毎日新聞−2001年(平成13年)06月18日(月)
大阪教育大付属池田小(大阪府池田市)での乱入殺傷事件で、宅間守容疑者(37)が府警捜査本部の調べに「事件直前にいろいろなことが一気に重なってパニックになっていた」と供述していることが17日、分かった。宅間容疑者が「人生が狂った」と供述している99年3月の薬物混入事件以降、離婚と裁判▽就職の失敗▽滞納家賃の督促▽過去の事件の取り調べ―などがあり、その対応が事件前に集中していた。捜査本部は、こうしたストレスから事件に及んだ「複合動機」による犯行との見方を強めている。
宅間容疑者は薬物混入事件で逮捕され、妻との離婚に発展した。捜査本部は動機に結び付くとみて、この事件以降の2年間の足取りを集中捜査していた。
その結果、宅間容疑者はこの間、傷害や器物損壊事件などを起こし、その度に転職したものの、いずれも長続きせず、今年2月からは失業状態だった。収入は月額12万円の傷害年金のみだったが、今月5日と7日には滞納家賃と車の代金を相次いで催促されていた。さらに5月末ごろには、かつての勤務先での再就職を試みたが失敗するなど、経済的に不安定だった。
また、別の元妻への離婚無効確認訴訟や、離婚の原因を作ったとして提訴した女性への損害賠償請求訴訟などを起こしていたが、うまくいっていなかった。事件前日に離婚無効確認訴訟の相手方弁護士に電話をかけて現状の打開を試みようとしていたとみられるが、先方が不在で接触できずに終わった。
一方、5月28日には器物損壊事件の取り調べのために兵庫県伊丹市伊丹区検に出頭、精神保健福祉手帳を提示して起訴回避を働き掛けたもののうまくいかなかった。さらに、事件当日の6月8日は午後に別の傷害事件の調べで大阪地検への出頭を要請されていた。
宅間容疑者が供述した「いろいろなこと」とは、事件前に集中した効した一連のトラブルなどへの対応を指しているとみられ、捜査本部は「パニック」を招いた原因と断定。対応に限界を感じた宅間容疑者が、かつて受験を断念した大阪教育大付属池田中の系列の同小を逆恨みして襲撃したとみている。
宅間容疑者が偽造した医師免許状を、医師限定(男性側)のお見合いパーティーで身分証明用に使っていたことが16日、府警池田署捜査本部の調べで分かった。これまで4人の女性と結婚、離婚を繰り返した宅間容疑者は新たなパートナーを深そうとしたが、見つからず失望していたという。
調べでは、偽造されていたのは医師免許状と保険医登録証。宅間容疑者の本籍、住所、氏名、生年月日が印刷されていたが、枠線に徹妙なズレがあり、宅間容疑者が自宅のパソコンで作ったと供述した。
宅間容疑者は26歳で初婚後、27歳、33歳、35歳と計4回結婚。3回目の女性に対しては「離婚無効確認訴訟」を提訴して
いた。
大阪府内の精神障害者でつくる大阪精神障害者連絡会(塚本正治代表、約300人)は16日、学校乱入殺傷事件を受けて声明を発表。容疑者の精神科通院歴や措置入院歴が報道されたことで、精神障害者への偏見と差別意識が広がったとして「日々いわれのない苦しみを負わされ、精神的に大きな負担になっている」と訴えている。
京都市立日野小で99年、小2の長男を殺害された中村聖志さん(36)=京都市伏見区=ら、犯罪で家族を殺傷された「犯罪被害者の会」(事務局・東京)の4人が17日、大阪教育大付属池田小の乱入殺傷事件で亡くなった児童3人の家を訪れ、同小の正門前に花を手向けた。中村さんは献花、焼香した後、「息子を亡くして、二度とこんな事件を起こすまいと学校の安全の問題に取り組んできた。しかし、教訓にできなかった。それを子供たちに謝った」と無念の思いを語った。遺族には「力になれることがあれば言ってほしい」と声をかけたという。
ほかに訪れたのは、同会代表幹事で、代理人をしていた山一証券を逆恨みした男に妻を殺された弁護士の岡村勲さん(72)▽神戸・小学生連続殺傷事件で二男(当時11歳)を失った土師守さん(45)▽95年に男に腰を刺された妻が今も寝たきりになっている大阪市の林良平さん。
中村さんは「私自身、息子を突然亡くして生きがいを失い、自暴自棄になった。ただ、被害者同士、気持ちを伝え合う中で、息子の氏を無駄にせず将来に生かそうと前を向けた。今、息子の父親として誇りを持って何ができるかを考え続けている』と話した。 【野上哲】