アレルギーっ子の生活

−1999年2月21日 北海道民医連 第35回学術集談会 全体講演資料−

【ダイオキシンと環境ホルモン】

今までの公害問題・環境問題と現在進行中の環境問題の違い

 現在進行中の環境問題は、今までの公害問題・環境問題とは様相が異なっている。病人が発生してからではなく、多くの人が発病する前に解決方法を模索する必要がある。また、急性毒性によって狭い範囲の地域で引き起こされる激しい症状ではなく、今までは安全と考えられてきた低濃度の化学物質への長期暴露、胎児期の低濃度暴露によって広範囲の地域で一見軽症な症状や病気が密やかに進行する。単一な原因ではなく、不鮮明で、多種にわたった原因の重なりの中で健康被害が進行する。したがって、正確な情報と正確な知ッ、緻密な観察力と診断能力が必要であり、住民、医療従事者、科学者など様々な人達が協力して事態の予防と対策にあたる必要がある。現状では、様々な野生動物が環境汚染化学物質の影響を受けていることが判ってきている。しかし、まだ人における影響の確実な証拠はつかめていない。

 しかし一方では、環境の悪化とその影響の因果関係がはっきりした時は、人類や地球上の生物の生存は脅かされ、すでに遅いのではないかと考えられている。人々や野生動物がおかれた環境の悪化に敏感に察知し、予防原則に基づいた迅速で適切な行動をとり、環境の悪化を未然に防ぐ必要がある。

化学物質の量と毒性の関係

 従来は、化学物質の量が増えれば、毒性が増し、健康被害(急性毒性や発癌、催奇形性など)を受けると考えられてきた。しかし、外因性内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)や化学物質過敏症などでは、この考え方は当てはまらない。極微量でも、内分泌のかく乱や過敏症を起こす。アレルギー性疾患でみても、自然物(食べ物や花粉など)に微量の汚染がある場合はアレルギーを起こし、大量の場合はアレルギーさえも起こさず“免疫力低下(感染しやすい)”となって現れたり、奇形を起こしてしまう可能性がある。今まで、一般的に使われてきた「濃度○○以下は安全」という定義は、通用しなくなってきている。

 また、胎児や乳児など感受性の高い時期にどの程度の汚染なら安全なのかという認識は、今までの毒性評価には使われてきていない。今、問われているのは、胎児・乳児の安全性であり、この観点から様々な化学物質の毒性が再評価されなければいけない。

 さらには、胎児期に限らず、出生後の成長期各段階において、様々な臓器に様々な影響を与える可能性があり、今後の研究が待たれる。

『外因性内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)』とは

 “動物の生体内に取り込まれた場合に、本来、その生体内で営まれている正常なホルモン作用に影響を与える外因性の物質”を意味する。

 近年、内分泌学を始めとする医学、野生動物に関する科学、環境科学等の研究メ・専門家によって、環境中に存在するいくつかの化学物質が、動物の体内のホルモン作用を攪乱することを通じて、生殖機能を阻害したり、悪性腫瘍を引き起こすなどの悪影響を及ぼしている可能性があるとの指摘がなされている。これが『外因性内分泌かく乱化学物質問題』と呼ばれているものであり、環境保全行政上の新たで重要な課題の一つである。(1998年5月環境庁 環境ホルモン戦略計画SPEED’98より)

内分泌かく乱物質リスト<参考 Deborah Cadbury著:メス化する自然 P268>

●環境中のエストロゲン(女性ホルモンの働きをする化学物質)

メトキシクロル 有機塩素系殺虫剤 1960年日本国内の農薬登録失効 1985年水質・底質調査で残留なし
一部のPCB類 有機塩素系化合物 熱媒体・ノンカーボン%d気製品に使用、1954年から1971年に57300tが生産された、1972年生産中止 環境中に広く残留
リンデンのβ−異性体 有機塩素系殺虫剤 1971年農薬登録失効 環境中に広く残留
DDT 有機塩素系殺虫剤 1981年製造・販売・使用中止 環境中に広く残留
ビスフェノールA   ポリカーボネート樹脂・エポキシ樹脂・フェノール樹脂の原料 1997年環境中に広く残留が見つかる、合成樹脂製哺乳ビン・缶詰内面の被膜に使用されている
オクチルフェノール     フェノール樹脂の原料、界面活性剤に使用
ノニルフェノール     アニオンおよび非イオン界面活性剤、工業用洗剤などに使用
アルキルフェノール・エトキシレート      

●抗エストロゲン(抗女性ホルモン)化学物質

ダイオキシン 有機塩素系化合物 高濃度でエストロゲンレセプターの働きを阻害
DDE(DDTの分解物) 有機塩素系殺虫剤 鳥類でエストロゲンの減少を促進
エンドサルフアン 有機塩素系殺虫剤 農薬として使用中。魚でビテロゲニン生成を阻害

●抗アンドロゲン(抗男性ホルモン)化学物質

DDE 殺虫剤 チェリーや輸入キウイに使用、アンドロゲンレセプターと結合
ダイオキシン類
ビンクロゾリン

●甲状腺ホルモンかく乱物質

PCB類、ダイオキシン類、鉛、チオカルバミドをべ−スにした農薬 ジチオカーバメート剤 アンバム、カーバム、ジネブ、ジラム、チウラム、メチラム、ポリカーバメート、マンゼブ、マンネブなど
スルホンアミドをべ−スにした農薬 スルファミン酸塩・アンモニウム塩 イクリン、ショーメイト、マイセフティなど

PPB類 ポリ臭化ビフェニール 難燃剤として年間30t生産され使用中
フタル酸エステル   塩化ビニルなどの合成樹脂の可塑剤として多量に使用中
へキサクロロベンゼン 有機塩素系殺菌剤 1972年製造・販売・使用禁止、環境中に残留あり

●副腎皮質ホルモンかく乱物質

ビンクロゾリン及び関連の殺菌剤、アニリン染料、l塩化炭素、クロロホルム(水道水中に発生するトリハロメタン)、DDT及びDDE、ジメチルベンゾアントラセン(DMBA)、メチルアルコールおよびエチルアルコール、窒素酸化物、PCB類、PBB類、ケトコナゾール(抗真菌剤)などの殺菌剤、トキサフェン(有機塩素系殺虫剤:日本では農薬登録なし)など

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