読売新聞−2000年(平成12年)10月29日(日)

やさしい介護学
「施設で事故に遭ったら」

原因をただし 保険確認    泣き寝入りやトラブル多発

 特別養義老人ホームなどの介護施設でお年寄りが転んで骨折したりする事故が少なくないことが最近、明らかになってきました。原因をめぐって家族との間でトラブルも起きています。入院費などは保険で払ってもらえる場合もありますので、施設側に確認しましょう。事故防止のため、「入所の際、家族はお年寄りのふだんの様子を施設によく伝えて」と専門家は助言しています。
                                                                   (武中 英夫)

 「母親がリハビリなどのため入所した老人保健施設でベッドから落ちて、足を骨折した。入院費用は施設に請求できるのでしょうか」
 「老人ホームに短期入所した父が胸などにあざをつくって帰ってきた。ホームは『自分で転んだのでは』と言うけど納得できません」

東京・青梅市の特別養護老人ホーム「あゆみえん」では、事故再発防止のため、事故報告のマニュアルを作り原因究明に活用している 全国消費生活相談員協会(東京)が今春、開設した電話相談「介護など高齢者トラブル110番」には、施設での事故についてこんな疑問や不満が寄せられました。国民生活センター(同)がこのほど、特養ホームなど16の介護施設に聞いた結果でも、入所者の死亡やけが、持ち物の破揖などこの3、4年で220件の事故が確認されました。

 車いすから立ち上がる時などの転倒が3割と最も多く、ベッドからの転落や食事をのどに詰まらせる事故も目立ちます。飲み薬を間違えたり、ほかの入所者にけがをさせられたりした事例もあります。

 調査した同センター主任研究員の木間昭子さんは「場合によっては寝たきりになる恐れもあるのに、記録があいまいな施設も多く、事故への対応が不十分」と指摘します。

 万一、事故に遭ったらどうしたらいいのでしょう。介護の法律問題に詳しい東京の弁護士、高村浩さんは「入院費などがかかるなら、まず費用を保険から出してもらえるかどうか聞いてください」と助言します。特養ホームなどの施設は通常、民間の賠償責任保険に入っているからです。

 ところが、同センターの調査では220件の事故のうち保険金が払われたのは12件だけ。「家族が何も言ってこなかった」などが理由で、大半の家族が保険に加入していることも知らされず泣き寝入りした形です。一方、保険金が出たケースでは死亡保険金200万円、入院責全額100万円などの例があります。

 東京社会福祉士会副会長の鈴木幸雄さんは「介護されている立場上、施設側にはものを言いづらい。でも、事故の再発防止のためにも黙っていないで」と話します。感情的にならず、事故の状況や原因をきちんと説明してもらい、お金の面でも納得できるまで話し合って、と助言します。

 それでも不満な場合は、調停を簡易裁判所に申し立てたり、損害賠償請求訴訟を起こしたりすることになります。

 実際、お年寄りが特養ホームで食事をのどに詰まらせて亡くなった事故では裁判も起きています。今年2月、横浜地裁川崎支部はホーム側に慰謝料など約2000万円の支払いを命ずる判決を出しました。利用者が施設を選ぶ介護保険が始まったことで今後、トラブルは増えそうです。

 木間さんに、介護中の事故やトラブルを防ぐため家族が注意すべき点をまとめてもらいました=別表=。「事故は入所して間もないころに超きやすい。施設側もヒヤリとしたケースも記録して、対策を考えてほしい」と、木間さんは話しています。

介護事故やトラブルを防ぐポイント

@自宅での介護の様子を施設側に詳しく伝える。転倒したり食事をのどに詰まらせたりしたことはないかなど。
A施設がどんなケアをするのか事前にかしかめる。転倒事故を防ぐだけなら車いすなどに縛ることにもなる。店頭の危険を承知で歩かせてもらうのかなど,よく話し合う
B事故が起きたら、施設側はどんな場合に損害賠償を免れたりするのか、入所の際の契約書や重要事項説明書でチェックする
C施設側がどんな賠償責任保険に入っているか確認する。その補償内容によって支払われる保険金額などが推測できる

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