毎日新聞−2001年(平成13年)05月19日(土)
クローズアップ2001 |
名前も顔も知らないまま、男女がインターネットのラインでつながる出会い系サイト。京都では、「メル友に会いに行く」と言い残して失踪した女子大生と女性会社員が相次いで殺害された。同サイトから無差別に送られてくる「迷惑メール」のトラブルも急増している。危険が潜みながらも人気が高まる一方の出会い系サイトの現状と問題点を探ってみた。 【尾崎敦、磯崎由美、佐藤岳幸】 |
出会い系サイトはインターネットの普及とともに4、5年前から目立ち始めた。ネット事情に詳しいルポライターの夏原武さん(41)によると、その数は現在、数千に上るとみられ、月に100以上のサイトが新設されているという。運営者のほとんどは個人またはベンチャー企業だ。夏原さんは「開設の手間がかからず、投資額が少ない割には市場は大きい。中には月商1億円を超えるサイトもある」と話す。
ほとんどのサイトは会員制で、名前やメールアドレスなどをサイトの運営者に登録して会員となる。会員には専用のIDとパスワードが割り当てられ、それを使って他の会員の年齢や容姿、学歴などが記されたプロフィルを見ることができる。気に入った人がいればメールを出し、相手が返事をくれれば出会いが生まれる。
料金無料のサイトもあれば、交際が成立した持点や期間を区切って料金を徴収するサイトもある。有料サイトでは紹介者1人、利用期間1カ月当たりでともに1000〜2000円が相場という。サイトの規模は会員数約1000〜数十万人までとさまざま。大半は男女交際の仲介だ。
数年前に出会い系サイトを開設し、この分野の草分け的な存在の男性会社員(28)は「初めは自分が面白いサイトを作っただけのつもりだったが、今は完全に趣味の域を越えてしまった」と話す。会員数は20万人を超えた。利用料を取っていないため、月約100万円に上るという運営費はサイト内の広告でまかなっている。
男性は「サイトが全て悪いと言われることは心外だ。運営する側と利用者が使い方をわきまえれば防げる問題だ」と語った。
出会い系サイトの普及に伴って派生したトラブルに、サイトの広告が携帯電話に勝手に送られてくる迷惑メールがある。携帯電話会社最大手のNTTドコモには、迷惑メールヘの苦情・相談が1日150〜200件も寄せられている。
同社のメールアドレスの初期設定は電話番号が基になっており、類推しやすい。このため「サイトの運営者や運営者から依頼を受けた専門業者が、推測したアドレスに送信しているようだ」(同社広報部)という。
京都で起きた「メル友」による女子大生殺害事件。逮捕された土木作業員の男と被害者をつないだのは携帯電話の出会い系サイトだった。男は昨年9月にこのサイトに入会し、暇があるとメールの送受信に熱中していたという。京都府警の調べでは、男は今月8日に京都府内で絞殺体で見つかった女性会社員(28)ともメールをやり取りしていたことから、連続殺人に発展する可能性もある。
出会い系サイトは、殺人以外にも売買春や強盗、恐喝などのさまざまな犯罪を生むきっかけとなっている。警察庁はテレクラが児童買春の温床になっているとして、18歳末満のテレクラ利用禁止を盛り込んだ風営法改正案を今国会に提出。改正案が成立すると、未成年者がテレクラから出会い系サイトに流れることも予想されるという。
「文字によるメッセージのやりとりは表現の自由の問題もあり、現状での法規制は難しい」(同庁)が、規制の可能性を探る動きも出始めた。同庁は18日、インターネット上の性や暴力などの有害情報が未成年者に与える影響を調査する研究会を発足。今後、有識者やインターネット接続業者も交えて法規制が可能かどうか検討するという。
「事件は氷山の一角」 フリーライター ロブ大月さん 「リストカット・シンドローム」などの著書があるフリーライターのロブ大月さんは、京都での女子大生殺害事件を氷山の一角とみる。大月さんのホームページには、若者からのアクセスが連日約200件あるが、最近は「メールで出会い、いい人だと思って会ったら、乱暴された」という女性の訴えも少なくないという。 大月さんは、出会い系サイトがはやる背景に、現代人のコミュニケーション力の問題があると指摘。「『出会い』というと、普通は何かのきっかけがあり、何度か会っているうちに気が合う者同士がつながっていく。最近はそのプロセスを飛ばしたいという感覚がある」と分析する。また、現実の世界では周囲に過剰に適応してしまい、友達の前でも「自分」を見せられない若者も増えている。「そんな女性たちの中には、『サイトの中には自分の身の回りにはいないような人が待っている』という過剰な期待がある」と言う。 「残念だが、男性の中には自分のイメージを偽り、女性の過剰な期待を悪用する人がいる。被害を防ぐには、自衛しかないのが現状」。大月さんはこう話している。 |