毎日新聞−2000年(平成12年)10月02日(月)
さだまさしの日本が聞こえる
シドニーオリンピックが始まってからなんとなく毎日落ち着かない日を送った。落ち着かない理由は、きっと自分が歳をとったせいだ。若い頃は同年代の選手達に自分の思いを重ねて一緒に悔しがったり喜んだりしてきたのだが、最近、どうもいけない。若い選手をみるとなんだかPTAのような気持ちになるのだ。
この子は一所懸命やってオリンピックに来た。それだけでも本当は無茶苦茶にすごいことなのに、ここで負けたり、失敗したりすると、無責任な場所から眺めているだけの連中からまた非難されたり揶揄されたりするのかしらん、と思うだけでこちらは胸が痛むのだ。
その分、あの競技場で実力通りに結果を出す選手や実力以上の結果を出してしまう選手には震えるほど感動させられてしまう。田村売子選手のあの笑顔はどうだ。試合前のインタビューでも修行を積んだ宗教家のような所まで自分の心を高めているのに驚かされた。だからこそ、の偉業だろう。
「4年に1度」という、この絶妙な時間の谷間で散っていった数々の名選手を見てきた。どんなに頑張ってもどれ程実力があっても、仮に沢山の世界新記録を作り続けた選手といえどもオリンピックで金メダルが獲れる訳ではない。勝負のあやとはそういうもので、何処か受験に似ている。それだけに肝腎なところでしくじって絶望的な表情になった選手を見ているのが辛くなってきた。
例えば体操の塚原直也選手のお父さんは国学院高校の先輩。それだけでもう、甥っ子のような気持ちで応援するから、本当に身が持たない。どれほど頑張って来たかも報道などで知らされているから尚更だ。頑張れ直也君。まだ未来がある。20世紀の借りを21世紀に返せるというのは、これまた凄い巡り合わせじゃあないか。流した汗の尊さに差はないのだ。ほんの僅かばかりの時の運の差にすぎない。時の運ならいつか必ず巡って来る。僕には「ただ一途に」自分の道を行く選手達に幸あれと祈るしかないが。
いっぽのコメント さださんは好きな歌手の一人です。普段の人となりは存じ上げませんが、彼の歌詞・メロディー・コンサートでの話し・様々な活動を通じて知る限りでは彼は“温かい人”だと思っています。彼の歌の中でもオーケストラをバックにして歌った時の「風に立つライオン」は特に感動もので、自分の“夢”のために愛する人に思いを残しながら異国で働く辛さ、切なさに涙がこぼれます。 これからも彼のこのコーナーでのコメントに注目したいです。 |