読売新聞−2001年(平成13年)04月16日(月)

裁く 第2部 真実の迷路F
遅すぎた春…「1年を返せ」
家裁、高裁で審理5回 やっと「不処分」  拘束183日 4少年、志望校も受験できず

 この春、4人の少年はそれぞれ鹿児島県立高校に入学した。しかしそれは「遅すぎる春」だった。 
 中学卒業を目前にした昨年2月、一斉に逮捕された。その1年前、知的障害のある女子生徒にわいせつ行為をしたという準強制わいせつ容疑。少年審判に付され、エレベーターのように家裁と高裁を行き来し、計5回の審理を受けた。最後は刑事裁判の「無罪」に相当する不処分になったが、183日間、少年鑑別所と少年院で身柄拘束され、県立高校受験はできなかった。
 「この一年を返してほしい」。7日、父と入学式に臨んだ1人はつぶやいた。

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 異例の裁判だった。4人は犯行を否認。物証はなく、犯行日時も特定されていなかった。最初の審理を担当した鹿児島家裁の裁判官、吉田京子(48)は、昨年3月に下した決定で「客観的証明力に欠ける部分があることは否定できない」としながらも、「記録を検討し、少年の供述態度等を吟味した結果」、少年院送致の結論を出した。
 少年らは上訴(抗告)。福岡高裁宮崎支部の裁判長、若杉立身(63)(現弁護士)は5月、少年らを出頭させずに審判を開いた日があることを指摘し、「一審の手続きは違法」と差し戻す。
 6月、家裁の別の裁判官が改めて少年院送致を決定。だが、2回目の抗告審で、若杉は8月、「供述は変遷しており、独自に信用性が肯定されるものは皆無」と、今度は重大な事実誤認を理由に差し戻し、4人は釈放された。
 9月に「不処分」を言い渡したのは、家裁で3人目の裁判官だった。

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 少年審判では、一般の刑事裁判と異なり、裁判官が審判開始前に捜査記録に目を通す。しかも吉田は、4人の逮補後の拘置、観護措置決定などの手続きにもかかわった。
 「予断を持った裁判官の審判関与は問題だ」。少年の付添人を務めた弁護士、向和典(50)の批判に、吉田は「全くの誤解。審判に予断排除の原則の適用はない。不当な予断を抱いていいわけはないが、一般的にも、逮捕状や拘置決定を出したから、その人物は有罪と思い込む裁判官はいない」と反論する。
 向がもう一つ問題視するのは、少年法が、抗告審が「不処分」と自ら判断することを認めず、家裁に差し戻すよう規定している点だ。これについて、若杉は「調査官が配置されている家裁は、少年の保護処分のプロ」と、高裁との役割の違いを強調する。そして、最初の差し戻し決定について、「家裁が(少年を出席させないなど)手続きを破ったら、審判はなかったことになる。だから(二度日の決定のようには)中身に踏み込めなかった」と説明した。

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 今月から改正少年法が施行され、事実を激しく争う事件の審判に3人の裁判官がかかわる「裁定合議制」の導入や、重大事件での検察官立ち会いも可能になった。
 裁判にほんろうされた4人の少年。「あの事件は、今なら合議で審理される事例だろう」と語る吉田は、こう付け加えた。
 「少年たちが重荷を背負っていくことに、私も重荷を感じながら仕事をしていきたい」     (敬称略)

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