<04-13 2001年05月05日公開>
体の中で、内分泌の働きをする臓器(脳下垂体、甲状腺、副腎、膵臓、卵巣・精巣などの性腺など)は極微量の化学物質(ホルモン)を分泌して、正常な体内の働きを維持しています。この内分泌の働きは、環境中に存在するさまざまな化学物質によって影響を受けることがわかってきました。1998年5月環境庁が発表した環境ホルモン戦略計画SPEED‘98では「“動物の生体内に取り込まれた場合に、本来、その生体内で営まれている正常なホルモン作用に影響を与える外因性の物質”を意味する。近年、内分泌学を始めとする医学、野生動物に関する科学、環境科学等の研究者・専門家によって、環境中に存在するいくつかの化学物質が、動物の体内のホルモン作用を攪乱することを通じて、生殖機能を阻害したり、悪性腫瘍を引き起こしたりするなどの悪影響を及ぼしている可能性があるとの指摘がなされている。これが『外因性内分泌かく乱化学物質問題』と呼ばれているものであり、環境保全行政上の新たで重要な課題の一つである」としています。
環境ホルモン(外因性内分泌撹乱物質)の特徴 |
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1)生物の体内で、ホルモン(内分泌)と同じように作用し、生殖機能などの正常な働きをかく乱する。 2)野生動物では、生殖器の異常、子育ての放棄、メス同士のつがい、卵の孵化率の減少など。 3)ホルモンは体内では極微量によって体をコントロールしているため、環境ホルモンも極微量で作用する。 4)人間への影響は内分泌機能の変調、神経の働きの障害、とくに自律神経の失調、免疫力の変調、アレルギー反応の変調、乳ガン、前立腺ガン、生殖機能の低下、不妊症、流産、精子減少、子育て能力の低下、行動異常(多動、注意力の低下、学習障害、乱暴な行動、過剰な反応など)、運動機能や知能への障害などが考えられている。 5)特に胎児(とくに胎児期初期)、乳児期にさらされると大きな影響が起こる。 6)農薬やダイオキシンの他に、今まで安全と思われていた化学物質の中にも環境ホルモン作用を有するものがある。 7)どのくらいの摂取量なら安全かは未解明。今までの安全な一日摂取量という考え方は通用しなくなっている。 8)今後研究が進み、神経や免疫を中心に異常を起こす場合は、外因性神経かく乱物質、外因性免疫かく乱物質などの名称が使われるようになると思われる。 |
環境ホルモン物質は、環境庁が67物質をリストアップしています。(社)日本化学工業協会では文献から拾い集めた140数種の化学物質を列挙しています。今後研究が進むにつれて数は増えていくものと思われます。
環境ホルモン物質は、いくつかの種類に分類することができます。《詳細は下記の表を参照》
1つ目は、天然の女性ホルモンと合成女性ホルモン。合成女性ホルモンであるジエチルスチルベストロール(DES)は多数の人に不妊や癌などの不幸をもたらしました。1999年低用量ピルの使用が認可され、環境への影響が懸念されます。
2つめは非意図的生成物、つまり作ろうとしてできたものではなく、農薬や化学製品を作る過程で生産するつもりはなかったができてしまったもので、有機塩素系化学物質(塩素と炭素が結合した有機塩素系化合物であり、本来、自然界には存在しない)であるダイオキシン類、ディーゼル排ガス中のベンゾ(a)ピレンがこの仲間に入ります。
3つめは、難燃剤・熱媒体として使われていたPCB(ポリ塩化ビフェニールなどの工業薬品類です。
4つめは、合成樹脂やその添加物である可塑剤です。哺乳瓶や食器、缶詰の内面皮膜に使われるポリカーボネイトに高温の食品やお湯をいれるとビスフェノールAが溶出します。エポキシ樹脂製接着剤の原料でもあります。塩化ビニール製のおもちゃやラップなどの食品包装剤、マニキュアなどの化粧品などからはフタル酸エステルやアジピン酸エステルなどが溶出します。発泡スチロール製の容器にお湯を注ぐとスチレンが解け出ます。工業性合成洗剤、食品包装用ラップからはノニルフェノールなどアルキルフェノールが出ます。
5つめは重金属類で船底や魚網に貝が付着しないように使われていた有機スズ化合物やカドミウム、鉛など。
6つめは、DDTなどの有機塩素系殺虫剤。
7つめはピレスロイド系殺虫剤、除草剤、殺菌剤など有機塩素系以外の農薬が入ります。
別な観点から見ると、すでに毒性が認識されて使用が停止されたが環境中には残存が続いている化学物質と、現在も使用され、生物への影響が研究されている物質に分けられます。
その中でも、特に注意が必要な化学物質は油脂に溶け込む性質を持ち、生物の脂肪内に蓄積し長期間にわたって残留する化学物質です。
脂の多い魚や魚卵、肉の脂・家畜の肝臓(レバー)、牛乳・チーズ・バターや卵、植物性油脂などには脂溶性のDDTやディルドリン・ヘプタクロールなどの有機塩素系農薬、PCB類、ダイオキシン類などの蓄積性、残留性のある環境汚染物質がたまります。これらの汚染物質は体脂肪に溶け込み、食物連鎖の鎖の中で生体内濃縮されます。食物連鎖終末側の生き物達の体脂肪中に高濃度に蓄積され、内分泌の正常な働き阻害し、胎児の奇形、行動異常、神経機能の異常、免疫やアレルギーの異常、生殖能力の低下、発癌など多くの病気を引き起こすことがわかってきました。
汚染された水、河川、海、土地で成長する動物達はこれらの物質で汚染されている可能性が高くなります。食物連鎖の最終生物であるヒトは汚染が進んでいます。赤ちゃんにあげる母乳は脂肪がエネルギー比で49%(重量比で約4%)もあり、母乳中の汚染物質の濃度はかなり高くなっていることが報告されています。汚染から私たちの体を守るためには油脂を少なく食べる和食が最適です。また、アレルギーっ子達は体を張ってこれらの汚染物質を拒否しているようです。多くのアレルギーっ子たちは脂の多い魚や魚卵、肉の脂・家畜の肝臓(レバー)、牛乳・チーズ・バターや卵、植物性油脂などにアレルギーを起こし、食べるとアレルギー疾患は悪化してしまいます。アレルギーという警告信号を出し、私たちに注意を促しているようです。私たちはこの警告を素直に受け止めるべきでしょう。
食品名 | ダイオキシン濃度 (2・3・7・8ダイオキシン換算 pg/g) |
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ハンバーガー | 0.03−0.28 |
ピザ | 0.03−0.29 |
フライドチキン | 0.01−0.31 |
アイスクリーム | 0.03−0.49 |
1997年11月15日の毎日新聞に掲載された記事です。有名ファーストフード店で購入したハンバーガー、ピザ、フライドチキン、アイスクリームを調べた、アメリカニューヨーク州立大予防医学アーノルド・シェクター教授の研究で、アメリカ人の体内に食物を通して入るダイオキシン類のうち17〜53%はファーストフードを食べることによることがわかりました。
プラスチックから溶け出る化学物質の中には環境ホルモンが含まれています。ポリカーボネイト製樹脂でできた哺乳ビンに熱湯を注ぐとビスフェノールA(エポキシ樹脂の原料)という環境ホルモンが溶け出ます。また塩化ビニール製品などの合成樹脂や合成ゴムからは軟化剤のフタル酸エステルが、また可塑剤として使われたアルキルフェノール(ノニルフェノールや4−オクチルフェノール)も溶出します。したがって、プラスチック・合成樹脂類はなめたり、食べもの(特に熱いもの)を入れて食べたりしないようにした方がいいでしょう。
缶詰の内側の被膜に使われている合成樹脂(塩化ビニール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂)からもフタル酸エステル、ビスフェノールAやアルキルフェノールが溶け出ていることがわかっています。滅菌のために行なう加熱で環境ホルモンは溶け出やすくなります。お茶やコーヒーは100℃以上、肉・魚・野菜などの缶詰は高温で加熱時間も長いため溶け出る量が多い可能性があります。比較的安全なポリエチレンフィルムを内面被膜に使った缶詰は、継ぎ目のない底で白い色のものです。
合成樹脂で被膜された缶詰や合成樹脂製の容器に油脂の多い食品を入れて保存すると(乳製品・冷凍品や肉類、スナック菓子など)合成樹脂中の脂溶性の環境ホルモンが食品に溶け込んでしまう可能性があります。食品は合成樹脂と接触しないように気を付けましょう。また、電子レンジや湯せん等で加熱すると溶け出る量は増えます。「電子レンジでチン!」はご注意!
スチレン製の容器(カップラーメンなどに使われている)にお湯を注ぐと、スチレンが溶けでます。この物質の重合体は環境ホルモンということがわかっています。食べないようにしましょう。
おもちゃ、特に赤ちゃんがなめるものはプラスチック製品(とくに塩ビ製品)を避けて安全な木や布を使った物を選びましょう。
★参考★
小若順一:缶詰の内面塗装に環境ホルモン−安全な缶の見分け方.食品と暮らしの安全108:12−13、1998
外因性内分泌撹乱物質問題に関する研究班中間報告.環境庁、1997
ダイオキシンリスク評価検討会報告書.環境庁、1997
日本子孫基金:食品と暮らしの安全106・107号、1998
日本子孫基金:家族を救うチェックリスト−子孫を絶やす環境ホルモン、1998
内分泌かく乱作用がが疑われている化学物質(環境ホルモン物質)
化学物質名中の★は環境調査で検出例があるもの、☆は検出例がないもの、印がないものは未調査
化学物質名 | 用 途 | 使用の状況 | |
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天然および 合成エストロゲン (女性ホルモン) |
エストラジオール | 天然女性ホルモン | |
エチルスチルベストロール(DES) | 合成女性ホルモン、流産防止、避妊などの目的で多用された | 1971年使用禁止 | |
エチニールエストラジオール | 低用量避妊薬 | ||
非意図的物質 | ダイオキシン類★ | 廃棄物焼却、農薬中の不純物 | 現在も排出中 |
ベンゾ(a)ピレン★ | タバコ、ディーゼル排ガス等の非意図的生成物 | 現在も排出中 | |
工業薬品類 | PCB(ポリ塩化ビフェニール)★、 コプラナーPCB★ |
熱媒体、電気絶縁体 | 1972年生産中止 |
PBB(ボリ臭化ビフェニール)類☆ | 難燃剤 | 使用中 | |
2,4-ジクロロフェノール☆ | 染料中間原料 | 使用中 | |
ベンゾフェノン☆ | 医薬品原料、紫外線吸収剤、保香剤 | 使用中 | |
4-ニトロトルエン★ | 2,4ジニトロトルエンなどの中間体 | 使用中 | |
オクタクロロスチレン | 有機塩素系化合物合成過程の副産物 | ||
n−ブチルベンゼン | 液晶製造用、合成中問体 | 使用中 | |
合成樹脂、 界面活性剤原料 |
ビスフェノールA★ | ポリカーボネート、エポキシ樹脂の原料 | 使用中 |
スチレン2量体、3量体 | ポリスチレン樹脂から微量溶出 | 使用中 | |
アルキルフェノール | 工業用洗剤、フェノール樹脂原料 | 使用中 | |
ノニルフェノール★ | 界面活性剤原料、酸化防止剤 | 使用中 | |
4−オクチルフェノール★ | 油溶性フェノール樹脂・界面活性剤原料 | 使用中 | |
プラスチック添加剤 (可塑剤等) |
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル★ | 塩ビの可塑剤、シート、電線被覆剤、農業様ビニール | 使用中 |
フタル酸ブチルベンジル★ | 床壁用タイル、塗料、人造皮革、ペースト | 使用中 | |
フタル酸ジ-n-ブチル★ | ラッカー、接着剤、印刷インキ、染料 | 使用中 | |
フタル酸ジシクロヘキシル☆ | ラッカー、接着剤、防湿セロファン用 | 使用中 | |
フタル酸ジエチル☆ | 酢酸セルロース・メタクリル酸の可塑剤 | 使用中 | |
アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル★ | レザー、シート、ぺ一スト | 使用中 | |
フタル酸ジベンチル | プラスチックの可塑剤 | 非生産 | |
フタル酸ジヘキシル | プラスチックの可塑剤 | 非生産 | |
フタル酸ジプロピル | プラスチックの可塑剤 | 非生産 | |
重金属 | トリブチルスズ★ | 船底塗料、漁網の防汚剤 | 1997年生産中止 |
トリフェニルスズ★ | 船底塗料、漁網の防汚剤 | 1997年生産中止 | |
鉛 | 電池、無機薬品、ハンダ、鉛管、塗料 | ||
水銀 | 電池、触媒、水銀灯、温度計、圧力計 | ||
カドミウム | 電池、顔料、合金、安定剤 | ||
有機塩素系農薬 | エンドスルファン(ベンゾエビン)☆ | 有機塩素系殺虫剤 | 使用中 |
ジコホル(ケルセン)☆ | 有機塩素系殺ダニ剤 | 使用中 | |
アトラジン☆ | 有機塩素系除草剤 | 使用中 | |
アラクロール☆ | 有機塩素系除草剤 | 使用中 | |
トリフルラリン☆ | 有機塩素系除草剤 | 使用中 | |
DDT★ | 有機塩素系殺虫剤(POPs) | 1971年〜不使用 | |
DDEとDDD★ | 有機塩素系殺虫剤、DDT代謝物 | 未登録 | |
HCH(BHC)★ | 有機塩素系殺虫剤 | 1971年〜使用禁止 | |
アルドリン☆ | 有機塩素系殺虫剤(POPs) | 1975年〜使用禁止 | |
エンドリン☆ | 有機塩素系殺虫剤(POPs) | 1975年〜使用禁止 | |
ディルドリン★ | 有機塩素系殺虫剤(POPs) | 1975年〜不使用 | |
クロルデン★ | 有機塩素系殺虫剤(POPs) | 1968年〜不使用 | |
オキシクロルデン★ | クロルデンの代謝物 | ||
トキサフェン☆ | 有機塩素系殺虫剤(POPs) | 未登録 | |
トランスナノクロル★ | 有機塩素系殺虫剤 | 1986年使用禁止 | |
ヘキサクロロベンゼン(HCB)★ | 有機塩素系殺菌剤、有機合成原料 | 1979年使用禁止 | |
ヘプタクロル★ | 有機塩素系殺虫剤(POPs) | 1975年〜不使用 | |
ヘプタクロルエポキサイド★ | ヘプタクロルの代謝物 | ||
ペンタクロロフェノール(PCP)★ | 有機塩素系殺菌剤、除草剤、防腐剤 | 1990年〜不使用 | |
マイレックス☆ | 有機塩素系殺虫剤(POPs) | 未登録 | |
メトキシクロル☆ | 有機塩素系殺虫剤 | 1960年〜不使用 | |
2,4-D(ジクロロフェノキシ酢酸)☆ | 除草剤、ベトナムの枯葉剤 | 使用中 | |
2,4,5-T(トリクロロフェノキシ酢酸)☆ | 除草剤、ベトナムの枯葉剤 | 1975年登録失効 | |
アミトロール☆ | 除草剤、分散染料、樹脂硬化剤 | 1975年〜不使用 | |
非有機塩素系農薬 | カルバリル☆ | カーバメイト系殺虫剤 | 使用中 |
ベノミル | カーバメイト系殺虫剤 | 使用中 | |
メソミル | カーバメイト系殺虫剤 | ||
アルディカープ | カーバメイト系殺虫剤 | 未登録 | |
ジネブ | ジチオカーバメイト系殺菌剤 | 使用中 | |
ジラム | ジチオカーバメイト系殺菌剤 | 使用中 | |
マンゼブ(マンコゼブ) | ジチオカーバメイト系殺菌剤 | 使用中 | |
マンネブ | ジチオカーバメイト系殺菌剤 | 使用中 | |
メチラム | ジチオカーバメイト系殺菌剤 | 1975年失効 | |
エスフェンバレレート | ピレスロイド系殺虫剤 | 使用中 | |
フェンバレレート | ピレスロイド系殺虫剤 | 使用中 | |
シペルメトリン | ピレスロイド系殺虫剤 | 使用中 | |
ペルメトリン | ピレスロイド系殺虫剤 | 使用中 | |
合成ピレスロイド | ピレスロイド系殺虫剤 | ||
シマジン☆ | トリアジン系殺虫剤 | 使用中 | |
メトリブジン | トリアジン系殺虫剤 | ||
マラチオン(マラソン)☆ | 有機リン系殺虫剤 | 使用中 | |
エチルパラチオン★ | 有機リン系殺虫剤 | 1972年〜不使用 | |
ニトロフェン★ | ジフェニルエーテル系除草剤 | 1982年〜不使用 | |
ピンクロゾリン | 殺菌剤 | 1998年から失効 |
POPs:「陸上活動からの海洋環境の保護に関する世界行動計画」において指定された残留性有機汚染物質
(表は山田國廣:内分泌撹乱物質のリスク評価と総量削減、検証「環境ホルモン」17章:231-246、青木書店、1999より作成)