毎日新聞−2000年(平成12年)10月27日(金)
「スターの取り合いになるかも」「組織がまとまり、好都合だ」−。候補者個人の人気度と、組織力がものをいう非拘束名簿方式の導入が26日、決まった。久世公尭・前金融再生委員長の自民党費納入を巡る問題の「反省」から生まれた制度だが、結局はタレント候補の担ぎ出しや業界団体、労組の締め付けが横行しそうな雲行き。トクをするのはどの党なのか、各党も識者も測りかねている。
実質審議時間が衆参合わせて7日間。自民党の強引さばかりが目についた国会質疑だった。衆院本会議での採決後、民主党の鮫島宗明衆院議員は「自民党とのスターの取り合いになるだろうね。自民党が巨人の長嶋茂雄監督なら、うちはノーベル賞受賞者にしようか。非拘束制度は党名がちょっと隠れるから、自民党にはいいんじゃないの」と、やや投げやりに語った。
与野党ともに、選挙の見通しは手探りの状態。自由党の藤井裕久幹事長は新制度が有利かどうかを問われ「そんなことは、今の段階では分かりません。強引な手法を取った自民党に対して、有権者は厳しい審判を下していただければと思う」と自民党の「敵失」を期待する。
非拘束名簿方式では改めて組織力が注目される。
民主党からの出馬を前提に自治労、自動車総連などの産別労組ごとに擁立する候補を決めている連合。幹部の一人は「これまでは党名を記入する戦いだったが、非拘束になれば各候補者ごとの得票が明らかになる。各産別の取り組みがそのまま得票になって表れるため、組織はこれまでよりも引き締まるし戦いやすい」と新制度を歓迎する。
データに基づいた分析で知られる岩井奉信・日本大教授(政治学)は「非拘束式が自民に有利に働くか、客観的に見れば疑問だ。組織を引き締めることができるという声があるが、農協の関係者は『強く締めれば逃げてしまう』とぼやいている。上からの締め付けで票が集まるような時代ではない」と指摘する。