<04-20 2001年06月19日(火)公開>
牛乳にアレルギーがある場合、まず不安に思うことはカルシウムの摂取はどうしようかということです。現在の日本人はあまりにもカルシウムのことについて敏感で、間違った考え方を教え込まれているため、牛乳が飲めないとカルシウムがとれなくなってしまうと落ち込んでしまうようです。でも、そんなことはありません。牛乳が飲めなくても、健康に生活するために適量のカルシウムは食べることができます。
@カルシウムは野菜・海草、魚、貝などアレルギーのない様々な食品からとるようにしましょう。日本人が昔から食べてきたものの中にはきちんと必要なカルシウムが含まれています。もし、乳製品を食べないと健康が保てないのなら、乳製品を今ほどに食べなかった昔の日本人はなぜ骨が丈夫だったのでしょうか? アジアに住む人たちのカルシウム摂取は1日200〜400mgです(島田彰夫著、カルシウム所要量の疑問・食べることに自信をなくした日本人、芽ばえ社)。日本は540mg前後となっていますが、日本の栄養所要量である600mgは今だ達成されたことはありません。これはおそらく、“欧米並み”の牛乳摂取量を目指したため、アジアの人たちが過去に食べてきた400mg程度のカルシウム摂取量を飛び越え、中間の600mgを設定してしまったように思えます。1日900mg以上のカルシウムを食べないと健康を維持できない北欧やアメリカの食べ方を、風土が違う日本人がそのまま真似する必要はありません。私たちの体は食品中のカルシウムが少なければ吸収率を高めてより多くを体内に摂り入れるようになります。
A“ヒト”は低カルシウムで育ちます。牛乳(牛の母乳)中のカルシウムは牛乳100g中100mgあります。ところが“ヒト”の母乳は母乳100g中27mgと、牛乳に比べるとかなり少なくなります。親に保護され、ゆっくりと大きくなる間に、親やまわりの仲間たちから生存するために必要な知識や技術を教えられていく哺乳類の母乳はカルシウムが少なく、生まれてからすぐ歩き出し早く大きくなって敵から身を守らなければ生存できない哺乳類はカルシウム濃度が高くなっているようです。したがって、ヒトの母乳は低カルシウムの典型であり、“ヒト”の赤ちゃんは低カルシウムで育つようになっています。もし、“ヒト”の赤ちゃんに牛乳がそのままで与えられると、牛乳はカルシウムと同時にリンなどの電解質も多いため(牛乳のリンは100g中90mg、“ヒト”母乳中には14mgしか含まれていません)、未熟な腎臓からは余分な電解質を排泄できず、赤ちゃんはけいれんを起こしてしまいます。人工ミルクは、牛乳の高い濃度のカルシウムなどの電解質を“ヒト”の母乳に合わせて低く押さえてあります。まれに、赤ちゃんを健康にしようとカルシウムの高いミネラルウオーターでミルクを調合するお母さんがいますが、それはやめてください。赤ちゃんの体にはかなりの負担になります。
B母乳を出そうと牛乳を無理して飲み、赤ちゃんが牛乳アレルギーになってしまったという話はよく聞きます。母乳を出すために牛乳を飲む、これは非常におかしな話です。この地球に生存するどんな哺乳類も乳を飲んで母乳を出す生き物はいません。母乳はその哺乳類が成体となったときに食べる食べ物を消化能力の弱い赤ちゃんの代わりに母親が食べ、それをお母さんの体を通して母乳という赤ちゃんの体にあった食べ物に変えて与え、赤ちゃんが飢えることなく成長するためのものです。“ヒト”は“ヒト”の食べ物を母親が食べ、赤ちゃんに母乳という形であたえます。
ちなみに、牛のお母さんは、牛乳からカルシウムを摂っている訳ではありません。牛が食べるべきもの、つまり、草を食べて母乳に変え、子牛に与えています。カルシウムの摂取は、その生物が本来食べるべきものから自然な形でとることが望ましいのです。
Cリン酸塩(食品添加物として多くの加工品に含まれています−タラスリミやハム、ラーメンのカンスイなど)の多く含まれる食品を食べ過ぎると、カルシウムの吸収が悪くなります。リンの摂取はカルシウムの2倍以下になることが望ましいと言われています。リンとカルシウムの比が悪い加工食品は食べ過ぎないように注意しましょう。
D砂糖を食べ過ぎると骨が弱くなると言われています。砂糖の摂りすぎはやめましょう。砂糖の1日当たりの最大摂取量は体重1kg当たり1gです。20kgを超えても20gは超えないようにしましょう。
リンとカルシウムの比が悪い食べ物 | リン (mg/100g) |
カルシウム (mg/100g) |
リン/カルシウム比 |
---|---|---|---|
ポークハム |
256.0 |
5.0 |
51.2 |
環境ホルモン物質(ビスフェノールA、フタル酸ジブチル、ノニルフェノールなど)は、エストロゲン(卵胞ホルモン)が引き起こす骨の破骨細胞のアポトーシス(予定された細胞死)を抑制することが報告されています。これらの化学物質の影響を受けると、骨の吸収が促進されるため、骨が弱くなる可能性が考えられます。
1)川上智史、坂部貢、相澤好治、門脇武弘(北里大学、北里研究所):破骨細胞のアポトーシスと環境ホルモン、環境ホルモン学会第3回研究発表会要旨集:231、2000