読売新聞−2001年(平成13年)04月16日(月)
もう2年前のことだが、新学期が始まって間もないある日の夜8時過ぎ、2年生の担任から自宅に電話があった。クラスの男の子の保護者から「うちの子がまだ帰らない」と連絡してきたというのだ。物騒な世相が頭をよぎった。教職員にできるだけ学校に集まってもらうことにして、私も学校に向かった。
教頭と担任はその子の自宅へ。同じクラスの子どもたちに電話をかける先生と、2人ずつで学区内の子どもの集まりそうなところを見回る先生に分かれ、30分に1回、学校へ連絡を入れてもらうことにした。
男の子の自宅に着いた教頭からは「お母さんから『うちは厳しくしつけているのに、こんなことになるなんて。学校で何かあったのでは……』と責められた」と電話があった。ほかの電話に向かっていた先生から「午後6時まで一緒に遊んでいた子がいました」。外にいた先生からも「駅の方に向かっている姿を見かけたというお母さんがいます」と次々に報告が入った。
しかし、本人が見つからないまま午後9時を回り、父親に警察への捜索願を出してもらったところ、しばらくして男の子はあるターミナル駅で無事保護された。改札口で不審に思った駅員に声をかけられたという。「よかった」。職員室は歓声に包まれた。
翌日、本人に話を聞くと、「うちは6時までに帰らないと外に1持間締め出されちゃうんだ。だから電車でおばあちゃんの家に行こうと……」としょんぼり。前に何度も締め出されたらしい。校長室にやって来た母親は「今は親も学校も子どもに甘い。ダメなものはダメ。今回も厳しくしかりつけました」と、持論をまくしたてるので驚いた。
親が子育てに信念を持つのはもちろん結構なことだ。でも、子どもの様子を見て緩急自在に対応するのが大人ではないだろうか。それができない親が多過ぎる気がする。子どもには大変な時代だと思う。 (和)