<06-15 2001年07月29日(日)公開>
アナフィラキシーを起こす時は、いろいろな経過をたどってアナフィラキシーにたどり着きます。その経過を知っておくことは予防に役立つでしょう。経験した症例から考えてみます。
離乳食で生まれて初めて食べたもので起こす場合が多くあります。乳幼児の場合は腸管の消化吸収の働きが未熟で未消化の食べ物を吸収してしまうことがあるため、1つの食品で激しい症状を起こします。生まれて初めて食べた小麦のそうめんが原因でアナフィラキシーを起こした6ヶ月の女の子もいました。初めて食べた卵や初めて飲ませた人工ミルク、ピーナッツなどの例が多くあります。この場合はお母さんのおなかの中にいる時や授乳中にアレルギーを作ってしまい、生後初めて食べた食品でアナフィラキシーを起こしたと考えられます。この場合の予防法は他の家族・兄弟にアレルギーがある場合は離乳食を食べる前4〜5ヶ月の時にアレルギー検査をしておくと未然に防げます。アレルギーの家族歴がなく初めてのお子さんの場合は残念ながら防ぎようがありません。
年令がもう少し高くなると次のような例が増えます。ある時期に多量に、また、頻回に食べ続けアレルギーを起こしてしまうと、その食品を嫌いになり、食べなくなります。その後、食べない時期が一定続いた後、給食で出されて無理に食べたり、周りの人に食べるように勧められるなど、何かのきっかけで食べてしまいアナフィラキシーを起こしてしまいます。なぜか不思議なことに、体の具合が悪くアナフィラキシーを起こしやすい状態になると、アレルギーのある食べてはいけないものをむしょうに食べたくなります。事前にアレルギーがあるものがわかっていれば食べないですみます。知らない場合はなんでわざわざだめなものを食べてしまったのかと思うほど、引き付けられるように食べてしまいます。そしてアナフィラキシーを起こします。こんな人は他のアレルギーを持っている場合が多く、アトピー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのためにおこなった血液検査で発見された場合は予防ができます。
軽いアレルギーがあるものは、食べ続けていると激しい症状を起こすことなく「大好きなもの」と思われていることがあります。しかし、そのまま食べ続けていくと他の状況(感染症や腸内の状態、疲れや寝不足、他のアレルギーなど)が悪くなった時に突然アナフィラキシーを起こすことがあります。チョコレートやハンバーグなどの加工食品で起こすアナフィラキシーの場合によく見られる例です。アレルギー体質がある方はアレルギーを起こしやすい加工品を続けて食べないことで予防ができます。
アレルギがあることはわかっていましたが周りの方のアナフィラキシーに対する理解が足りなくてつい食べさせてしまい起こすことがあります。4才の卵とタラのアレルギーがある女の子が、お母さんの用事で隣のお家に預けられました。ところが、そこの家のお兄ちゃんが食べていたかまぼこをもらって食べてしまい、アナフィラキシーを起こしてしまいました。又、牛乳のアレルギーが強い4才の女の子が、普段は一緒に住んでいない祖母に大丈夫だからと飲むヨーグルトを勧められて飲んでしまい、アナフィラキシーを起こしたこともあります。これは事前によく説明することである程度は分かってもらえて予防することができますが、アナフィラキシーという病気を経験したことがない人にはなかなかその意味が理解してもらえません。もちろん、目の前でアナフィラキシーを起こされた方はもう2度とそんなことはしません。ですから、よく分かっているご両親が事故を予測して適切な対応を準備しておかなくてはいけません。おやつの場合は食べられるものをその子に持たせてから友人宅に預かってもらうことなどで対応できます。もちろん自宅にはアナフィラキシーを起こす原因となる食べ物やその他の物質はおかないようにします。1つ屋根の下に住む他の家族も食べないようにします。
以前にアレルギーがあり、アトピー性皮膚炎や気管支喘息などの治療のために食事を気をつけていましたが、元々の病気が良くなってきたため、少し食べ、大丈夫のようだと回数を重ね、安心してしまった頃にド〜ンとアナフィラキシーを起こすことがあります。幼稚園年長さんから小学生のころ、鶏卵やイクラなどの魚卵でアナフィラキシーを起こす場合でこのタイプは経験します。ご飯や野菜を中心にした食事を心がけ、過去にアレルギーを起こしたものは以前の時のような食べ方に戻すことはせず、常に注意しながら食べることで防ぐことができます。
いつもは食べても大丈夫な程度の軽いアレルギーがあるものを食べて、それに運動が加わるとアナフィラキシーを起こすことがあります。中学生や高校生以上の年令で食後数時間の間に、激しい運動を無理に行うようなことがあると発病します。この頃の年令になると腸管の未熟成がなくなるためでしょうか、ある食品単独ではアナフィラキシーを起こすことは少なくなります。しかし、アレルギーのある食品を食べて運動をすることでアナフィラキシーを起こす場合が目立つようになります。アレルギーがあるものを事前に知っておくこと、食べてしまったら運動しない、運動するならアレルギーのあるものは食べないなどのことで予防ができます。原因となる食品は小麦およびその加工品やエビが多く目立ちます。
年令がさらに高くなると、疲れが関係してアナフィラキシーを起こす場合が増えてきます。やっとのことで自分のお店(ブティック)を開店させた直後、疲れでアナフィラキシーを起こしたキク科花粉症の31才女性。開店9日目、頭痛のためバッファリンを服用し、アーモンドの入ったタルトを食べ、コーヒーを飲んだ頃よりじんましんが出現。腹痛・吐き気・下痢があり、トイレに行ったあと廊下で倒れてしまいました。キク科の花粉のアレルギーは強陽性でした。ブティックの開業の疲れ、解熱鎮痛剤による腸管吸収の亢進、開業のお祝いに飾ってあったマーガレットの花粉などが重なってアナフィラキシーを起こしたようでした。このような場合は、疲れた時に悪条件がかさならないようにすることで予防ができます。
特に、気をつけて欲しい時は、中学生や高校生の新入学の5月〜6月頃です。この時期は、新入学の疲れがたまって来る時期です。しかも、今までの大人からの管理を離れ、自分自身で生活や食べ方を決めていく年令になりますが、新入生は先輩や先生の言うことに従って行動することが多く、無理な生活を通してしまうことが多々あります。さらに、ダニの季節(春の衣更えのため、しまってあった衣類を出すことが多くなる。暖かくなり室内のダニやカビが増える)、花粉の季節(カモガヤなどイネ科花粉が飛散する時期になる。マーガレットなどキク科の花粉の季節になるなど)も重なります。実際、重症なアナフィラキシーはこの時期に起こっています。
アレルギーのある花粉症の季節(特にカモガヤなどのイネ科花粉症やキク科花粉症の時)、ダニの飛び散る季節などになるとアレルギー症状は出やすくなり、悪条件が重なるとアナフィラキシーを起こすことがあります。花粉やダニ、カビなどは吸い込んでアレルギー症状を起こすだけでなく、鼻水や痰と一緒に飲み込んで腸管にアレルギーを起こし、腸管の働きをおかしくさせる可能性があります。また、口・鼻・腸管粘膜から吸収された花粉はそれ自体がアナフィラキシーを起こす原因となる可能性があります。
30才女性、小学校の先生。イネ科の強い花粉症と小麦のアレルギーがありました。6月30日晴れた日、イネ科の花粉が多量に飛散する中で、球技大会があり出場しました。仕出しの酢豚弁当を食べた後再び運動したところアナフィラキシーを起こしてしまいました。実はこの方は前年の6月20日にも球技大会で仕出しの酢豚弁当を食べてアナフィラキシーを起こしていました。酢豚弁当はこの日に限らず食べていましたが何でもありませんでした。イネ科の花粉症と運動、酢豚弁当の重なりがアナフィラキシーに導いている可能性があります。こんな場合も重なりを避ければ予防ができます。特に、イネ科花粉症と同属の小麦のアレルギーが重なった時は要注意です。小麦のアレルギーがある人はイネ科花粉の飛散する季節は小麦のアレルギーに特に注意します。イネ科花粉症のある人は、イネ科花粉の飛ぶ季節には小麦製品の多食は避けなければいけません。
アナフィラキシーやじんましんなどアレルギー疾患を起こしやすい人の腸内細菌叢が乱れている場合が多くあります。調べてみると、腸管病原性大腸菌・腸管毒素性大腸菌・腸管侵襲性大腸菌やサルモネラ、キャンピロバクター、カンジダ(酵母カビ)の仲間など様々な病原性細菌・真菌などが増殖しています。この状態では腸管の持つ本来の働き、消化と吸収がうまく働かず、未消化の高分子の物質が体内に大量に侵入してしまい、アナフィラキシーを起こすことになります。常日頃から腸内の状態をなるべく正常に保つことが予防につながります。(参照→腸内のカビ・病原性細菌の話)
アスピリン(バッファリン®)やジクロフェナックナトリウム(ボルタレン®)などの解熱鎮痛剤、加工食品中の乳化剤、口の中に入ってしまう合成洗剤(練りはみがき、台所用の洗剤)などは腸管粘膜の吸収を高め、未消化の高分子の物質を体内に侵入させてしまい、アナフィラキシーを起こしやすくさせます。高校生以上の人のアナフィラキシーの場合には解熱鎮痛剤を服用している時にアナフィラキシーを起こす場合がみられます。アレルギーがある人は解熱鎮痛剤を極力使わないように心がけましょう。
14才男性。90年7月のある日、翌日が野球の試合(初めてレギュラーで出場予定)でよく眠られませんでした。翌朝は朝食に、ごはん、納豆、モモ、バナナを食べ、その後歯の痛みのため、アスピリン(バッファリン®)2錠を服用しました。その1時間後、自転車に乗り約7分で学校へ到着しました。ところが、学校に着いたとたん、のどがおかしくなり、目の痒みが始まり、目の前が真っ暗になり倒れてしまいました。救急車で当院へ搬入されましたが、血圧は40mmHgしかなくショック状態で、全身は赤く腫れ上がり、典型的なアナフィラキシーショックでした。実はこの男の子はバナナのアレルギーがあり、バッファリンの服用、寝不足、運動がアレルギーを起こしやすくさせたものと考えられました。
こんな方も時々見受けます。食べてはいけないことをわかってるのですが、どうしても止められません。予防法はありません。この人は諦めるより他仕方がありません。救急車で来ないことを願うばかりです。
季節でいえば他のアレルギー(ダニや花粉、猫や犬の毛が抜ける季節など)と重なる時が起きやすくなる傾向があります。
その子の年を追った経過からみると、アトピー性皮膚炎や気管支喘息が軽くなり「この子のアレルギーはよくなってきたんだ」と思う頃、それらがよくなって1〜2年した頃が一番危ないようです。急に太り始め「何だか、最近また具合が悪くなってきたので心配」と思っていると、突然、アナフィラキシーを発症という例が多く見うけられます。
アトピー性皮膚炎がひどい時にアナフィラキシーを起こした人は余り多くはありません。アトピー性皮膚炎の場合、アレルギーっ子はアレルギーの出場所を皮膚にして、内臓臓器を守っているのかもしれません。アトピー性皮膚炎が治ってきた時に、アレルギーの原因となる周りの環境や食べ物がうまくいかないと、出場所がないためアナフィラキシーを起こしてしまうのかもしれません。 アトピー性皮膚炎や気管支喘息などアレルギーの病気が良くなってきた時、生活環境の整備や食事療法の手を抜くのでなく、今まで勉強して身につけた事をしっかりと続けることが大切になります。
アナフィラキシーは急激に進行した場合、呼吸困難、血圧低下、そのための脳組織その他臓器の虚血状態が20〜30分続くため、この間をどのように対応するかが問題になります。アナフィラキシーのひどい状態が続く20〜30分の間なんとか脳や各臓器に血液を送り込めれば回復が期待できますが、5分以上脳への酸素供給が途絶えれば、回復は見込めなくなります。つまり、人工呼吸と心マッサージしかありません。したがって、アナフィラキシ−の最良の治療は発病しないように、つまり、予防なのです。 そこで、経験したアナフィラキシーの人達から教えてもらったことから、アナフィラキシーの予防法を考えてみました。
年齢別にみると、0才では生まれて初めて食べた食品(人工ミルクや卵など)で起こす場合があります。この場合は両親や兄弟にアレルギー体質があったら、離乳食を開始する前(4ヶ月以降)にアレルギー検査(IgE検査が簡単)を行なって、強いアレルギーがないことを確認しておくことで一定避けることができます。アレルギーが分かったら、アレルギーのある食品をきちんと除去することしかありません。
1才から思春期前までは、発症前に喘息発作や軽いじんましんを繰り返していたり、アレルギーのある食べ物を少しずつ食べていたなどの助走期間後に、急にアナフィラキシ−を起こすことが多くみられます。除去食療法をきちんと行ない、このような状況にならないように注意が必要です。
思春期から20才ぐらいまでは、激しい運動に注意が必要です。もし、アレルギ−のある食べ物を食べてしまった場合や、花粉症の季節、ダニの季節、疲れがたまっている時、体調の悪い時、寝不足の時などには無理な激しい運動は控えます。激しい運動をするのなら、ダニや花粉症に注意し、アレルギーのある食品は食べないようにしましょう。また、頭痛などの痛みに安易に解熱鎮痛剤を使うことは避けます。
20才台は免疫力が充実している時なのでしょうか、多少のことではアナフィラキシ−は起こさないようです。この年代は症例が少なくなります。
30才を過ぎたら、疲れ、寝不足などが続いた時に注意が必要です。特に厄年(男42才、女33才)を超えたら注意が必要です。
大切なことは、悪い条件がかさならないようにすることと思われます。
ダニや花粉のアレルギ−、疲労・寝不足・精神的不安定・生活の乱れ、感染症、お腹の悪い状態、激しい運動、アレルギ−のある食べ物をたべてしまうこと、解熱鎮痛剤の使用などが重ならないようにする事が大切と思われました。
何故か体調の悪い時に限って、アレルギ−のあるものを食べたくなって、抑えきれず食べてしまい、アナフィラキシィーを起こすことが多くあります。アレルギ−のある食べ物が何かを知っておき、体調の悪い時には食べないように注意すること、もし食べてしまった場合は無理に激しい運動はしないようにしなければいけません。そのことを、本人や周囲の方が知っていることが最悪の事態を回避するために必要と思われます。
最後に、急速にひどいアナフィラキシーショックを起こしてしまった本人は、全身が腫れ上がり、意識が無くなって一番ひどくなってしまった状態を知らない事があります。また、周囲の人達が大慌てで様々な対策をしたことを覚えていないことがあります。本人は意識がないため、記憶はないからです。自分の身に起こった最悪の出来事を分からないため、重症な病気ということを認識できないのです。病気の重大性が分からないと、何回も同じ原因でアナフィラキシーを起こすことがあります。そのため、アナフィラキシーが良くなった時に本人とその間の状況を話してあげ、どんなにひどかったか本人が分かるようにしてあげることが大切です。また、日記をつけて状態のひどさを書きとめておくと役に立ちます。もし余裕があったら、腫れ上がった顔や体を写真に撮ったりビデオに記録しておくことができれば良いのですが、大抵の場合はそんな余裕はないかもしれません。