読売新聞−2001年(平成13年)05月14日(月)

リビング歳時記

半天然アユ
養殖だが天然ものに近い風味  値段も手ごろに

自然環境再現し育成

 アユ漁解禁を前に、スーパーなどの店頭には「半天然」などと名付けられたアユが並んでいる。えさなどを工夫し、「香魚」と呼ばれる天然アユの風味に近づけた養殖アユで、以前は主に業務用だったのが、不況の影響で家庭向けの出荷が増え、値段が安くなった。ただし養殖とはいえ、味わえるのはこの時期から。初夏到来を告げる旬の味に変わりはないようだ。

 大型連休明けの築地市場(東京・中央区)。つややかですらりとした姿、黄色い斑紋が鮮やかなアユが箱の中に整然と並べられ、次々と業者が買い取っていく。
 もっとも、アユ漁の解禁は主に来月から。並んでいるアユはすべて、和歌山などから出荷された養殖ものだ。箱の多くに「半天然アユ」「養殖天然アユ」などと書かれている。
 「香りや色を天然のアユに近付けようと養殖業者がいろいろ工夫して育てたアユです」と、築地の卸会社「大都魚類」の内藤孝之さん。
 アユは夏の時期、流れの速い中を泳ぎ、川底の石に付いた石アカ、けい藻などの藻類を食べる。これが、「香魚」とも呼ばれるゆえんである、独特のさわやかな香りのもととなる。
 こうした環境を一部再現してできるのが「半天然」。植物性のえさを与えたり、養殖池に、清流と同じ速度の水流を起こしたり−。 その結果、養殖にはなかった香りが付いてくるという。内藤さんは「天然ものにはかなわないが、味も香りも随分いい」と評価する。十年ほど前、「半天然」が出回り始めたころのものに比べると、今は身もしまり、脂が多すぎることもなくなったそうだ。
 天然アユはほとんど地元で消費され、都市部では高級料亭などでしかお目にかかれない。築地市場にも来月には天然アユが入荷するが、全体の一割にも満たない。
 「天然ものは養殖の五倍はするし、数も入ってこない。とても家庭で気軽とはいかないですね」と内藤さん。食卓でアユを楽しむには、養殖に頼るしかなさそうだ。
 一年しか生きられないアユは、「年魚」という別名もある。「春生じ、夏長じ、秋衰え、冬死す。故に年魚と名づく」(十世紀の漢和辞書「倭名抄(ワミョウショウ)」)は、養殖アユでも変わらない。市場に鮮魚として出回るのは四−九月ごろで、ピークは六、七月となり、やはり旬は夏なのだ。
 全国鮎養殖漁業組合連合会(徳島市)によると、長引く不況でホテルや料理店などの業務用がめっきり減り、「その分、量販店に出回り、一股消費者に届きやすくなってきた」という。価格も下がり、イトーヨーカドーは昨年の一匹二百五十円から、今年は同二百円に値下げした。
 塩焼きはもちろん、素焼きにしたアユを炊き込んだご飯や甘露煮−。「この時期、体の背に近いところの色が、黒ずんでいない方がおいしい」(大都魚類)そうだ。

天然アユの味 「清流度」の指針
 全国の天然アユ漁獲量は1万1000トン余り。おいしいアユがいることは、その川の環境のよさや自然の豊かさのあかしでもある。アユの味から川の「清流度」を比べようと、高知県友釣連盟は毎年9月に「利き鮎会」を開催している。昨年は県内外の34河川のアユを集め、「姿、香り、わた、身、総合」について審査した。グランプリは安田川(高知)、準グランプリは神通川(富山)、天竜川(静岡)、吉野川(高知)、仁淀川(同)、四万十川(同)だった。

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