毎日新聞−2000年(平成12年)10月17日(火)
小さな善意がビッグな夢をかなえる。ユーイング肉腫と闘う少年は「南の海に行きたい」と願い、家秩でハワイヘ旅立つ。米国の航空会社が利用者から募ったマイレージが、重い病気の子供たちに希望と勇気を与える活動を続ける市民団体「メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパン」(MAWJ、事務局・東京都千代田区)に寄付され、夢を実現するのだ。
神奈川県伊勢原市の小学3年生、山崎直也君(8)は泳ぐのが大好きだ。人なつっこい笑顔で「病院のお風呂で泳いでたんだよ」と言う。でも、本当は海で泳ぎたい。それも「寒くてブルブル震えるようなところではなく、砂を踏むとあっちっちというような南の海。アロハがいい」。そう言って、MAWJに持ち掛けた。
直也君は5歳だった1997年9月、右胸のあたりに異変を感じた。「息をすると苦しい」と言い、自宅近くの病院でレントゲンを撮ると肺に影があるように写った。最初の診断は「肺炎」。しかし1カ月入院してもよくならず、東京都内の大学病院に転院した。なかなか原因がつかめず、12月に手術して初めて本当の病名が分かった。
98年春、小学校の入学式には母敏子さん(28)だけが出席した。直也君は病院の訪問学級でたった1人の入学式を祝ってもらった。
2度再発した。手術を受け、5月には自家骨髄移植という治療をした。8月に退院し、体調のいい日に短時間、敏子さんが付き添って学校に通いながら、週1回通院し検査を受けている。
直也君は3歳の時、箱根で1泊したことがあるが、その後、旅行らしい旅行をしたことがないという。父政明さん(30)の仕事の都合などに合わせ、年内には出かける予定だ。「ハワイヘ行ったら、海で泳いで、『ハワイに行ったよ』と思うようなお土産を買ってくるんだ」と今から心待ちにしている。
直也君のハワイ行きを後押ししたのはノースウエスト航空(本社・米国)のエアケア・チャリティー・プログラムだ。日本地区広報部の永田浩二部長によると、アメリカでは乗客からマイレージ(飛行距離の見返りに受けられるサービス)の寄付を募る取り組みが92年から始まった。来客の申し出によってたまったマイレージは、非政府非営利の団体に贈られる。
日本では昨年8月から開始。このマイレージは日本エアシステム、KLMオランダ航空、コンチネンタル航空、アリタリア航空などと提携しており、ほぼ全世界への旅行ができるものだという。「国境なき医帥団」が1期目の100万マイル、「全国骨髄バンク連絡推進協議会」が2期目200万マイルをもらった。MAWJでも目標を日本から20人の子供たちがアメリカ西海岸に行ける100万マイルに置いた。だが、これまでに30万マイルしかたまっていない。直也君一家4人がハワイヘ行くには十分だが、MAWJの大野寿子事務局長は「海外旅行をしてみたい、という子供たちは増えているので、協力してほしい」と乗客にマイレージの寄付を呼び掛けている。
MAWJの活動は8年前から始まり、今年9月までに3歳から17歳までの重い病気の子供200人の夢をかなえた。「山形のおうちに帰りたい」「ウルトラマンガイアに会いたい」「ニューカレドニアでダイビングがしたい」「NASA(米航空宇宙局)に行きたい」などだ。同団体の運営はそのほとんどが寄付金と年会費で賄われている。
寄付の方法などの問い合わせは MAWJ(03・3221・8388)へ。