毎日新聞−2001年(平成13年)06月12日(火)

社説

惨事を防ぐ手立ては何か

 「私たちの社会は、これほどの惨事を防ぐ手立てを持っていないということなのか」
 大阪府池田市の小学校で起きた殺傷事件で、多くの国民は、そう考えたであろう。衝撃の大きさは事件の惨状とともに、こうした思いも加わっていよう。
 法律は「手立て」を用意している。しかし、事件は「用意してても、大きな不備を抱えている」という現実を突きつけた。地域の連帯意識が希薄になるなどの社会の変化が大きな要因だろう。
 小泉純一郎首相は、法改正に取り組む考えを明らかにしている。論議を進めるために、「手立て」のどこに問題があり、何が欠けているのか見極める必要がある。
 まず、今回事件の容疑者は2年前に傷害事件で逮捕されたが、刑事責任能力が問えないとして起訴されず、精神科に措置入院していることが気になる。刑法39条の「心神喪失者の刑事責任を問わない」との規定による。措置入院は精神保健福祉法の制度である。
 精神障害や疑いがある容疑者らが不起訴などになった場合は、検察官が都道府県知事に連絡。2人以上の精神保健指定医が「自傷他害の危険があり、入院の必要がある」と診断した時、知事は措置入院を決める。
 厚生労働省によると、全国の措置入院患者は3000人を超えているが、事件に関係しての措置は少数。入院の解除は主治医の判断によるものが一般的で、これを受けて知事が決定する。解除後の治療には法附な強制力は伴わない。
 これらが、措置入院した容疑者らが事件を再び起こすことを防ぐための法的な基盤である。しかし、このシステムは今回の事件によって社会的な信頼が大きく失われた。事件再発の防止機能について、疑問の声が出てくるのは不思議なことではない。社会の変化に合わせての再構築が求められている。
 まず、解除を厳しくし、アフターケアも制度化すべきであるとの指摘がある。イギリスなどの制度を参考に、重大な事件を犯した精神障害者の入院解除は裁判所が決めるという意見も出ている。退院後の通院も義務づけるという。
 もちろん反論もある。「裁判所が医師以上に適正な判断をできるのか」という疑問だ。厳しい制度は、精神障害者に対する社会の偏見を助長させる危険性が済んでいると恐れる声も聞こえる。
 この問題は、一方で事件の再発を防止するにはどうしたらいいかという視点が求められている。もう一方では、精神障害者の社会復帰を目指す医療の役割と人権保護の視点を抜きには語れない。
 1974年と81年に、刑法改正によるいわゆる「保安処分」の問題が浮上した時、後者の視点が抜け落ちているとの批判を受け、立ち消えになっている。
 法務省と厚生労働省は、すでに1月から、これらの問題で合同の検討会を始めた。論議は国会、政党、医学学会、弁護士会などに広がるだろう。困難ではあるが、二つの視点の接点を見つけ出す論議を期待したい。
て涙で読めなかった。 これから、被害者や関係者に対する十分なケアによる立ち直りと、類似事件の防止策を強く望む。

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