読売新聞−2001年(平成13年)04月16日(月)

月曜寸言

 新入生と新社会人へのメッセージ
「問題解決への"実学"習得」 宮城大学名誉教授  野田 一夫

 花の4月。日本では、大学で新入生が、会社で新入社員がとくに目立つ季節である。大学教員として40年以上も毎年卒業生を送りだし、新入生を迎え入れてきた私は、彼らにいつもほぼ同じメッセージを贈りつづけてきた気がする。
 新入生に対しては、「あえて、入学おめでとうとは言わない。なぜなら、どんなに難関を突破したとしても、入学は人生の目的ではありえず、一つの過程でしかない。それに、これから経験してみなければ、大学が諸君の期待を満たしてくれるかどうかも分からないからだ……」と述べた後、こう付け加える。
 「授業が始まった後に期待が裏切られたと知ったなら、決して愚痴や不平を言うな。空しい学歴などいらないぞ、と退学して堂々と大学を去るのもよい。その決断がつかないなら、仲間を組織し知恵を働かせて"問題解決"、つまり大学の現状改革の行動を起こせ」と。
 他方、卒業生へのメッセージはまずこうだ。「今まで学費を納めて授業を受けてきた君たちには、さぼろうと教師に反抗しようと自由があった。だが会社員になってからは、ささやかな月給をもらう代わりに、週日の昼間は仕事で時間と場所を常に拘束されることになる。それが、諸君の選んだ職業なのだ」と。
 そして付け加える。「嫌になったら、辞める自由があるが、辞めないで愚痴とか不平だけは言うな。そして考えてみろ。今、自分が辞表を出したら、上司や同僚が真剣に引きとめてくれるだろうかと。自信がないなら黙々と働きつづけろ。自信があるなら仲間を組繊し知恵を働かせて"問題解決"、つまり会社の現状改革の運動を起こせ」と。
 以上二つのメッセージは、文章にするとかなり激烈に感じられるのだが、入学式や卒業式の際に私独特の語調と表現で伝えるから、学生たちの記憶にはよほど残るらしく、卒業後何十年も経った教え子たちと同窓会で会った時なんかにも話題にされて、当方がよく恐縮する。
 日本の大学では昔から、実学の精神が希薄な代わりに、空虚な抽象論が幅を利かせてきた。だから、まじめな学生ほど、問題解決能力もないくせに妙な理屈や批判にだけ長ずる人物に育ちがちだ。
 これからの日本には、高度な専門知識・技術や優れた抽象的思考能力をもった人材も必要だが、彼らの才能と努力を複雑な問題の具体的解決のために有効に組織化できるような人材。つまり"高度な実学"を身につけた人材がもっと多く大学から巣立っていく必要がある

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