毎日新聞−2000年(平成12年)10月27日(金)
社説
参院比例代表選に非拘束名簿式を導入するための公職選挙法改正案が26日の衆院本会議で、与党3党などの賛成多数で可決・成立した。
同法案が参院に提出されたのは今月3日だった。それから数えてわずか二十数日間で成立というスピードぶりだった。
ここに至るまでの国会は異常、異例ずくめだった。
事の始まりは、自民党出身の前参院議長が、職権で参院選挙制度特別委の野党委員を指名したことだった。衆参両院を通じても史上初めてのケースである。
一度、堰が切られれば、あとはとどまることを知らずだ。その後、与党は、野党が欠席あるいは退席しようが、お構いなしに委員会や本会議での採決を単独で強行していった。
そうした中で見過ごせないのは審議自体が実に不十分だったことだ。審議時間は、参院では野党欠席のまま4日間、衆院では野党は出席したものの3日間だけだった。
1982年、参院全国区を拘束名簿式の比例代表制に変更した際は、法案提出から成立までに1年以上を費やした。94年、衆院に小選挙区比例代表並立制を導入した際は半年近くがかかっている。それらと比べれば、今回がいかに尋常でなかったかが分かる。
審議に時間をかければいい、というものではない。とはいえ、議会制民主主義の土俵作りにかかわる法案である。慎重な審議が求められて当然だった。
衆院での審議でも、票の横流しが行われ落選したはずの候補者が当選するケースが起きる、旧全国区のように巨大な費用がかかり「銭酷区」が復活するのでは、といった欠陥や不備が野党側から指摘された。
これに対して与党側の答弁は「個人票を政党票に合算するものであり横流しではない」「選挙運動の相当部分は党に担わせる。候補者個人の負担は大きくならない」といった原則論を繰り返すだけで、疑問点は何一つ解消されないままだった。
いずれにしても来年夏の参院選はこの非拘束名簿式で実施される。
すでに自民党は、比例代表選の第1次公認内定者を発表済みだが、そのリストには各種の業界団体をバックにした官僚OBらがずらりと並んでいる。「非拘束名簿式になれば、候補者個人や各業界が票の掘り起こしに真剣に取り組むようになり、党としては好都合」という計算があってのことだ。
しかし、これでは業界の個別利益を代弁する″族議員″を増やすだけではないか。利権政治からの決別という流れにも逆行する。
2院制における参院への期待は、「良識の府」としての役割だった。非拘束名簿式の導入により、それがますます形がい化しかねない。
この点は労組に依存しがちな野党にも言える。各党の候補者の選び方や選挙運動の進め方が、これまで以上に問われるに違いない。
法案の成立に伴い早くも自民党ではシドニー・オリンピックで活躍した人物の名前が候補者として取りざたされている。「人寄せパンダで大量待票を」というわけだが、これほど有権者をばかにした話はない。
「選ぶ側」不在の制度変更を強引に進めた与党の国会手法は最悪の前例として残った。参院選で与党は、有権者の厳しい目を覚悟しなければなるまい。