<05-06 2001年10月11日(木)公開>
ヒトなど哺乳動物の体は外界の変化に敏感に反応します。その中で一番早く反応する組織が神経、次に内分泌による調節です。ヒトの体は、本人が意識しなくても自動的に神経や内分泌が働き体の状態を調節しています。それが自律神経と言われる神経系や甲状腺・副腎皮質や副腎髄質などの内分泌系です。例えば、外の環境が寒くなり体が冷えてしまいそうになると、自律神経は熱を体外に逃さないために血管を収縮させます。反対に環境が暑くなり、体温が上昇してくると血管が開き熱を体外に逃します。また、汗を出し、汗が蒸発する時に体から熱をうばい(気化熱)体温を下げます。危険な状態になると副腎からアドレナリンが分泌され体は身構えます。アレルギーっ子は、アレルギーの状態になるとの自律神経や内分泌の働きがうまく働かなくなってしまいます。また、反対に、自律神経や内分泌の働きがうまく働かないような状態になると、一度起こったアレルギー反応を押さえることが出来ず、ひどい症状に進展してしまいます。
アレルギー反応を起こす時に中心的な役割をするTリンパ球(胸腺由来)には、副交感神経の神経伝達物質であるアセチルコリンの受容体があることがわかっています。したがって、副交感神経の過剰な反応はアレルギー性疾患を悪化させる可能性があります。副交感神経が優位に働く夜になると気管支喘息発作が起こりやすくなったり、アトピー性皮膚炎のかゆみがひどくなったりすることとも関係があると思われます。
アレルギーっ子たちに特徴的な次のような状態は神経・内分泌・免疫がうまく働いていないことを現しています。気温や外界の変化にすぐに適応できない。したがって、季節の変わり目になるとアレルギー症状がひどくなったり、急に寒いところにいくと、喘息になる。朝起きられない、すぐに、眠れない。普段どうり生活している時は何もないが、いったん予想できないような出来事が起こると精神的にパニック状態になり、問題を解決できない。落ち着きがなく多動で、一つの事を最後までやりきれない。いつまでも怖がり、慣れないなど。
自律神経失調の病気の代表が起立性調節障害です。体が大きくなり運動量が増加する10才前後からアレルギーっ子によく見られるようになります。ヒトは4つ足から立ち上がり、2本の足で体を支え直立するようになりました。そのため、2本の前足(手)が自由になり、器用に手を使って道具を作り、道具を利用できるようになりました。その代わりに体の最上部に位置した頭(脳)まで血液を送り出さなければいけなくなりました。頭まで血液を送り込むために、立ち上がった瞬間に自律神経の働きで心臓のポンプ作用を使うと同時に全身、とくに下半身の静脈血管を収縮させます。この働きがうまくいかないと起立性調節障害を起こします。起立性調節障害は表にあるような症状を起こし、これらの症状の組み合わせで診断されます。アレルギーっ子にはよく起こる症状が並んでいます。
アレルギーっ子は生活能力をなるべく良い状態に保つために、自律神経や内分泌の働きを常に正常に働かせなければいけません。そのためには何をしたら良いのでしょうか?
ヒトは「お日さまと一緒に起きて、お日さまと一緒に寝る」リズムを持っています。その状態からあまりに離れてしまうと、正常な体内の働きができなくなってしまいます。早寝早起きが大切です。
子供らしい生活リズムをつくる 朝は元気に起きて 元気に子供らしく遊び お腹を空かせて食事をむかえる 夜更かしせずに、よく眠る |
空腹感のある食事のリズムをつくることもとても大切です。腸管内に食べ物が入ると腸粘膜の一部がはがれて消化に使われます。腸が空っぽになっている間に腸粘膜は正常に戻ります。したがって、お腹が空いている時間をきちんと作ることで、消化・吸収の働きを健康に保つことができます。そのことが、アレルギーの発病を押さえる一歩になります。
年中、変化のない室内空間にいて変化の少ない生活をしていると自律神経系はあまり働く必要が無くなり、大きな変化が起こった時にその変化についていけなくなります。寒い屋外での遊び、着替えの時の冷たい衣類、水かぶり(入浴時膝から下に冷水をかけてもいい)や水泳など自律神経が鍛えられる状態を考えて作りだしてあげましょう。
アレルギーを起こすと自律神経系や内分泌系の働きは失調してしまいます。アレルギーを起こさないよう、生活に気をつけましょう。
様々な化学物質が、アレルギーっ子の神経や内分泌の働き、免疫の働きをおかしくさせることがわかっています。室内に使用された接着剤や合板からでるホルムアルデヒド、有機リン系殺虫剤(床下のシロアリ駆除剤、畳の防虫剤など)、カーバメイト系殺虫剤(床下のシロアリ駆除剤など)、有機塩素系殺虫剤(タンスに入れたパラジクロロベンゼン:パラゾールや合板の防虫剤など)、揮発性有機溶剤(ペンキやシンナーなどに含まれるトルエンやキシレンなど)、プラスチックの可塑剤(塩化ビニール製品を柔らかくするフタル酸エステル)などによって病気が起こる場合は、シックハウス症候群、シックビルディング症候群と言われています。室内排気型の石油・ガスストーブの排気(石油の燃焼物)、タバコの煙、ピレスロイド系殺虫剤、除草剤(含リンアミノ酸系除草剤であるグルホシネート:バスタやグリホサート:ラウンドアップ)などでもアレルギーっ子は具合が悪くなるでしょう。これらの、体にとっては不都合な化学物質はアレルギーっ子を痛めつけます。少なくとも、室内に、とくに寝る場所にはないようにしておきましょう。
環境ホルモン作用が考えられている物質 |
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ダイオキシン類 PCB(ポリ塩化ビフェニール類) PBB(ボリ臭化ビフェニール類) 有機塩素系殺虫剤(DDT、その代謝物など) 有機リン系殺虫剤(パラチオンなど) カーバメイト系殺虫剤(バナナのポストハーベスト農薬ベノミルなど) ジチオカーバメイト系殺虫剤 輸入柑橘類のポストハーベスト農薬(2、4−Dなど) 合成ピレスロイド系殺虫剤(ペルメトリンなど) トリアジン系除草剤(シマジンなど) 塩化ビニル製品などプラスチックの可塑剤(フタル酸エステル) ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂の原料(ビスフェノールA) 石油の燃焼物(ベンゾ(a)ピレン) カドミウム・鉛・水銀など金属 スチレン重合体(カップラーメンの容器など) 植物エストロジェン(大豆やニンジンなどに含まれる) その他、次々と発見されています |
最近、様々な化学物質が体内の正常な内分泌の働きを撹乱(乱れさせる)することがわかってきました。神経・内分泌・免疫系では、一つの反応が起こるとその反応を押さえようとする反対の反応が起こります。相反する反応が調和を保って働くことで、一つの反応が行き過ぎる事ことなく正確に実行されます。この調和が内分泌かく乱物質によって壊されているようです。胎児期に内分泌かく乱物に曝露されると、性機能や甲状腺機能などに影響を与え、神経系の発達の異常、生後の行動上の異常(多動症など)、子育て能力の低下などを起こす事が懸念されています。また、体が大きくなってから内分泌かく乱物質の影響を受けても同様な行動異常を起こすことが考えられています。たくましい自律神経と内分泌、免疫機能を作り上げるためには内分泌かく乱物質を極力さけることが必要なのです。
参考文献:
保徹著:未来免疫学、インターメディカル、1997
正木健雄:データが語る子どものからだと心の危機、芽ばえ社、2000
環境庁リスク対策検討会監修:環境ホルモン−外因性内分泌撹乱物質問題に関する研究班中間報告書.環境新聞社、1997環境庁ダイオキシンリスク評価研究会:ダイオキシンのリスク評価、中央法規、1997