アレルギーっ子の生活

<04-22      2001年06月23日(土)公開>

【卵の旬】

 日本人は昔から「旬」を大切にして、季節も一緒に食べてきました。春の息吹を感じさせる苦みのある春の野菜たち、夏には体を冷やし暑さを忘れさせるウリ科やナスの仲間、秋にはゴボウやニンジン・白菜、冬には大根やカブなど体を温める野菜がその命を活発にさせます。人が食べ物を食べるということは、その食べ物の持つ命をもらうことに他なりません。生きの悪い農薬漬けの食べ物ではなく、生き生きとして生命力たっぷりのものを食べてこそ、健康な生き生きとした命をはぐくむことができるわけです。果物も同じ事。春のイチゴ、初夏のサクランボ・桃、夏のスイカ、秋のブドウや梨、冬のミカンやリンゴなど季節を楽しみながら少し食べればよいわけですが、いまの子供たちは毎日リンゴジュースを飲み、毎日バナナを食べたりするものですから、果物のアレルギーが急増中です。旬を忘れた食べかたはアレルギーや成人病発症の源になっているようです。現代人の生活が、スーパーマーケットに並べられている野菜を大地や海や川など自然の中で生きている生命体として見ていないために起こる現象なのではないでしょうか。

 卵のアレルギーが多く、卵に含まれる油脂(リノール酸が多く食べ過ぎればアレルギーの悪化・成人病の発症を高める、脂溶性の化学物質が蓄積している)のことを考えても、基本的にたくさん食べることはおすすめできません。外来を受診したお母さんたちにこんな質問をしてみます。「卵の旬を知っていますか?」たいていは「………??」そこで、「では、スズメはいつ卵を産みますか?」「え?わかりません」という答えが多いのですがこんな答えもあります。「毎日ではないんですか?」。毎日当たり前のように卵を食べていると、鳥は毎日卵を産むものと錯覚してしまいます。毎日さえずりを聞いているスズメでさえ、いつ卵を産むのかわからないほど自然から離れてしまったのでしょうか? 答えは、初夏。ひなたちのえさになる虫の幼虫が多く、子孫を残すために必要な食料が充分確保できる時期に1年に1回だけ2〜5個ぐらいの卵を産むわけです。したがって、人間が生きた卵を食べ、その生命力を取り入れ、たくましく命を燃やそうとするなら、年に1回初夏に食べるのが良いことになります。

 毎日店頭にならぶ卵は、人が食べるため、毎日卵を産むように人間に飼い慣らされたニワトリ(ニワトリの原産は熱帯地方ですから、日本の鳥とは違いもともと年中産卵する鳥です)から作り出された卵です。しかも、人が食べる卵は、ニワトリが子孫を残すためにオス・メスが協力して産み出された生きた卵とは違います。ニワトリに毎日卵を生ませる方法知っていますか?鳥類はその種類によって1回に産卵する数が決まっています。その数に達するまで卵を産んで、その数になると産卵をやめて、あたためはじめます。人間がニワトリの産んだ卵を毎日取り去ってしまうと、「あら、まだ卵がたりないわ!?」と機械のようになってしまった悲しい雌鳥は悲しい卵を産むわけです。この性質を利用して、大量の卵が作り出されます。それを一年中食べられるようにしてしまったのは人間の知恵といえばそのとうりですが、あまりにもアレルギーの子供たちが増えてくると、それがよかったかどうか疑問です。

 植物の種子(たね)は、それが実ったときが旬ですが(例えば、秋に実る新米)、種子のその生命力ゆえに1年中食べることができます。種子は固い殻に覆われ、空気に触れて酸化することを押さえています。種子は抗酸化物質を多量に持っていて、古くなることを押さえています。そのため、種は地面に落ち、年を越えて春になって、成長に必要な条件がそろうと芽を出すことができます。さらには、何十年、何百年たってから見つかった種から芽のでることもあるわけです。人は米や麦などの殻をやぶり、1年中の食べ物とし、その生命力をいただいています。菜種などの種からは油をしぼりとり食用にします。(ただし、市販のサラダ油などはヘキサンなど石油化学製剤を使って無理矢理に油を抽出するため、その種が持っていた抗酸化物質を含んでいません。そのため、ビタミンEを添加するわけです。油は天然の抗酸化物質が含まれている天然しぼりの油を使いましょう。)

 では、牛乳の旬は? 牛の赤ちゃんが生まれた時、牛の赤ちゃんにとって、牛乳は「旬」になります。地球上のどの哺乳動物も、大人になると母乳は飲みません。その動物の消化能力ににあった食べ物を食べるようになります。人間の赤ちゃんにとっては乳児期だけが母乳の旬であるように。食べ物を栄養素のかたまりとしてだけで見てはいけません。食べ物は、誰が(動物の種類)、いつ(季節、一日のうちのいつか、赤ちゃんか、成体か)、どのように(生か、発酵や加熱されているか、丸のままか、かみつぶしているか、切り刻まれているか)、どのような状態の時に(健康なときか、病気の時か、悲しいときか、怒っているときか)等で違いがあるのです。そして、それぞれの時にそれぞれの「旬」があるのです。

 地球上のすべての生き物は、植物が空気と水と太陽の光から光合成によってデンプンというエネルギーを作り出すことからはじまり、食物連鎖を通して他の生き物の命を「食べる」という行為によって取り入れ生きています。人間は食べ物を「栄養素のかたまり」として食べるのでなく、「命(いのち)」として食べるように考えなおすことが必要になってきています。そのことは、緑の地球を汚染から守る次世代の子供たちへの私たちの遺産ともなるでしょう。「旬」とは、その命が一番たくましく活発な時です。その命を「食べる」ことで私たちの命が保たれていきます。地球上のすべての生き物たちに感謝して“旬”をいただきましょう。

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