読売新聞−2001年(平成13年)10月02日(火)
厚生労働省は一日、牛骨などから抽出・濃縮して作る「エキス」や「コラーゲン」などの加工食品に狂牛病の病原体を含む可能性があることから、検査体制が整い原料の安全性が確認されるまで製造を自粛し、製造を継続する場合には牛以外の原料に切り替えるよう食品加工メーカー側に指導することを決めた。今週中にも関係団体を通じて通知する。
対象となる加工食品は、スープや調味料などに使われている「牛エキス」のほか、美容飲料などに含まれる「コラーゲン」、健康食品に使われている「骨粉」や「プラセンタ(胎盤)エキス」など幅広く、多くの食品加工メーカーが、牛以外の原料に切り替えるなどの対応を迫られることになる。
牛の骨や肉から特定の成分を抽出・濃縮して製造するこれらの加工食品には、狂牛病の感染源となる異常プリオンが混入する恐れが以前から指摘されていた。
同省は今月下旬から生後30か月齢以上の牛を対象に検査を実施するが、この検査で安全性が確認された牛については、加工食品の原料として利用することが認められるようになる。脳やせき髄などの特定危険部位については、検査後も使用を禁止する。
一方、輸入品については、すでに欧州連合(EU)などの発生国からの加工品は禁止しているが、それ以外の安全とされる国から輸入する場合でも、特定危険部位が使われていないかどうかを確認したうえで販売するように指導する。
厚生労働省が一日、食品メーカーに牛のエキスなどを含んだ製品の製造を自粛するよう指導することを決めたことで、メーカーからは「原料は簡単には替えられない。大きな打撃だ」という困惑の声が上がっている。すでに原料を輸入品に切り替えていたメーカーもあったが、厚労省の決定を受け、再び対応を迫られることになった影響は大きい。
牛エキスは、牛の肉や骨を煮込んで作った調味料。世界保健機関(WHO)は、骨の中に含まれる骨髄について、狂牛病の感染危険度のうち「低感染性」に分類している。
大手食品会社「ハウス食品」では、調味料「ビーフブイヨン」の原料として、国産牛と輸入牛を混ぜて抽出したエキスを使っていたため、原料メーカーに牛の原産地の確認を求めていたところだった。今回、厚労省が自粛指導を決めたことに驚き、「微妙な味が求められるので、簡単に原料を替えられない。ビーフブイヨンを多用している外食産業などは影響が深刻だ」と不安を隠せない。
また、「味の素」では、コンソメの原料として牛肉エキスを使っており、「(安全とされる)肉だけを使ったエキスもだめとなれば、製造を根本から見直さなければならず、大変な影響が出る」と話した。
大手ベビーフードメーカー「和光堂」には、レトルト製食品に牛エキスを使用しているため、消費者から「子供に食べさせても大丈夫夫か」との問い合わせが一日約20件寄せられていた。このため、同社は「わずかだが国産牛を使っているので、すべて豪州など安全とされる国からの輸入牛に切り替えたい」としていた矢先だった。
大手食品会社「キューピー」でも、ベビーフードのうどんなどの原料の一部に「ゼラチン」と表示があるため、消費者から「牛を使っているのか」という問い合わせが急増していた。同社では、レトルト製食品に使っている牛エキスの原料を輸入牛に切り替えたが、ゼラチンについては、「安全」とするWHOの見解に基づき、従来通り牛の骨などを原料にしたものを使っていた。しかし、今回の厚労省の決定でゼラチンも再考を求められることになった。
千葉県白井市で見つかった国内初の狂牛病の感染牛が当初、ブリオニクス検査で「陰性」と判断された検査ミスをめぐり、検査を実施した農水省関連の動物衛生研究所が、ミス発覚後に開かれた同省の狂牛病技術検討会に対し、検査した感染牛の詳しい部位を報告していなかったことが一日、明らかになった。今回のミスについては、簡易検査であるプリオニクス検査を行うにあたり、感染牛の延髄の採取部位が不適切だったのが原因との可能性が出ており、今後、議論を呼びそうだ。
農水省は1日、先月12日から実施していた全国の約460万頭の乳牛と肉牛を対象にした緊急全国調査の結果、狂牛病に似た異常な症状を示す牛は発見されなかったと発表した。
この検査は、全国の酪農家など約13万6,000戸で飼育されている牛の外見上の症状を調べるもので、獣医師ら約5,800人を動員して行われていた。