15才、女子。診断名は黄色ぶどう球菌・緑膿菌による肺炎・イネ科キク科花粉症・急性呼吸不全(窒息)による急性死です。
弟に気管支喘息があり、本人もアレルギー性鼻炎を持っていましたが気管支喘息はありません。受験勉強、学級委員の仕事で忙しかったようです。1989年2月11日、サイネリア(キク科)の鉢植えをお母さんが買ってきて茶の間に飾りました。その頃より鼻炎が始まりました。2月15日より40度の発熱あり、近医を受診。喘息気味と言われ、喘息の薬をもらいました。2月16日の午後3時、呼吸が苦しそうなので病院へ行き、車を降りた途端、ぐったりし突然窒息状態となり、倒れてしまいました。気管内にチューブを挿入し人工呼吸をしながら、救急車で当院へ搬入されました。大量の痰で気管が閉塞していたためこれを取り除きました。呼吸状態は改善し、人工呼吸器下に治療を続けましたが、倒れた時に著しい無酸素状態になったために、脳障害が強く回復できず、2月20日クモ膜下出血を起こし、結局は死亡されました。イネ科花粉・キク科花粉・スギ花粉・ダニ・小麦・米のアレルギーがありました(IgE RIST 624、IgE RASTスコア カモガヤ4、ナガハグサ4、ホソムギ4、コヌカグサ4、フランスギク2、スギ1、ダニ1、小麦1、米2)。花粉症などのアレルギー状態・過労などが誘因で抵抗力が落ち(食べたものは残念ながら聞いていません)、喘息発作、黄色ブドウ状球菌や緑膿菌(弱い菌なので通常は感染症の原因とはなりにくいが、抵抗力が落ちると感染して病気を起こす)の感染を伴い、大量の痰で窒息したものと考えられました。
発症年月 | 年令 | 性 | アレルギー家族歴 | 既往 | 経過 | 心臓検査 | IgERIST | 特異IgEスコア |
88年5月 | 8 | 男 | なし | なし | 走った後の胸の苦しさ | 発作性上室性頻拍 | ||
88年7月 | 14 | 女 | なし | アトピー性皮膚炎 | 縄跳び後の胸の苦しさ | 異状なし | (スクラッチテスト陰性) | |
88年10月 | 12 | 女 | なし | なし | マラソン後の胸の苦しさ | 僧房弁肥厚 | 陽性なし | |
88年12月 | 14 | 女 | なし | なし | 走った後の胸の苦しさ | ベンケバファ2度房室ブロック | 24 | 陽性なし |
89年3月 | 13 | 女 | なし | なし | 走った後の胸の苦しさ | 異状なし | 15 | 陽性なし |
89年1月 | 14 | 男 | なし | なし | 昼寝後の胸の苦しさ | 僧房弁閉鎖不全 | (スクラッチテスト陰性) |
その他の症例ですが、運動時に症状があった5例中、発作性上室性頻拍症や2度の房室ブロックなど心臓の異常を3例に、安静時に症状があった1例では僧房弁閉鎖不全症がみつかっています。
以上の23例を発症の月別に表示したものが下の表です。23例中花粉のアレルギーを11人で、ダニのアレルギーを14人に認めました。また、花粉にアレルギーがある人は全例カモガヤにアレルギーがありました。
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88年 5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
89年 1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
花粉飛散 | ←−− イネ科 −−→ ←−イネ科−→ ←−−−−−−−− キク科 −−−−−−−−−→ ←−−スギ−−→ |
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運動時 | 花粉陽性例 | 0 0 0 0 0 | |||||||||||
ダニ陽性例 | 0 0 0 0 0 | ||||||||||||
心疾患 | 0 0 0 | ||||||||||||
その他 | 0 0 | ||||||||||||
安静時 | 花粉陽性例 | 0 0 0 0 0 0 | |||||||||||
心疾患 | 0 |
運動時に症状の起きた例は5月から7月に集中しています。この時期は当院の周辺ではカモガヤなどイネ科花粉の飛散期と一致しています。この時はまだ食物との関係を軽くみていましたので、小麦などのイネ科食物との関係を充分に考えていませんでした。しかし、明らかにイネ科花粉の飛散時期に症状の現れている例が多かったのです。特に、運動中に症状を起こしている例ではイネ科花粉の飛散時期に屋外での運動中に発症している例が多く、激しい運動中に花粉を吸い込む、吸い込んだ花粉を鼻水と一緒に飲み込む、鼻粘膜や口の粘膜または腸の粘膜からアレルギー物質として吸収されアレルギーを起こす可能性が考えられました。後に、多くの症例と合わせて考えると、イネ科花粉とイネ科食物(特に小麦)のアレルギーが重なると症状を起こしやすいという事がわかりました。この事は運動誘発性アナフィラキシーの患者さんたちでは、さらに明白な感じがします。また、この23例のうちの多くの症状はアナフィラキシーの一部症状とも考えられました。明らかなアナフィラキシーは全身が紅潮して腫れ上がるため、本人も周囲の人もアナフィラキシーの知識さえ持っていればそれとわかります。心臓外来を受診した方たちは見かけではわからない潜行するアナフィラキシーと言えるかもしれません。
安静時に症状が起きた例ではスギ花粉症の時期に多いこともわかりました。
この後も、同様に胸痛や動悸で心臓精査を希望して来院される患者さんは多くいます。この23症例のように心臓もアレルギーもすべてを検査することはできませんが、アレルギーの傾向は、かわりがなく多くの方がアレルギーからくる症状のようです。胸痛を訴えてくる患者さんは肺機能検査をするとフローボリュウムカーブや1秒率が悪く、潜在的な気管支喘息喘息があるということもわかりました。喘鳴は気管支喘息の主な症状ですが、喘鳴ではなく胸痛を主要症状とする気管支喘息の亜型が報告されています。心臓外来を受診する胸痛の子供たちは、この異型胸痛喘息(Chest pain variant asthma)と思われました。
以上、アレルギーっ子たちは花粉症やダニなどのアレルギー状態になるとアナフィラキシーまでは至らないけれど、心臓の病気かと思わせるような症状を起こしやすいということを実感しました。
アレルギーによる激しい症状を起こす人を診察していると、助かってよかったなーと思うこともたびたびです。アレルギーが急激に激しく起こった場合は、死に至ることもあるだろうということは容易に想像がつきます。このような症例を多く見ていると気になるのが突然死とアレルギーとの関係です。小学校から高校までの学童で突然死の例は年間百数十人程度います。これらの急死や突然死例の報告ではアナフィラキシーとかアレルギーということは、あまりでてきません。なぜでしょう?今までの報告ではそのうちの約8割は循環器系の異常といわれていますがその内訳をみると、心疾患が見つかった例は少なく、ほとんどが「心臓麻痺」や「急性循環不全」という病名をつけられています。アレルギーのために急激に具合が悪くなり、心臓が停止してしまった場合は全身の紅潮やむくみ、喘息などの症状は現れにくいのではないか?そのため、診断がつけられないのではないか?もちろん解剖をしても、臓器には所見が残っていないことでしょう。1988年12月に給食のソバを食べて具合が悪くなり、一人で帰宅する途中で倒れ死亡した小学校6年生や1995年6月自宅の冷蔵庫のスパゲッティサラダを食べてアナフィラキシーを起こし死亡した小学校5年生の場合は事前にアレルギーがわかっており、死因が食物アレルギーまたは食物アレルギーによるアナフィラキシーショックと診断できた希な例と思われます。
症例1:1986年10月、小学2年、女子、剖検(−) 診断名:特発性拡張型心筋症 経過:心不全で発症。入院中、8時40分ごろ心室性頻拍症となり死亡。 アレルギ−:不明(検査未施行) 1年生の検診結果は正常。心筋症はその後の発症と思われる。 症例2:1988年5月、中学1年、男子、剖検(+) 診断名:運動誘発性アナフィラキシー疑い 経過:体育の授業中、リレーの練習中、倒れ死亡。 アレルギー:ダニ・イネ科花粉・スギ花粉アレルギ− 直前に行われた心臓検診(1次)は正常。解剖では死因不明。 運動誘発性アナフィラキシ−ショックを疑った。 症例3:1989年12月、中学3年、男子、剖検(+) 診断名:大動脈破裂・Ehlers Danlos症候群 経過:22時20分ごろ自宅で入浴中倒れ死亡。 アレルギー:IgE RAST 陰性 中学1年の心臓検診では、胸部レントゲンで心基部の拡大があり チェックされたが、問診票・心電図で異常なく経過観察となった。 症例4:1991年5月、高校1年、男子、剖検(−) 診断名:アナフィラキシーショック(チョコレートパン・缶コーヒー摂取) 経過:新入学・部活での疲労に発熱・喘息発作が重なっていた。 18時ごろ学校帰りに24時間ストアを出たところで倒れ死亡。 店内に設置された防犯ビデオの記録あり。 アレルギー:チョコレ−ト・コ−ヒ−・ダニ・イネ科花粉などのアレルギ−あり 直前の心臓検診は正常。アレルギ−に対する対策はとられていなかった。 アレルギ−への対策が必要だった。 症例5:1992年7月、小学5年、女子、剖検(+) 診断名:肥厚型心筋症、不整脈? 経過:朝、学校に登校し、階段を登って教室に入ったとたん、倒れ死亡。 アレルギー:ダニアレルギー、イネ科・キク科・スギ花粉アレルギ− 小学1年の心臓検診で心疾患を診断されて、管理中であった。 アレルギ−に対しては全く対策は取られていなかった。 アレルギ−も含めて体調・自律神経のバランスを保つ管理が必要だったか。 症例6:1994年11月、中学2年、女子、剖検(+) 診断名:壊死性気管支炎、播種性血管内凝固症候群、肺出血、脳出血 単純ヘルぺスウイルス感染 経過:発熱4日目、自宅にて17時30分ごろ突然意識不明となり死亡。 アレルギー:ダニアレルギ− 中学1年の心臓検診は正常。発症以前の免疫能低下は不明。 単純ヘルペスウイルスの感染を繰り返しており体調の管理が必要だったか。 |
表は1986年から1996年までの間に当院で経験した学童の突然死例です。集めた情報ではこれらの症例は2市3町で起こったすべての学童の突然死例と一致しています。症例1は当初当院で診察していて他院に入院し入院中に突然死されました。この例を除いて他の例は当院に搬入されました。当院での突然死例はすべてアレルギー的な検索を行っています。それぞれの症例のアレルギー状態をIgE検査で調べてみました。症例3は先天性の血管壁の異常です。アレルギー検査は陰性でした。症例2と症例4はアナフィラキシーが死因と思われます。症例5は肥厚型心筋症が発見されており、突然死の可能性をいつも持っています。しかし、その時がなぜ7月に起きたのか? ちょうどこの頃は、イネ科の花粉が飛び、キク科の花粉やダニの増える季節でもあります。アレルギーのことは知らず、対策も取られていなかったようです。アレルギー状態になり自律神経系のバランスが乱れ、不整脈を引き起こしやすくなっていたとは考えられないでしょうか? 症例6もダニのアレルギーがありました。何らかの免疫力の低下があったのではないでしょうか?
毎年全国で学童の突然死例は百数十名います。この中に、アレルギーが原因または引き金となって突然死を起こしてしまう例のいる可能性があります。アレルギーがあるとわかっていれば症状の起こりやすい季節や条件は事前に推定できるため、突然死や急激な症状の出現を予防できる可能性があります。そのためには、自分のアレルギーの状態を知り、対策を取っておくことが必要と思われます。
健康と思われ、将来を期待されていた学童が突然死することは残された家族や友人たちに強烈な精神的・物理的ダメ−ジを与えます。悲しい突然死は未然に予防されなければいけません。しかし、現在の医療技術ではこれを完全に防ぐことはできないのが実状です。できるかぎりのことを着実に実行して、予防に努力することが大切と思われます。心臓外来を受診したアレルギー児やアレルギーをもつ突然死例の経験からいえることは次のようなことです。
自律神経のアンバランスが重篤な不整脈を引き起こしやすくさせることが分かってきました。日頃から規則正しく生活し、充分に睡眠をとり、精神的な安定が保てるように心掛け、きちんとした食生活を実現してほしいものです。アレルギ−疾患は自律神経の失調を生じる事が多く、アレルギ−状態が強いときは注意が必要です。
発熱、頭痛、吐き気・嘔吐、下痢、咳など急性の感染症はもともと持っているアレルギーや心臓の病気などの病状を悪化させることが多いのです。きちんと1つ1つの疾患に対応する事が必要です。
心臓に病気を持った学童が自らの病気をきちんと理解して、医療機関から出された生活管理指導表に従った運動・学校生活ができるように本人・家族・主治医とよく話あう事が大切です。管理指導表を越えた過度の運動は突然死を引き起こす可能性が高くなり、過度の運動制限はその子の可能性を狭めてしまいます。状況に合った運動処方とその実行が大切です。
@激しい運動・過労(特に新学期、最も注意して欲しい新学期)
−能力を超えた運動の持続・寝不足・精神的不安定・生活の乱れなど
A発熱後数日間・吐き気や嘔吐などで食物を摂取していない時
Bめまい・胸痛・動悸・息切れ・呼吸困難・じんましんなどがある時
C強いアレルギ−状態
アレルギ−のあるものを食べてしまった後
ダニアレルギ−の季節(5−6月と9−11月)
花粉アレルギ−の季節−スギ2−5月、
カモガヤなどイネ科花粉5−7月、9−11月、
キク科花粉5月−11月など
その他、アレルギ−のあるものと濃厚に接触してしまった後
特に注意したい時期は、中学校・高等学校の入学時、5−6月の連休明けで、この時期全ての悪条件の重なる可能性が高いのです。この時期は、実際、突然死の一番多くなる季節です。
最後に図らずも死亡するという事態に落ちいてしまった子ども達のご冥福を心からお祈り申し上げます。私達はこの子達の死を無駄にしないようにしなければいけないと思います。