読売新聞−2001年(平成13年)04月16日(月)
新学期の陽春に背いて、やりきれない悲劇が起きた。小学校六年生の男児の手にした刃と、その母親の無残な死。礼儀正しいと、近所の人々が口をそろえる少年の心に何が起きたのか◆今は推測を避けたい。ただ、以下は一般論として、最近読んだ本の分析を思う。「自己主張」と「自己抑制」の発達に焦点を置いて、子どもの行動を教育学者佐藤淑子さんが調べている=中公新書「イギリスのいい子 日本のいい子」◆日英の幼児を比較して、例えば、砂場遊びで使っていたシャベルを他の子どもに取り上げられたようなとき、「いやだ」と言えるか。やっと作った粘土細工を壊されたとき、自分の感情を抑制できるか◆こうした調査の結果、日本の子どもは「主張」の度合いが低く、「抑制」が発達している。これに対し、イギリスの子どもは「主張」「抑制」ともに発達しているのが特徴だという◆社会の有り様を映して、どちらがいいという問題ではない。しかし協調性、礼儀正しさ、我慢強さなどの「抑制」を強調するあまり、子どもの対人行動に破綻が生じる恐れを佐藤さんは記している◆それが抑圧となって続いたとき、いわゆる「キレる」現象も起きるのではないか、と。教育やしっけの現状を様々に考えながら、無論、悲惨な事件の背景は今後の調べを待つ外にない。