読売新聞(岩手県版)−2000年(平成12年)10月02日(月)
健康 |
生薬、栄養補助食品で摂取盛んな欧州
健康でおしゃれな食品、飲み物として、日本でもハーブの人気が高まっている。その本場ヨーロッパでは、家庭や飲食店で消費されるだけでなく、薬局ではさまざまな植物から作られた生薬製剤が売られ、製薬会社も開発に力を入れているドイツとイタリアで、人々の暮らしに根付いてハーブ事情を紹介する。 【石塚 人生】 |
イタリアの商業都市、ミラノ。下町にある「パトリツィア・マッチョーニ」はどこにでもある平均的な薬局だ。
目を引くのは、店内の至る所にさまざまな植物の成分を配合した店独自の生薬製剤や、大手製薬会社のサプリメント(栄養補助食品)が並べられていること。滋養強壮、肌荒れ予防、鎮静作用など、うたわれる効果は一般的なものが多いが、うつ病に効くとされるセントジョーンズワートや、冷え性に良いというカモミール、風邪の初期症状用にタイム、セージを配合したものなど、種類は豊富だ。
「ミラノは都会だからストレスも多い。疲れや不調を感じたとき、最初から化学物質の薬を飲むのは抵抗があるから、料理でいつも食べているハーブ入りの商品をまず選ぶという人が増えてきた」と店主のカティア・マッチョーニさん(41)は言う。
こうした商品はここ10年ぐらいで急激に増え始め、同店の売り上げの約10%を占めるまでになった。特に自然志向が強く、健康に敏感な30歳代の女性が多く買い求めるという。
ヨーロッパでは、ハーブなどの植物を薬や食品として利用し、体の調子を整えようという健康法「フィトセラピー」が広まっている。直訳すると、「植物療法」。ハーブティーやハーブ料理など、自然の恵みを積極的に取って免疫力を高め、病気を予防するのが主眼だ。
高齢化が進む欧米でも薬の需要は伸びているが、副作用や化学物質に対する不安感から、合成薬をなるべく避けようと、伝統的なフィトセラピーの考え方が改めて見直され始めている。
ドイツには普通の自然食品店とは別に、許可制の健康食品店が2500店以上あり、多くのハーブ関連商品を販売している.フランクフルト中心部のしにせ店の店主ジモーネ・ヘップさん(30)は「ちょっと疲れたという程度の身体の不調なら、まずハーブティーを」と薦める。
また、ドイツには公営の農園があちこちにあり、全国で約100万人が利用している。ミュンヘンの市営農園で会ったエルナ・カップさん(60)は22年も前から、自宅近くの農園で、数十種類のハーブを栽培している。
「料理やお茶に使わない日はないほど。ハーブがない生活なんて、考えられないわ」とカップさんは話す。
薬の分野でも、ハーブを利用した商品開発が盛んに行われている.ドイツの大手製薬会社「ベーリンガーインゲルハイム」の場合、同社の大衆役の上位7位までに生薬製剤が入り、その3つの売り上げが約25%を占める。
昨年の欧州連合(EU)の大衆薬市場では、生薬製剤関連の売り上げが全体の15%を占めたほどだ。
同社を始め、ヨーロッパの製薬会社が近年開発に力を入れているものの一つが、イチョウ葉エキスを使った生薬製剤。ドイツ、フランスでは30年以上前から市販され、大衆薬部門ではここ数年売り上げトップを記録している。
イチョウ葉エキスは、血管を拡張し、血液の粘り気も少なくするため、血液循環を促す作用がある。特に頭がすっきりするからと、受験期の学生や、仕事でストレスを抱える管理職の人たちが買い求めることも多いという。
各国の薬の事情に詳しい東大医学部助教授の丁宗鉄さん(52)は、「欧州では古くから植民地や航海で訪れた地で、薬に使われていた植物をどん欲に自分たちの病気治療にも取り入れてきた。先人の知恵が、今も暮らしの中にしっかりと定着している」と話している。
日本でもサプリメントはちょっとしたブーム。薬局やスーパーの健康食品の棚には、ビタミン、カルシウム、鉄などのミネラルが入った錠剤や粉末が並べられている。ハーブ配合商品の数は日本健康栄養食品協会でも把握しきれていないが、百種以上は販売されていると見られる。
ただし、各国での売られ方はさまざま。ほとんど同じ成分でも、ドイツ、フランスでは薬扱いのものが、日本ではサプリメントとして売られているものもある。薬事法や政府の規制が異なるためだ。
日本ではサプリメントは食品扱いだから、表示は「どんな栄義成分が含まれるか」までしか許されず、薬のように「効能」を書くことはできない。こうした規制がかえって消費者に誤解を与えかねないという指摘があり、厚生省は今年度中に、薬に準じる効果があるサブリメントについては、その成分が体にどんな働きをするかを表示できるようにする方向で検討している。
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ヨーロッパでは暮らしに根づいたハーブ。日本でもサプリメントとして利用するほか、自分で育てたり、料理やお茶に入れて楽しむ人も増えている。
メディカルハーブ広報センター専務で薬剤師の林真一郎さん(41)は「合成薬は病気の急性期に、ハーブは予防に向くというそれぞれの良い面がある。上手に使い分けて、健康づくりに生かしてほしい」とアドバイスしている。
サブリメントを含む健康食品を取る際の注意について、著書もある内科医の小内亨さん(41)(群馬県伊勢崎市)は「取りすぎは費用がかさみ、健康への害が大きくなるだけ。説明にある用量を守ることが大切だ」と強調する。
錠剤やカプセルの形をしたサプリメントは取りやすいだけに、過剰摂取の危険が常にあるという。健康食品について国民生活センターに寄せられた苦情・相談は昨年度、初めて1万件を超えた。うち健康被害を訴えたものは438件。サブリメントに関してもビタミン、カルシウム含有剤で、湿しんや下痢などの訴えが数件あった。
広告などで劇的に効果があったという体験談も多くみられるが、薬と同じようには、その効果が証明されてはいないことも知っておきたい。
一般に生薬製剤には副作用が少ないと言われている。イチョウ葉エキス製剤については、血が止まりにくくなったり、アレルギー反応や皮膚の障害が出たりしたとの報告がある。自然のものだから無害という訳ではない。また、他の薬や食品との組み合わせで副作用が出る場合ももある。
「特に病気で薬を飲んでいる人は、取る際には医師に相談してほしい。基本的には薬ではないのだから、過大な期待はしないで」と呼びかけている。
★いっぽのコメント★ 仙台市内のあるカレー屋さんの前にも「当店のカレーは“漢方薬”だけで作っています」と書かれた看板が立てられていますが、私からしたら「本来のカレー」を作られているところなら当たり前のことで、特に表示することでもないと思うのですが、我が国のアレンジ品である“和風カレー”になるとその他にも色々なものが入れられているということなのでしょう。 多くの人は“カレー粉”なるものが存在すると考えられているようですが、“カレー粉”はスパイス(=漢方薬)の集合体の総称であって、「これが“カレー粉”だ!」というものはないのです。メーカーによっても入っているものは様々ですが、基本はターメリックとクミンとコリアンダーの3つのようです。これに、辛味成分であるレッドペッパー(赤唐辛子)等や香味を豊かにするためのオレンジピール(ミカンの皮)・オレガノ等のスパイスが足されて“カレー粉”と呼ばれているのです。 本場のインドやスリランカではそれぞれの家で、それぞれの好みや体調・状況等でスパイスと使う量(だけでなく、それに入れる材料も)を決め、その都度擂り合わせて作っているそうなので、出来上がりもそれぞれの家で違うそうです。逆に考えたらそれが当り前で、皆が同じ物を食べている我が国の方がおかしいのかもしれません。 中国には「医食同源」という言葉があるようですが、ここでは「薬食同源」であり、ですから、それぞれのスパイスには“役割”と“効能”があります(単独で用いることが可能なのはご承知のとおりです)。和食ででもハーブを上手に使うとその料理は膨らみます。積極的に使ってみて欲しい食材です。 ちなみに、我が国のハーブの代表はしそ、生姜、ニンニク、ネギ、わさびでしょうか。 |