読売新聞−2000年(平成12年)10月16日(月)

排ガス試験 甘い日本 欧米なら数値大幅増

−法定走行 都市部の渋滞、想定せず オランダの研究機関調査−

 自動車の排ガスをチェックする日本の試験方法は、米国やEU(欧洲連合)の試験方法に比べ、排ガス中に含まれる有害物質の割合が低い結果が出る仕組みになっていることが15日、オランダの研究機関の調査で分かった。日本で試験をパスした車両の排ガスを3つの方法で検査した結果、有害物質の1つ、炭化水素(HC)がEU方式の33分の1しか排出されない車種もあった。試験方式の差異は、想定する走行パターンの違いに基づくもので、東京都は「現行のの試験方法は都市部の走行実態を反映していない」と指摘している。試験方法の抜本的見直しが迫られそうだ。

 国内で販売されている自動車は、道路運送車両法に基づく法定の走行方法に沿った排ガス試験で、規制値をクリアする必要がある。特殊な測定機の上でアイドリング、加速、低速など複数のパターンで走らせ、排ガスの濃度を測定するが、走行パターンは各地の走行実態を考慮するため日、米、EUそれぞれ異なっている。

 今回の調査は、低公害車の開発を進める「コ−プ低公害車開発」(本社・横浜市、馬場昭夫社長)などが、先進型LPG車の開発のため、車両をオランダに送った機会に、政府系研究機関「TNO・道路車両研究所」に委託し、今年5−6月に行われた。

 使われた車両は、国産のワンボックス車、ライトバン(以上、使用過程車)、乗用車(新車)と三車種のガソリン車。燃料は現地で市販されているガソリンを使い、日本、米国、EUがそれぞれ定める法定の試験方法で、HC、窒素酸化物(NOx法定走行試験によるNOx排出量の違い)、一酸化炭素(CO)について走行距離1`当たりの排出量を測定した。

 その結果、HCとCOについては、すべての車種で日本の方法は最も排出量が少なかつた。NOxの場合、乗用車ではEUの方法が最も少なかったが、ワンボックス車とライトバンでは、日本の方法では排出量が欧米の2割以下と極端に少なかった。特に乗用車HC排出量はEUが0.33c、米国が0.23cだったのに対し、日本はわずか0.01cで、EUの33分の1に過ぎなかった。

 一般に自動車排ガス中の有害物質は、渋滞時のように加速と減速を繰り返すと排出量が増える。日本の法定走行は、こうした走行パターンが占める割合が欧米に比べて少ない。特に、米国では大気汚染が激しい都市郡に焦点を当て、一般での渋滞やハイウェーでの高速走行を走行試験に反映させているが、日本の場合は、全国各地の走り方を平均値化した走行パターンとなっている。

 東京都が都内を実際に走っている車両を独自に調査した結果によると、特に渋滞がひどい区部の平均車速は時速約18`で、全国平均(約35`)の半分程度なっている。都は「米国のように、都市部の実際の走行実態を反映した方法に改めるべきだ」と主張している。

 調査を行ったコープ低公害車開発の若狭良治専務理事は「政府が10年以上も試験方法の見直しを行わず、欧米との違いも調べていないのは怠慢だ。日本の試験方法は条件が甘く、実際には規制値を厳しくしても、効果が出ていないのではないか。メーカーは国内向けの車両にも可能な限りの排ガス対策を盛り込むべきだ」と話している。

 また、自動車排ガス問題に詳しい河野通方・東大大学院教授(航空宇宙工学)は「このデータだけで、一概に日本の試験が甘いとは言い切れないが、現状が走行実態の変化に対応しきれていない面があるのも事実。大都市部の走行実態に焦点を当てた見直しを検当する必要がある」と指摘する。

 現行の試験方法は89年12月の中央環境審議会の答申に盛り込まれ、91年11月以降に生産の車に適用されている。環境庁は現在、専門家による検討会を設置、新しい拭験方法の検討を進めているが、非公開で、メンバー8人のうち、5人は運輸省と自動車メーカーの関係者が占めている。

各社 輸出用には手厚い対策

 自動車メーカーは車を輸出する際、輸出先で排ガス試験を受け、規制に対処する。このため、ほとんどの自動車メーカーは輸出用に排ガス除去装置を追加するなど、国内外を使い分ける“ダブルスタンダード(二重基準)”で対応。主要自動車メーカー8社に尋ねたところ、全社が国内用、輸出用で排ガス除去装置などの仕様を使い分けていた。

 大半の社は「燃料の調節方法などを変えている」(本田技研工業、マツダ)、「(有害物質をこし取る)触媒の容量などを変えている」(日産自動車、三菱自動車工業、富士重工業)としているが、国内用より、輸出用に手厚い排ガス対熊をとったかどうかについては、「検査方法が違うので、どちらが優れているとは言えない」(本田技研工業)、「地域の特性に応じた規制に対応している」(日産自動車)などとして、明言を避けている。

 しかし、業界最大手のトヨタ自動車は「ガソリン車の場合、排ガスを除去するためのセンサーを、国内向けでは1つだが、輸出用には複数搭載しているケースがある」と認めたうえで、「現状では各地の国内法に合わせなければならないが、大気汚染から消費者を守るという観点から、また製造コストの面でも、地域による試験怯の違いは少ない方がいい」(広報部)と話している。

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