読売新聞−2000年(平成12年)10月16日(月)
もうすぐ風邪やインフルエンザの季節。子供が熱を出すことも多くなる。熱がある時、薬を飲ませた方がよいか。どんな場合に、医師に見せる必要があるか。子供の発熱への対処の仕方について、「はじめてであう小児科の本」などの著書がある東京・八王子市の八王子診療所長の山田真さん(59)に聞いた。
東京都内の会社員は、3歳の娘が38・5度の熱を出した。前日から鼻水が出ており、近所の小児科医院へ。「風邪」と言われ、解熱剤と抗生物質を渡された。
だが、山田さんは「普通の風邪なら、薬を飲まなくても、静かにしていれば治るものです」と言う。
風邪に伴う症状の多くは、体を守るための防衛反応。発熱は、熱に弱いウイルスや細菌を退治するための反応で、38〜39度で病原体の勢いが弱まるとされている。だから、「熱を下げると、治るまでの時間が長引くと言われています」
では、解熱剤を飲ませてはいけない?
「原則として必要ありません。ただ、頭が痛くて苦しがっているとか、熱が高くて眠れない時は、1日2回ぐらいまでは飲んでもいいと思います。熱に強い子、弱い子がいますから」。目安は38・5度以上の時。1回飲んだら、次は4時間程度はあける。
解熱剤にも種類がある。昨年、厚生省研究班は、インフルエンザ脳症と脳炎の患者では、メフェナム酸(主な商品名ポンタール)やジクロフェナクナトリウム(同ボルタレン)という作用の強い解熱剤を服用した場合に死亡者が多かった、と報告した。
これを受け、八王子市医師会は今年4月、同市の夜間救急診療所では、6歳ぐらいまでの乳幼児に、解熱を目的にこの2種類の薬を使わないよう申し合わせた。「相対的に危険と思われる薬は当然、使うべきではありません」と同医師会母子保健担当理事の奥富武尚医師。
山田さんも、子供に出す解熱剤は、比較的安全とされるアセトアミノフェンに限っている。
子供が暑そうにしてる時は、熱がこもる厚い布団を無理にかけないなど、楽になるよう心掛けたい。
抗生物質も、よく処方されるが、細菌には有効でも、風邪の9割は、細菌より微小なウイルス感染で、効果が期待できない。
「細菌が原因と予想される時は使っても良いでしょう。しかし、実際には細菌感染の予防を理由に処方されることが多いようです。これは意味がありません」
発熱は風邪ばかりが原因ではない。生後3か月から2歳までは、突発性発疹がよくある。3、4日で自然に熱が下がると、半日ぐらいで発疹が出る。軽い熱と共に発疹が出る風疹は、3日ほどで熱は下がる。ほっぺたがはれるおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)、冬になると増えるインフルエンザなど、他にも子供が熱を出す病気はあるが、多くはあわてる必要はなく、症状をよく見て医師に相談する。
だが、重大なものもある。その一つが髄膜炎。体の抵折力が落ち、鼻やのどに感染したウイルスや細菌が、脳やせき髄の膜に広がった状態だ。
高熱とともに、嘔吐、強い頭痛が起き、光がまぶしかったり、首の後ろのうなじが硬くなったりすることもある。うなじの硬直は、子供を仰向けに寝かせ頭を持ち上げて見分け、あごが胸につきにくい感じがしたら、すぐに病院に行く。
38度台の熱が数日続くなど下がらない時には、肺炎も疑われる。発疹でも、せき、鼻水、結膜炎などの症状を伴うはしかは注意が必要だ。
「子供の様子をよく見て下さい。重い病気の場合、熱だけでなく、ぐったりするなど本当に具合が悪そうにしています。熱が合っても、テレビを見たがったり、遊びたがったり元気な様子であるなら、普通は心配いりません」
子供の発熱知っておきたいこと |
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・熱の高さと病気の重さは関係ない |
(山田真さん監修)