毎日新聞−2000年(平成12年)12月10日(日)
障害基礎年金210万円余の一括受給を理由にした生活保護の打ち切りは不当だと主張し、地下鉄サリン事件被害者の30歳代の女性(東京都目黒区在住)が目黒区の処分見直しを求めた再審査請求に対し、津島雄二・前厚相は11月30日付で「違法な点はない」と棄却の裁決をした。女性は8日、都内で会見し「何の落ち度もなく事件に巻き込まれ、後遺症で生活再建のめどが立たないのに、国からさらに被害を受けた」と訴え、提訴も検討している。
女性によると、1995年3月の地下鉄サリン事件で被害に遭い、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の後遺症で障害者年金1級の認定を受けた。しかし、区側のミスで支給が遅れ、時期をさかのぼって約210万円の一括支給となった。このため、98年6月から受けていた生活保護は昨年3月に打ち切られ、自立更生費などを控除されたうえで生活保護費約50万円の返還を求められた。
厚生省は担当者が女性に直接説明する異例の配慮をしたが、裁決書は「最低生活を超える資力がある場合は返還させると定めており、年金の一括支給も収入に認定する」と法の原則を強調し、区側のミスも「女性の母の説明による判断」として認めなかった。
女性は障害基礎年金と借金で暮らしており、今回の棄却決定で、改めて生活保護を申請する予定。しかし、オウム真理教被害者への中間配当金約300万円を受け取れば、再び生活保護が打ち切られる恐れがあり、生活保護に詳しい竹下義樹弁護士(京都弁護士会)は「PTSD後遺症患者の生活をよく調べずに出した結論だ。思いやりがあれば、保護の打ち切りはできないはず」と述べ、行政の対応を批判している。
★いっぽのコメント★ 古くは「人間裁判」として名高い『朝日訴訟』から憲法第25条に保障された“生存権”の内容が問われてきた。生活保護は「人間らしい最低限度の生活を保障する」ものである。では、ここで言う「最低限度の生活」とは何処までを言うのだろうか? 本人に何の落ち度も無い中で事件に巻き込まれ、「PTSDによる障害者年金1級の認定を受けた」事実は、どれだけの意味があるのだろうか? 確かに大元の責任はオウム真理教にある。だから、損害賠償請求はオウム真理教にするのが筋だ。しかし、あのオウム真理教はその責任能力を欠いている。と、なると国が補填するのが当然のことであるはず。そのために、今まで働いた賃金の中から“税金”を支払ってきたのだから。市民の安全や健康や安定した生活を保障できないで、何が“国家”だ、何が“福祉”だ、冗談も休み休み言え! この文章の中で、「区側のミスで支給が遅れ……」と「区側のミスも……認めなかった」とあるが、「疑わしきは被告の有利」の原則に当てはめれば、専門家である区側がきちんと確認しなかったことの方が問題が大きいことから、それを理由に生活保護を打ち切り、一部返還を求めることは、弱者苛めの何物でもない。こんなことを許していては、市民の生活の安全を委託している意味がなくなる。 |