授業中じっと座っていられない、奇声を発する、一つのことに集中できず自分勝手な行動を取る等々、今までは家庭や学校での“躾”の欠如の問題と見られてきたこれらの子ども達が、実際には「様々な原因により脳の“抑制”や“制御”を司る部分がうまく働かない状態(神経伝達物質のアンバランス)から起こり、行動や感情、注意、思考等様々な分野に影響を与えている」−司馬理恵子著『のび太・ジャイアン症候群2』−と考えられています。そして、いじめっ子(=ジャイアン)もいじめられっ子(のび太)もこの症候群による場合が多いことも指摘されています。
こうした“特質”を理解しないで、闇雲に体罰等を用いて“普通”の子どもに合わせた生活をさせようとすることは、この子の持っている“輝く面”まで曇らせてしまうことにもなりかねません。彼等を正しく理解しないでからかったり叱責したりして、必要以上に精神的に追い込み、事件の加害者や被害者、又自分や自分の人生を否定して生きることのないようにしたいものです。
★「多動性障害」児の不利益★ |
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人間関係−仲間はずれ、いじめの対象、叱責の対象、虐待の対象 |
この表は各国の「多動性障害」の頻度に関する調査の結果です。調査方法や用いた診断基準によってその結果も当然違ってきますが、地域や国に関わらず平均して約1割の人(子どもに限らず)にこの障害があると考えられています。約1割の人にあったら、もう“特殊”とは言えないですよね。
★「多動性障害」の頻度についての疫学調査結果★ | |||||
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国 | 年度 | 対象年齢 | 頻度(%) | ||
ADHD | ADD | PH | |||
スウェーデン | 1982 | 6〜7 | 2.0 | − | − |
アメリカ | 1985 | 9 | 14.0 | 2.0 | 2.0 |
中国 | 1985 | 7〜14 | 5.8 | − | − |
ニュージーランド | 1987 | 11 | 6.6 | 1.0 | 4.4 |
プエルトリコ | 1988 | 4〜16 | 9.5 | − | − |
カナダ | 1989 | 4〜16 | 6.3 | 1.4 | 0.5 |
イギリス | 1991 | 6〜7 | 17.0 | 1.5 | 9.0 |
〈注1〉ADHD:注意欠陥・多動性障害
ADD:多動を伴わない注意欠陥障害(Attention Deficit Disorder)
PH:多動が主体=広汎性多動(Pervasive Hyperactivity)
〈注2〉DSM−4以外の診断基準ではADHDとADDを分けているものもあるためこのようになった。
こうした症状は子ども達だけでなく、私達大人にも往々にして見受けられます。マナーの悪い人、ルールを守れない人、感情が高ぶってしまって子ども(=弱いもの)を虐待してしまう人、料理などの段取りを追う思考・行為の苦手な人等々は増加の一途を辿っています。子ども達への理解も必要ですが、自分自身のことも自覚する必要があります。
●席に座っていられない、あるいはいったん席につけてもすぐに立ち歩いてしまう。
●周りの子どもとおしゃべりばかりしている。
●教師の手助けなしで学習することができない。
●簡単な指示が理解できず、また従えない。
●順序ある指示に従えない。
●よく考えずにすぐに行動してしまう。
●ボーッとしていて言われたことを聞いていない。
●身の回りが雑然としていて整頓されていない。
●すぐに気が散ってしまう。
●学習内容の理解はできるが、テストが最後までできない。
●忘れ物やなくし物が多い。
●宿題をいつもやってこない。
●周りの子どもにすぐにちょっかいを出す。
●感情を抑えることができず、友人とすぐに喧嘩をしてしまう。
●学習、生活態度などで他の子どもより手がかかる。
これらのことは総ての子どもへの“指導”にも役立つはずです。物事は総て初めの一歩から始まり、一歩一歩地道に歩んで行く以外には“王道”はありません。それを横着して近道をしよう、楽をしようとするところから様々な問題が派生してきます。
●はっきり分かりやすい日常行事を組み立てる。
●クラス内の決まりごとは短く書き出して、目につきやすいところに掲示する。
●学習、日常生活の目標も分かりやすく掲示する。
●うまくできたらその場でほめる。あるいはシールや小さな褒美をわたす(目標数がたまったら表彰)
●教師としてどのような行動を望んでいるのか、機会あるたびに示す。
●「多動性障害」の生徒との間に個人的なサインを決めておいて、必要な時に示す。
●両親との連絡はできるだけ密にとる。
●授業中に教室を歩き回っている時には、できるだけ頻繁にその生徒のところに行く。
●授業の妨げにならない程度の問題行動は見逃す。
●問題行動を改めない時には、一定時間クラスから外す(立たせておく)。
●席はできるだけ前(見せしめ的にならないように注意)で、模範的な生徒の隣りに座らせる。
●「多動性障害」の生徒同士を近くに座らせるのは禁。
●気が散るようなものをそばに置かない。
●(教師は)授業中、できるだけ生徒の間を回る。
●話し掛ける時は目を直接見ながら。
●指示はできるだけ簡潔に短く言う。長い説教は避ける。
●叱る時は、生徒個人ではなく、その生徒の「行動」を叱る。
●叱る時に、他の生徒の前は避ける。
●叱る時でも、生徒の人格を傷つけるようなあざけりや皮肉を避ける。
●困難な課題に取り組ませる時は、短い休止を間に入れる。
●他の教師仲間の協力を仰ぎ、特に前任の教師とは連絡を密に。
●声を張り上げないで、低く落ち着いた声で話す。
皮肉にもアメリカで「多動性障害」に関する勉強をしていくにつれ、「日本の昔の家族とそれを取り巻く環境は、『多動性障害』児には理想的であった」ことに気がつきました。例えば、
●祖父母が一緒に住み、時には忙しい両親にかわり学校での悩みをゆっくり聞いてくれ、無条件に受け入れてくれる温かい聞き手がいた。
●学校はある種の厳しい側面をもちながらも、個性のある子もそれを認められてそれなりに伸び伸びと勉強できる、適度の管理教育だった。(後略)
我が国の“美学”