<03-02 2000年08月07日>
アレルギーっ子達を見ていると、彼らは環境汚染を避けることで体を守っているように思えます。体に合わないと判断したものが体内に侵入してこようとすると、いやな匂いや、いやな感じで避けようと鼻水・くしゃみ・咳などを起こして体内に入れないようにしたり、体内に入ってしまったものを皮膚(=汗腺や脱脂腺)から追い出そうして湿疹を起こしてしまったり、嘔吐や下痢等で一刻も早く体外に排泄しようとしたりします。これらの症状がコントロールできずに、行き過ぎた反応を起こすとアレルギー性疾患の発病となります。さらに、免疫力低下から感染症などの合併症を起こし複雑な病態となっていきます。
アレルギーっ子達が症状がなく、食べることができる食べ方は、「牛乳や卵は避け、肉の油脂は少なく、魚卵は特に注意し、油の多い魚は避け、油の少ない魚を、植物性油も少なく、食べる時は良い油を食べ、新鮮で汚染の少ない野菜・穀物をきちんと食べ、化学薬品を少なく」です。触ったり吸い込んだりするものも「化学物質で汚染されたものは避ける」です。この食べ方・生活法は、ダイオキシン類など脂溶性の環境ホルモン物質・環境汚染物質を避ける食べ方・暮らし方になります。
こんな仮定ができます。環境が悪化し汚染が進み、正常な生体の生命機能が続けられなくなってしまった時、胎児は様々な障害を受けます。最悪の場合は流産してしまうでしょう。何とかこの世に生まれてきた子供たちは同じ悪い環境におかれるとアレルギーを起こし避けようと頑張り。それでも避けられないときは様々な機能障害を起こしてしまいます。免疫力が落ちた老人では、癌化・生活習慣病(成人病)という最悪の事態が待っているかもしれません。アレルギーっ子たちはアレルギーを起こして、アレルギー症状が出るものを避けることで、自分の体を守っているようにみえるのです。
アレルギーの中でも最悪の病気、アレルギーの暴走ともいえるアナフィラキシー。この病気になった患者さんたちの家族歴を調べているうちに次のようなことに気づきました。1986年から1998年までにアレルギー外来を受診したアナフィラキシー患者さん140例中、家族歴不明の9例を除いた131例の中で、祖父母や兄弟など2親等以内にアレルギー性疾患(アトピー性皮膚炎・気管支喘息・アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎・じんましん)を持つ人がいる割合は75.6%(99例)でした。ところが、131例中2例の姉妹例(姉が7歳時ラパス貝で、妹が4歳時タラ・卵の入った笹蒲鉾でアナフィラキシー)を除いてはどの例も、家族にアナフィラキシーを起こした人はいませんでした。少なくとも、アナフィラキシーを起こした本人と同様の症状を起こした人はいないのです。
アレルギー性疾患はアレルギーを起こしやすい素因(遺伝)に環境因子(生活環境や食べ方など)が加わって起こるといわれています。アナフィラキシー自体の発症数が少ないため確実なことはいえませんが、アナフィラキシーを起こした人が上の世代にいないということは、アナフィラキシー発症には素因よりも環境因子の影響の強いことが推測されます。しかも、世代を越えていない(つまり親子での発症例がない)ということはここ20年以内に起った環境の変化が影響している可能性が考えられます。胎児期または出生後に受けた環境ホルモンなどの環境汚染化学物質・大気汚染物質・薬品などの影響が考えられても不思議ではないでしょう。
アレルギーが起こる原因はまだよく分かっていませんが、化学物質の関係からみると、こんな風に考えることができます。
典型的な例は次の表のように、スギなどの花粉とディーゼル車排気ガスとの関係などの場合があります。例えば
自然界の物質 | 人が作り出した化学物質 |
ダニ | えさとなるフケの脂溶性環境汚染化学物質による汚染、室内汚染(石油ストーブの排気・煙草の煙・合成洗剤・抗菌剤・殺菌剤・パラジクロロベンゼン・有機リン系殺虫剤・ピレスロイド系殺虫剤・フタル酸エステル、新建材から出るホルムアルデヒド・トルエンなどの有機溶剤など) |
スギ花粉・キク科花粉 | 自動車排気ガス特にディーゼル車排気ガス、殺虫剤 |
イネ科花粉 | 水田に散布された農薬や自動車の排気ガス |
ネコなどペット | えさに残留する脂溶性環境汚染化学物質 |
卵 | 母鶏に食べさせた化学薬品・飼料中の残留農薬 |
獣肉 | 飼育されるときに使われた化学薬品・飼料中の残留農薬 |
魚貝 | 河川・海を汚染する汚染物質 |
バナナ | バナナに付着したポストハーベスト農薬 |
獣肉の脂・肝臓(レバー)、魚・魚卵・貝・牛乳・卵の脂 | ダイオキシン類、PCB、有機塩素系殺虫剤(DDTなど)の脂溶性の環境汚染化学物質(内分泌かく乱化学物質など) |
その他の食品 | 残留農薬・ポストハーベスト・抗菌剤・殺虫剤・食品添加物など |
参考文献 | William J. Meggs: Mechanisms of allergy and chemical sensitivity. Toxicology and Industrial Health 15:331-338,1999 |
知覚神経C繊維にある化学物質受容体に化学物質が作用し、神経細胞からサブスタンスPやニューロキニンA、Bなどが放出される。サブスタンスPは肥満細胞にある受容体に結合してヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されてアレルギー反応が起きる。ヒスタミンは知覚神経C繊維を更に刺激する。また、知覚神経C繊維の刺激は中枢神経を介して他の場所や他の臓器に反応を起こし全身に症状は広がっていく。 |
アレルギー反応を別な視点からみると、環境中の汚染を敏感に見つけ出すセンサーの役目をしています。アレルギーを起こしやすくさせる様々な原因が私たちの生活環境中に潜んでいます。この原因を探し出してうまく処理できれば、病気がひどくなることはなくなるでしょう。そして、アレルギーっ子たちは、環境中の体に合わない物質、体を傷つけ体の働きをおかしくさせる物質を敏感に見つけ出します。まるで、高性能のセンサーを持っているようです。
ダイオキシンを測定すると1検体で数十万円かかります。もし、測定する機械を1台購入するとなると数億かかります。アレルギーっ子が1人いると、その機械1台分の役割をしているようです。