毎日新聞−2000年(平成12年)10月27日(金)
子供を取り巻くメディア環境が、急ピッチで変わっている。いまや家具の一部化したテレビやビデオのほか、ゲーム、パソコン、携帯電話など機器も多様だ。見えないラインの先で無限とさえ言える「サイパースペース」(電脳空間)に広がる画像や言葉を、電子音にのって追いかけ、遊ぶ。現実と仮想の二つの世界を生きる″クリック世代″を追った。 【子どもが危うい取材班】 |
東京都内の私立中・高一貫校の社会科教員(56)は9月下旬、「またか」と思った。同校は東大合格者数の上位ランキングに名を連ねる進学校である。
「これって、違法なんですか」
学校で高2男子が示したプリントは、インターネットから見つけだしたバナー広告(ホームページにある帯状の広告)集のページ。画面で登録し、そのサイトヘのアクセス回数の多少によって報酬をもらう仕組みである。友達(子)を紹介し、その友達が別の友達(孫)を紹介し、彼らがアクセスすればするほど、自分(親)の稼ぎはネズミ算のように増える。
「出資金を求めていないので、違法なネズミ講とは違うけど……」
教員は慎重な対応を勧めた。昨秋には中2男子の母親からも「息子が友人に勧められた」とほぼ同じ内容の相談があった。有名な銀行も参加し、スポンサーにはアメリカの会社もある。
「参加してぬれ手にアワでお金をもうけたいと思っている」と教員は心配する。結局、2人とも入会しなかったという。
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ネット上では一見″おいしい話″が簡単に見つかる。▽「3択クイズ全問正解なら100万円」(日本語) ▽氏名、年齢、職業など登録し、「豪華客船の旅をプレゼント」(英語)など。
発信元はどこなのか、すぐには見当のつかないものもあるが、個人情報を集めていると多くの専門家は見る。
ネット・オークションも盛んだ。カード類などを子供自身が売り買いする掲示板もある。9月、千葉県・幕張メッセで開かれた東京ゲームショウのキッズ・コーナーに座り込み、ポケモンや「遊戯王」などのカードを売買・交換していた千葉市内の小6男児は言った。「最初にメール交信で電話番号を教えてもらい、次に『どこのポストに、いつ入れたか』聞いて、こちらも同時にお金を送った。大阪と松戸(千葉県)の子と合わせて2回やったけど、サギられる人もいる。相手がだれだか分からないしね」。危険は付きものと言わんばかりの口ぶりである。
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「ママは外国人で、パパは日本人。……姫を好きになり、愛いしているんだと、気ずきはじめました」(原文)
誤字脱字の目立つファクスを見せられ、首都圏の定時制高校教員(38)は、「送り主はセックスをしたいだけではないか」と疑った。昨年末のこと。姫と呼ばれた教え子の3年生、みどりさん(21)=仮名=は「脅されているの」と、青ざめた表情だった。
中学校に続いて女子高でもいじめにあって中退したみどりさんは、バイトなどを経て定時制へ進んだ。職員室によく顔を出し、話をしていく。「体は大人だが、心はまだ幼い」(教員)。男性とはインターネットにつながる携帯電話のコミュニケーション系掲示板で知り合い、自宅や学校の電話番号まで教えてしまった。
喫茶店、映画、遊園地などで4〜5回デートし、「結婚してほしい」と言われた。ファクスをもらったのはそのころで、間もなく「男の妻」と名乗る女性から「夫をどうするつもりなの。訴えてやろうか」と電話ですごまれた。
教員はそのことを父親に知らせ、数日後、学校近くで相手と3人で会った。「愛しているというなら、まず戸籍を持って来い」と父親に怒鳴り返された「30歳」の男性は一転、ひたすら謝った。ハーフではなかった。「別れてやるからと、金を脅し取ろうとしたのかもしれない」と、教員は恐喝もどきの一件を振り返る。
みどりさんは4年に進級し、ホッとして職員室に来た時、思い出して言った。「センセイ、わたし勉強したよ」
真偽ない交えたネット空間は、危険な落とし穴をより見えにくくしているのかもしれない。
危険性教えた上、活用を 弁護士 速水幹由さん
ネット上は互いに素性の知れない多数の人間が集まる究極の都市社会。善悪、玉石が交じり、犯罪などの危険性がつきまとい、これまでなかった現象も加わる。
変質者が子供になりすましてメールを通じて近づいたり、ストーカーまがいや、気づかないうちに長時間、海外に接続され、高額のアクセス料金を請求されることもありうる。こうした点への対応や、幼い子にポルノを見せない方策も必要だろう。
しかし、多様性や他者に干渉されずに発言できる自由性こそがネットの活力源なのだから、危険性を認識したうえで、うまく使っていくべきだ。
@面白がって何にでも安易に手を出さない
Aみだりにプライバシーを明かさない
B感情が伝わらず誤解の起きやすいネット上の会話は、会って話すとき以上に気を使う
ことなどを子供に教えるべきだろう。