毎日新聞−2001年(平成13年)06月12日(火)
家庭・らぶらぶノート |
アメリカの娘宅へ行っていたため、当欄へのお手紙が2カ月分たまって、そのほとんどが熱年女性からの重い内容なので、どうすべきか思いあぐねている。
夫の不実を嘆き、セックスレスの寂しさを訴え「どうしたらいいか教えてください」と言われたって、私は教えられません。あなたの人生はあなたのもの。何度も言うけど、自分で決める。自分を生きる。
私は考える材料をできるだけ提供するだけ。昨年7月からの当欄を読み返していただくと、ヒントになることがあると思う。
誰もが重い問題を背負って生きているのが現実だからこそ、当欄で、らぶらぶに楽しく生きる老いの条件やモデルを書きたいと思った。が、新聞だから、いろいろな人が読んでいると思い、すごく遠慮しておとなしめに書いている。
『ケアデザイン』という介護雑誌の「よろず相談」では、悪かったらやめてやるわい、甘ったれんじゃないよ、とキビしくスケズケ言っているのに、一番人気のあるページだって言われて、やめるにやめられなくなった次第。
75歳の男性が前回の「エロスの効用」に対して、「不倫はよくないと言われながら(そんなこと言ってない。誉められた行為ではないが、と遠慮しているんだ)、結局は何度読んでも客観的にならまだしも、のうのうと自身の不倫を礼賛しているように思えてしかたがない。それに週刊誌やある種の雑誌でもあるまいに、一流新聞の毎日でもこんな文を載せて見損なった」には、出たッ!って感じ。 一流新聞の毎日で紹介してくれた映画『老親』を観た男性のなかにも、「離婚を奨励しているのか」という感想文があった。まあ、どう観ても読んでも、お客様の自由だけどネ。決定権は安け手にあるんだから。
でも、同じ映画を年輩のご夫婦で観たかたがたは「映画を通して夫婦のありかたを初めて話しあいました」「共通の話題がはじめてできました」「共働きで忙しく、ただ同居していただけ。共に生きてこなかった。これからは共に生きていこうと思います」と。
中年女性は「映画を観る前は離婚を決意していたけど、夫に一度きちんと言ってみて、それから考えることにしました」と。
83歳で家事を覚えた元舅(シュウト)が、離婚した元嫁とアヤシイ関係になる映画であります。
槙坪夛鶴子(マキツボ タヅコ)監督が舞台挨拶でいわく「この映画は男性への応援歌です。もう遅いと思っていらっしゃるかたに言います。いまなら間に合う、と」。
幸せになるためには、幸せになろうという意志が必要だと思う。当欄に「ちょっと勇気を出した74歳」を書いたとき、「ちょっと勇気を出して踏み出せばいいんですね」という反響が2通あった。嘆いていては踏み出せない。夫婦で踏み出すのもすばらしいが、ひとりで踏み出すのはもっとすごい。誰のためでもない。1回こっきりのあなたの人生なんだから。