読売新聞−2001年(平成13年)05月15日(火)
大学病院の研修医の8割以上がアルバイト先の民間病院で単独診療を行い、その9割が不安を感じていることが、研修医らを対象にした全日本医学生自治会連合(医学連)の全国調査で分かった。未熟な研修医がサポートもなしに医療の最前線を担う、危うい実態が浮き彫りになった。2004年度から研修の義務化に踏み切る厚生労働省はこの調査結果も参考にしたうえで、今月中にも開かれる医道審議会で研修制度のあり方やアルバイトの是非など総合的な検討を始める。 |
医師免許を取得した新米医師は、医師法により、大学病院や指定された民間病院などでの2年以上の臨床研修を行うことが「努力目標」とされてきた。
調査は今春、全国79大学の付属病院の研修医と指導医を対象に行われ、25病院(国立20、私立5)の研修医250人と指導医400人が回答した。
未熟な研修医が民間病院で当直などのアルバイトに就き、単独診療することは「先輩医師のサポートがなく、事故につながる」「アルバイトより研修に専念すべきだ」などと、以前から批判の声が強かった。
しかし、調査の結果、研修医のうちアルバイトが禁止されているのは2%以下で、ほとんどはアルバイトの経験があり、アルバイト先では、国立の88%、私立の68%、合わせると八割以上の研修医が、指導医などが付かない単独診療を経験していることがわかった。さらに研修先の大学病院でも、国立の71%、私立の60%が単独診療を行っていると回答。こうした単独診療の経験者の九割以上が「不安」を訴え、「一年目からの単独診療はあまりにも危険」といった声も寄せられている。
研修のプログラムは、四割が「ない」と回答。研修の到達度評価のシステムも国立、私立ともに七割が「ない」とし、研修制度の不備が指摘された。
研修への不満では、「休養のなさ」がトップ、次いで「身分が不安定」「生活保障がない」などが続く。
一方、研修医を教える立場の指導医も、八割以上が研修医の単独診療に不安を感じているものの、実際に指導・教育する時間は、七割以上が、労働時間の「三割未満」と答え、研修の不十分な実態が分かった。
大学病院にとって、″見習い″の研修医は安価な労働力として病院経営に不可欠な存在となっている。
その反面、研修制度はお粗末で、先進諸国の中でも遅れているとされてきた。厚生省(現厚生労働省)は昨年11月、医師法を改正。「努力目標」だった臨床研修を2004年度から義務化することを決め、新たに研修内容や指導体制、研修の評価方法などについて検討する。