毎日新聞−2001年(平成13年)05月18日(金)

心の故郷 子守唄再発見
「親・子・絆」
 6月2日にフォーラム東京

 「ねんねこヨーヨ」(北海道)、「ねんねこやおんぼこや」(宮城県)、「ねんねこ子守りは」(群馬県)、「江戸の子守唄」(東京都)、「ええ子だよ」(愛知県)、「この子よい子じゃ」(兵庫県)、「寝た子かわいや」(鳥取県)、「ようかいようかい」(鹿児島県)。「子守唄」は、全国各地に2000曲以上あり、旋律も美しく母親の愛情が伝わってくる曲が多い。子供への虐待、家庭内暴力など悲惨な事件が相次ぎ家族の「絆」が希薄となったといわれる中で、今、「子守唄」が見直されている。親から子に歌い継がれてきた「子守唄」が果たした役割をみんなで考えてみようという日本子守唄フォーラム「ハート ストリングス〜あの日、あの時、母のぬくもり」が6月2日、東京都世田谷区太子堂の昭和女子大学人見記念講堂で開かれる。各地の「子守唄」をみんなで歌いながら「親子」や「家族」について話し合っていく。                                  【鈴木義典】

 「ねんねんころりよ おころりよ 坊やよい子だ ねんねしな」(江戸の子守唄)、「沖に見えるは いか採り舟か さぞや寒かろよ 冷たかろ ヨーイヨイ」(神奈川・いか採り舟の唄)、「ねんねなされませ きょうは二十五日 あすはおまえの誕生日(タイジョニチ) 誕生日 誕生日には赤い飯(ママ)たいて」(京の子守唄)、「坊や よい子じゃ ねんねしな この子が十五に なったなら お屋敷ひろげて 蔵たてて」(香川・坊やはよい子じゃ)……。
長い間、歌い継がれてきた「子守唄」は、心を打つ。情景が浮かび、心の故郷でもある。
 「お傑」、「夏子の冒険」、「糸女」など女性の活躍を描き話題となった娯楽演劇のプロデューサーでエッセイスト、西舘代志子さんは、昨年5月、日本子守唄協会を創設した。
 母と子の中から生まれる貴重な伝承文化である「子守唄」を今、よみがえらせたいという強い思いがあった。
 そのきっかけは、幼い娘を道連れに心中しようとした母親が森の中をさまよっているうちに死ぬのが恐ろしくなり娘を置き去りにして逃げ帰り、娘は数日後に死体で発見されるという事件だった。
 「幼い子が母の名を叫びながらどんな思いで森を走り回ったことでしょうか。真っ暗な夜をどう過ごしたのでしょうか。本当にかわいそうで涙が止まりませんでした。母親にどれぼどの理由があろうとも許すことができません」。西舘さんは言う。
 その後も子供に対する虐待事件が続発、「このような悲劇をなくすために何かをしなければ」と「子守唄」を歌う運動を提唱していこうと立ち上がった。
 「子守唄の重要性を特に知っていただきたいのはこれからお父さんやお母さんになる若い人たちです。子守唄を理解すると子供に対する親の接し方もよく分かってくるはずです。人間は3歳までに人格が形成されるといわれます。子守唄を歌いながら話し合いましょう」と呼びかけている。

人はみな赤ちゃんだった

 「あの日あの時、母のぬくもり」とのタイトルで開かれる子守唄フォーラムは、3部構成となっており、女優の小林千登勢さんが総合司会を務める。
 第1部は、「人はみんな赤ちゃんだった」をテーマにしたコンサートで女優で幼稚園園長、坂本スミ子さん、歌手のすがわらやすのりさんと川口京子さん、ギタリストで「子守唄」研究者、子守唄協会理事も務める原荘介さんらが出演し、各地の郷土色豊かに子守唄を歌い上げる。
 第2部は、「子守唄? されど子守唄!」をテーマにしたシンポジウム。日本子守唄協会代表の西舘さん、坂本さん、女優の山本麻利央さんらが参加、「なぜ、今、子守唄なのか」について討論する。
 第3郡は、「あなただけの子守唄。21世紀の子守唄を作りましょう」をテーマに出演者が一番大切にしている「子守唄」を披露、また、会場の人たちと一緒にさまざまな「子守唄」を合唱する。
 最後に子守唄協会代表の西舘さんが「21世紀の子守唄宣言」を提言する予定だ。

日本子守唄協会 「現代の情操教育を模索」
 <設立趣旨>
 「生まれて初めて聞く歌」、「抱擁の歌」、「親と子が互いに絆を確かめ合う歌」といわれる子守唄を通して現代の心の文化情操教育のあるべき形、教育の在り方、親子の在り方を見つめ
直し、未来の親子関係、人間関係を模索していくことを目的とする。
 <活動内容>
@子守唄を全国調査し歌詞や楽曲の活字化や録音を進める。文化遺産を後世に残すための作業を行い、子守唄文化の継承を目指す A子守唄を民俗学や音楽史などの学術的な立場からも研究、国民全体の共有財産として活用するために活動の拠点となる「子守唄館」を建設する
B伝統的な子守唄の普及振興推進のためのイベントや21世妃の親や子のための新たな子守唄の創作なども行う。

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