読売新聞−2000年(平成12年)10月17日(火)
教育 |
養われる くじけぬ力 「自主性尊重」
新学習指導要領の目玉となる「総合的な学習の時間」(総合学習)が小中学校で2002年度、高校では2003年度から本格的に始まる。教科書のない新しいタイプの授業に、教育現場では戸惑いの声も上がっているが、一方で意欲的な取り組みも既に始まっている。様々な現場をリポートしながら総合学習の意義や課題を考える。
長野県伊那市立伊那小学校の校庭に並ぶ5棟の手造りの家。ログハウス風に丸太を積み上げた一棟の前で、建石智香さん(11)はノコギリを器用に使いベランダ造りに汗を流していた。
建石さんが所属する6年のクラスが、昨年度から取り組む総合学習のテーマは、「ロビンソン・クルーソー物語」。国語の教科書の脚注からロビンソンの無人島生活に興味を持った子どもたちは、本やインターネットなどを頼りにグループごとに家を建てた。2学期のキャンプに向け、現在は家の改築を進めている。
「丸太を縦に切るのに苦労したけど、みんなで協力すれば何でもできると分かった」と建石さん。「こんな時にロビンソンなら負けないよね」と言いながら作業をやり通し、一回りたくましくなった姿を、担任の森岡晃教諭(36)は頼もしそうに見つめた。
1977年度から総合学習に取り組んできた同小の実技の特徴は、子どもの意欲を最優先に考えている点だ。テーマは子どもと教師がじっくりと話し合いながら決める。教師側から種をまくこともあるが、最終的に決定するのは、あくまでも子どもたちだ。
評価は、子どもが記入する自己評価カードをもとに、目標の達成度や成長を教師が絶対評価する。通知表はなく、学期末の個別保護者懇談会と年度末の学習発表会で、子どもの成長を見てもらっている。
子どもの意欲を尊重する実践について、保護者らからは、「課題を設定した方がいいのでは」「本当に学力がついているのか」といった声も聞かれる。
しかし、教務主任の浦野紀和教諭(46)は「自分から進んで取り組もうという意欲が、よりよく生きようとする力につながる。課題を準備すると、結局教科学習と同じプロセスになってしまう」と強調する。
総合学習の授業を通して子どもたちは、たくましさや、困難があってもくじけずに乗り越えてゆく力を身に着けてゆくのだという。 同小の20年以上に及ぶ実践の歴史は、知識の量を測る学力観からの転換を目指してきた足跡でもある。
(文化部 保井 隆之)
総合的な学習の時間 |
新学習指導要領では、地域や学校、児童生徒の実態等に応じた横断的・総合的な学習、児童生徒の興味・関心等に基づく学習と定義。自ら課題を見つけ、学び、考え、主体的に判断し、問題を解決する資質や能力を育てることを狙いとしている。 |