朝日新聞−2001年(平成13年)10月01日(月)
日本をはじめ先進諸国では飽食や肥満が問題化しているが、世界では、約8億人もが栄養不足に苦しんでいる。近年、国連食糧農業機関(FAO)など国際機関や各国の援助によって、少しずつ改善が進んでいるものの、開発途上国では人口が増え続けて食糧生産に追いつけない状況がある。環境破壊や内戦など複雑な要因も絡み、飢餓を訴える人々の状況はむしろ深刻化している。1996年の世界食糧サミットで合意された、2015年までに飢餓人口を半減するという目標は早くも危ぶまれ、11月の会合では見直しが迫られている。16日の「世界食糧デー」を前に、地球規模での食糧問題を改めて考えてみる。 (解説部 永峰 好美、写真はFAO提供) |
96年の世界食糧サミットには、180余の国と地域の首脳が集まり、「開発途上国で慢性的な栄養不足に苦しむ(8億3〜4000万の)人口を2015年までに半減させる」との目標を掲げ、その実現に向けて援助の強化などの行動計画を採択した。しかし、FAOの最新推計(96〜98年平均)で、途上国の栄養不足人口は7億9200万人。改善の進み具合は遅々としており、このままでは、目標年次の2015年に、5億8000万人が依然として飢餓に苦しむ構図が予想される。
FAOがまとめた報告書「世界食糧不安の現状2000年版」では、「飢餓の深刻度」という新しい指標を用いて、食糧面で重点的に援助が必要な国を23か国挙げている。
指標は、成人一人が一日の食事から実際に摂取する平均的なエネルギー量と、体重を維持し軽労働を行うための最低必要量とを比較してはじいている。一人一日当たり301kcal以上不足している場合、「飢餓の深刻度が高い」地域に分類している。こうして分類された23か国の中でも特に深刻なのは、450kcal以上不足している、ソマリア、アフガニスタン、ハイチの3か国である。
これらの地域での飢餓の要因は、干ばつ、洪水など自然災害だけではない。人口増に食糧生産が追打つかないことに加え、内戦や経済問題などが縮み合い、犠牲者を増やしている。主要エネルギー資源であるまきのための森林伐採で砂漠化が進み、土地の荒廃や異常気象も影響している。
アフリカ諸国の場合、植民地の遺制が影を落とす。60年代にはほぼ食糧を自給できていたにもかかわらず、政府が国内用食糧生産を軽視し、換金作物の生産へと走ったため、自給率は低下する一方だ。経済のグローバル化から取り残され、累積債務が重くのしかかっている。
極度の食糧不足で緊急援助が必要な国として、アフリカやアジアを中心に36の国・地域が、FAOによって指定されている。
アフリカでは、「アフリカの角」と呼ばれる東アフリカのエリトリアやエチオピアなどで、地域紛争が干ばつ被害を悪化させ、特に女性や子どもに影響が集中している。
アジア・中東地域では、アフガニスタン、モンゴル、北朝鮮などで、ここ数年、慢性的な食糧不足が繰り返されている。アフガニスタンでは、過去3年間の干ばつにより、小麦と大麦がほぼ壊滅状態で、数百万人が危機的状況に直面している。
FAOによれば、米国の軍事行動が実行されれば、食糧不足はさらに悪化し、同国の人口の4分の1近い約600万人が飢餓に陥ると予測している。今後数か月感で約100万人が新たに避難民化するとみられ、隣接するパキスタンやイランにも影響をもたらす恐れが出てきた。今年の穀物生産量は、98年と比べて半減すると推定され、大幅な穀物の輸入増が必要とされる。
世界食糧サミットで採択された宣言と行動計画について、この5年間の進ちょく状況などを検証し、今後の対策を話し合う国際会議が、11月5日から9日までイタリアで開かれる。貧因・飢餓の解消のため、今後、世界の食糧安全保障をどう確立するか、各国の援助資金が伸び悩む中、いかに効率的に資金を配分するかなどが、焦点になる。
援助国の間でも、貿易の自由化をさらに進めるべきだとする国と、これ以上の自由化は自国の農業を衰退させると反対する国があり、議論は紛糾しそうだ。
地鶏を育てる 「テレフード・キャンペーン」で実施している募金は、食糧援助が必要とされた国や地域を対象に、事業一件につき約一万j配分され、小規模ながらも、現地の農業復興や、地元住民の食生活の向上、所得の確保などに貢献している。 例えば、ラオスでの養鶏プロジェクトの場合、四つの村約1,000人の住民が、政府関係者、FAOの農業指導専門家らとチームを作って実践した。中心になったのは、全国にネットワークがあるラオス婦人連盟の各村の支部の女性グループだ。清潔な鶏舎づくりを学び、ワクチンの導入によって地鶏の飼育管理を強化するなどして、市場での価値を高めることに成功した。こうした事業は、112か国で817件が実践されている。内容は、野菜や穀類の栽培指導、地鶏やウサギの飼育、零細漁業の改善など。各地の特性を生かした指導が行われている。 |
2015年までに、世界の栄養不足人口の半減を目指して、FAOは、97年から10月16日の「世界食糧デー」を中心に、「テレフード・キャンペーン」をスタートさせた。各国のメディアによる報道や様々な行事を通して、世界の人々が共に地球の食糧問題を考える場を作ってきた。
97年にFAOの事務所が開設された日本では国際食糧農業協会と共催で、政府、地方公共団体などの協力を得て、毎年キャンペーンを行っている。
今年は10月17日、横浜のみなとみらいホールで、テレフード・チャリティーコンサートを開くほか、23日に京都で「飢えと貧困からの解放」と題したシンポジウムを開催、11月9日から三日間、東京で開かれる農林水産祭で展示と募金活動などを予定している。また、全国の郵便局約25,000局に、ポスターと募金用振込用紙が用意される。
テレフードは、マスメディアを通じたキャンペーンの充実を目指しており、今年も新聞紙上以外に、NHKなどでシンポジウムの模様などを放映する予定。なお、女優ソフィア・ローレンさんやテニス選手のマイケル・チャンさんらも、テレビなどを通じてキャンペーンに協力している。
テレフード・キャンペーンに寄せて 「貧困との闘い、募金に協力を」 ジャック・ディウフ FAO事務局長 海年、FAOの主導で行われるテレフード及び世界食糧デーのキャンペーンは、世界的な規模で展開されます。世界食糧サミットの開催から五年に当たる2001年のキャンペーンは、「飢えと貧困からの解放」(Fight
Hunger to Reduce Poverty)がテーマで、飢餓との闘いに向けて人々の意識を喚起することとしました。 |