毎日新聞−2000年(平成12年)12月10日(日)
環境 |
水は地球上に生命を誕生させた。そして、地球は「水の惑星」と呼ばれる。その水が危機にひんしている。急激な人口増加や産業の発展は水不足や水質汚染を引き起こした。さらに石油の大量消費による地球温暖化が世界の気象バランスを崩し、各地で大規模な干ばつと洪水被害をもたらしている。今世紀後半から顕在化したこれらの問題は、21世紀に人類が取り組まなければならない最大のテーマの一つだ。新世紀を前に「水」の現状をみた。 |
【高野聡、吉川学】
「現在の人類は100年前に比ベ6倍の水を使っており、2025年には世界人口の半分(約40億人)が水不足に苦しむ」。今年3月22日の「世界水の日」にオランダ・ハーグで開かれた第2回世界水フォーラムは、21世紀の水不足への警告「水ビジョン」を発表した。同フォーラムは、国際的な水不足対策を考えるために1996年に発足した世界水会議(WWC)が主催し、世界各地の政府関係者、研究者、NGO(非政府組織)が集まった。
地球には14億立方`bの水が存在するが、その97%は利用に適さない海水だ。残る3%のうちの7割は氷河や地下水で、人間の飲料用や農業用に利用可能な淡水はわずか0.3%しかない。現状でも中国、インド、中央アジア、中東など31カ国が水不足に悩んでいるが、今後、水不足はさらに進み、2025年には48カ国に増えるとWWCは予測している。
水不足の原因である人口増加は、今後も当分続きそうだ。世界の人口は今世紀初頭に約16億人だったが、今年には約81億人に。WWCが設置した「21世紀のための水ビジョン委員会」メンバーの高橋一生・国際開発研究センター所長は「アフリカ諸国の都市人口の増加率は年5%で、90年に1億4000万人だったが2020年には5億人になると見積もられる」と話す。
水不足は食糧不足にもつながる。高橋さんは「米・麦の栽培には水が必要だ。食糧が米・麦中心、さらに肉食へと進めば、飼料をつくるためにさらに水が必要なる」と指摘する。
温帯に位置する日本は、水には恵まれているが、多くの穀物を輪入に頼っており、世界の水不足に無関心ではいられない。
大豆、小麦、大麦、トウモロコシなど日本が輸入した穀物全部を栽培するために必要な水の量は、年約52億立方bに及ぶ。これは日本の人口の4分の1にあたる3000万人分の水道用水供給量に匹敵する。
干ばつと洪水。近年、異常気象による被害のニュースが増えている。その原因として挙げられるのは、都市化による土地利用の急激な変化や、降った雨水をためておく保水力を持つ森林の伐採だ。
だが、これらに加え、地球温暖化の影響も無視できない。気候変動に関する政府聞パネル(IPCC)2次報告書によると、温暖化により、雨の多い地域にはさらに雨が降るようになり、乾燥地はさらに降らなくなるという。
中国の黄河下流では水の流れがなくなる現象が起きている。その原因は農業用水の取水量の増加とされるが、温暖化により降水量が減ったこととも関連しているという指摘がある。
迫りくる水の危機に、どう対処したらいいのか。3月の世界水フォーラムでは初めて閣僚会議も開かれ、「21世紀には水の安全保障を考えなければならない」との認識で一致した。
同フォーラムの第3回会合は2003年に日本で開催される。建設省から出向し、第3回世界水フォーラム準備事務局事務次長を務める広木謙三さんは「これまで技術者などの専門家だけで話し合われてきた問題が、政治レベルでの対応が必要であることが確認された」とハーグでの成果を評価した上で、「今後は『各国の水事情がどのようになっているか』という情報、経験の共有が必要となる」と話している。