毎日新聞−2000年(平成12年)10月08日(日)

◆ 法律で、表示できない効能 ◆

 近所の大型スーパーで、代表的な健康食品の一つである「プロポリス」の袋入り製品を買ってみた。ミツバチの巣から取り出される樹脂状物質のエキスで作られ、巷では抗がん作用や殺菌作用なども「噂されるプロポリスだが、その袋には「身体本来の持つ力で元気に過ごしたい方に」などの文句が見えるだけで、はっきりした効能は書かれていない。メーカーに尋ねたところ「医薬品ではないので、効能は一切表示できないのです」という説明が返ってきた。
 健康食品とは何か。この答えが案外難しい。明確な定義はなく、広く健康に役立つことを意識して摂取する食品すべて(お茶やおそばも含まれる)をイメージする人もいれば、栄養成分や健康維持成分を凝縮した錠剤・カプセルなどの「サプリメント」(補助食品)に狭く限定して考える人もいるからだ。
 口から摂取するものは食品か医薬品(医薬部外品を含む)のいずれかに区分され、食品は食品衛生法で、医薬品などは薬事法で規定される。健康食品は一般の食品と同じく、食品衛生法で規制されるのだが、法律の構成上、どうも薬事法が優先されるようなのだ。
 薬事法は、医薬品を
   @日本薬局方(医薬品の基準書)に収められているもの
   A人・動物の疾病の診断・治療・予防に使用されることが目的とされるもの
   B人・動物の身体の構造・機能に影響を及ぼすことが目的とされるもの
と定義している。

 一方の食品衛生法は、食品を「医薬品(医薬部外品を含む)を除くすべての飲食物」といった表現で定義しており、健康食品が「医薬品以外」であるからには、「診断・治療・予防」を目的にできないし、「身体の構造・機能」にも影響を及ぼさないことになる。健康食品が、病気予防効果や体に及ぼす機能(血圧低下作用など)を表示すると薬事法違反に問われてしまうのだ
 食品摂取が体の生理機能に影響を及ぼすことはすでに知られており、科学的に証明された生理機能なら表示されてしかるべきだが、このあたりは、米国からの外圧もあり、日本も徐々に見直しを進めているところだ。
 「医薬品でない」ことからくる別の問題点もある。医薬品は、成分内容や臨床データなど多くの資料を提出して厚生省の承認を得なければ販売できないが、「食品」である健康食品にそうした許可制はない。だから「万病に効く」「がんが治る」といって高額で売りつける業者が雨後のたけのこのように現れ、摘発側といたちごっこになってしまう。

 こうした事態の解消を目指して、厚生省所管の財団法人、日本健康・栄養食品協会は、「健康補助食品」(狭義の健康食品)についての自主規格基準を定め、適合した製品に「JHFA」マークの表示を認めている。これまでに、DHA(ドコサヘキサエン酸)、大豆レシチン、キトサン、クロレラ、乳酸菌、キノコ類、プロポリスなどの加工食品計47品目の規格基準を作り、約1200製品に対してマークを認定した。信頼できる健康食品として、このJHFAマークを目安にするといいだろう。そして、もう一つ。現行の薬事法に照らすと、「何に効くのか」がさっぱり分からないような表示の健康食品こそ、良心的なメーカーの製品といえるだろう。
                                                             【科学環境部デスク】

 “食”という字は「人」と「良」という字から出来ている。だから、「人の身体に良いもの」だけが“食品”と言えると思っている。
 しかし、急性の毒性があるもの以外多かれ少なかれ“食物”にはプラス面”と“マイナス面”が付きまとう。
 最近のテレビや週刊誌等の健康に関するコーナーや月刊の健康誌を見ていると、食品の一面だけを捉えて大騒ぎし過ぎているように感じている。各種の健康茶しかり、ココアや紅茶きのこ、○○菌なんてものもあった。各種野菜の取り上げ方でもそうだ。最近、保険金殺害事件等でも使用された「トリカブト」だって、使用量によっては薬にもなる代物だ。「薬のリスク」だ。